2つの映画祭でグランプリを含む6冠を達成した、新鋭・淺雄望監督の⻑編デビュー作『ミューズは溺れない』が、3月18日より公開されることが決定。併せて大童澄瞳、萩原朔美、佐藤佐吉より推薦コメントが寄せられた。
美術部に所属する高校生の朔子は、船のスケッチに苦戦している最中に誤って海に転落。それを目撃した⻄原が「溺れる朔子」の絵を描いて絵画コンクールで受賞、絵は学校に飾られるハメに。悔しさから絵の道を諦めた朔子は、代わりに新たな創作に挑戦しようとするが、⻄原から「次回作のモデル」を頼まれてしまい…。アイデンティティのゆらぎ、創作をめぐるもがきなど、葛藤を抱えながらも前進しようとする高校生たちのひと夏を瑞々しく鮮烈に描き切った⻘春エンタテインメント。
2019年に撮影を開始し、新型コロナの影響により一時中断。2年がかりで完成した本作は、新人監督の登⻯門とされるTAMA NEW WAVEと田辺・弁慶映画祭の双方でグランプリに輝いた他、ベスト女優賞、観客賞など計6冠を獲得。テアトル新宿での田辺・弁慶映画祭セレクション内で初上映された際には1週間限定にもかかわらず口コミで満席回も出るなど、映画祭史に残る大変な盛り上がりをみせた。その後も全国各地で上映が行われ、東京での上映を待ち望む声が高まるなか、ポレポレ東中野での単独公開が決定した。
▼著名人からの推薦コメント&淺雄望監督コメント
■大童澄瞳(漫画家)
西原は多くをストレートに言う一方、木崎はあまり上手くものを言えないタイプ。しかし実は木崎は西原に対してだけは嫉妬心など本来隠したくなる感情も素直に吐露する様子が描かれ、この潜在的な相性の良さがあるコンビ像が気に入った。人を注意深く観察し、物事をはっきりさせる事で関係を確かなものにしようとする割に不安定な大谷など、パーソナリティを描き分ける力に秀でた作家だなと思った。人間は個体ごとに他者の仮想的な人格を内部に宿す事で、お互いを意思を持った人間であると認知し生きている。しかしそれ故に人は自分自身ではなく他人の中にある印象を気にし、自我を他者に委託して生きてしまう事がある。人間が人間になるには、他者ではなく自己の中に見つけた自我を他者と突き合わせ確固たる自己同一性を獲得しなければならないが、多くの人は何となくで大人になるものだ。芸術や恋愛の中で幸運にも自己同一性の獲得を経験する少年少女の姿を希望的に描いた本作が、人生の目的や自分が何者であるのかについて考えそびれた人間のもとへ届くことを願う。
■萩原朔美(前橋文学館館長)
旅に出よう。そう思った時に、心の中に清々しい風が湧き上がる。あの風が、『ミューズ は溺れない』を観終った人々の背中に沸き起こるだろう。その風の優しさ。今映画に必要なのは、こういう物語だ。最後に登場する魅力的な巨大なオブジェが、創造する事は他人を救い自分をも救ってくれる。そう言っていた。私も何か巨大なものを作りたくなった。
■佐藤佐吉((映画監督・脚本家・俳優)
ふたりの少女が互いを見つめるその真っ直ぐな視線が結果的に我々観客に突き刺さる。あなたはあなたなの?そう問われているようで震えてしまうのは恐怖なのか?いや恐らくまなざしのエクスタシー。でも最後は涙で震えてた。
■淺雄望(監督・脚本・編集)
揺らいでいてもいいよ、と言ってもらえて、不安定で歪な自分を許せたように思う。正しくなくてもいい。足りないままでもいい。自分らしさなんてものはわからないけど、確かに自分を前に向かせてくれた言葉は知っている。その、決して万能ではない言葉たちで、この映画はできている。あの夏の海で、もがきながら踏み出した一歩が思いがけず爽やかで、彼女たちの方舟に、私もつい手を添えたくなったんだった。この歪な映画が誰かに辿り着くよう願いを込めて。出会ってくれた誰かに、私はまた救われるんだと思います。
『ミューズは溺れない』
2023年3月18日(土)より、ポレポレ東中野ほかにて順次全国公開
監督・脚本・編集:淺雄望
出演:上原実矩 若杉凩 森田想 渚まな美 桐島コルグ 佐久間祥朗 奥田智美 新海ひろ子 菊池正和 河野孝則 川瀬陽太 広澤草
配給:カブフィルム
【ストーリー】 美術部に所属する高校生の朔子は、船のスケッチに苦戦している最中に誤って海に転落。それを目撃した⻄原が「溺れる朔子」の絵を描いて絵画コンクールで受賞、絵は学校に飾られるハメに。悔しさから絵の道を諦めた朔子は、代わりに新たな創作に挑戦しようとするが、⻄原から「次回作のモデル」を頼まれてしまい…。
©カブフィルム