今泉力哉「登場人物が嫌な思いをしないように。とってもすてきな言葉」伝説的コミックを映画化『アンダーカレント』今秋公開

世界絶賛の伝説的コミック原作を、『愛がなんだ』の今泉力哉監督が初映像化するヒューマンドラマ『アンダーカレント』が、2023年秋より公開されることが決定した。併せて、今泉力哉監督よりコメントが寄せられた。

家業を継ぎ、夫の悟と銭湯を切り盛りし順風満帆な日々を送るかなえ。しかし突然、悟が失踪する。彼の行方は一向に分からず、途方に暮れるかなえだったが、一時休業していた銭湯の営業を再開させる。そこに「働きたい」という謎の男・堀が現れ、ある手違いをきっかけに住み込みで働くことに。その日からかなえと堀の不思議な共同生活が始まる。友人から紹介された胡散臭い探偵・山崎とともに期間限定で悟を探しながら、穏やかな日常を取り戻しつつあったかなえ。しかし、ある事件をきっかけに、堀、悟、そしてかなえが閉ざしていた心の深層(アンダーカレント)が、徐々に浮かび上がってくる。

2004年8月より1年間に渡り「月刊アフタヌーン」(講談社)に連載され「まるで1本の映画を観ているようだ」、「何度も読み返したくなる」と漫画評論家の間や口コミで高い評価を得て、2005年10月には単行本が出版された豊田徹也の唯一の長編漫画「アンダーカレント」。その後も人気は衰えず、2009年パリで開催されたジャパンエキスポにおいて、フランスの批評家と記者が選出する「第3回ACBDアジア賞」を受賞、2010年には「漫画界のカンヌ映画祭」と呼ばれるフランス・アングレーム国際漫画祭のオフィシャルセレクションに選出された。さらに2020年にフランスメディアで発表された「2000年以降の絶対に読むべき漫画100選」では、世界中の名だたる漫画がランクインする中、本作は堂々の3位に選ばれるなど、フランスを中心とした海外でも人気を博している。日本をはじめ世界中でカルト的な人気を誇る伝説的漫画が、発売から18年の時を超え、満を持して遂に映画化される。

監督を務めるのは、『愛がなんだ』で社会現象を巻き起こし、その後も『あの頃。』、『街の上で』、第35回東京国際映画祭にて観客賞を受賞した稲垣吾郎主演作『窓辺にて』など話題作を次々発表、来月には有村架純主演『ちひろさん』の公開が控えるなど、いま日本映画界で最も支持を集める映画監督の一人・今泉力哉。ネット上では「静かな傑作」、「奥深い表現力」など絶賛の声が多数ある原作で描かれる繊細で静謐な人間ドラマを、見事な手腕で、みずみずしく、そしてリアルに映し出している。脚本は『愛がなんだ』の澤井香織が、今泉とともに手がけている。コミュニケーションツールが目まぐるしく発展すると共に、人間関係が希薄になりがちな今の時代だからこそ贈りたい、人を知ろうとすることの尊さを教えてくれる、心が震えるヒューマンドラマだ。この映画を観たら、そばにいる大切な人をもっと大切にしたくなる。そんな映画が誕生した。

また、発売から18年の時を経て今もなお途絶えることのない原作ファンの熱い声を受け、「アンダーカレント」単行本の重版が決定。全国の書店ならびにネット書店にて発売中だ。

■今泉力哉(監督)コメント
この世界にはそれが存在することで誰かが救われるという作品があって、そして、そういうものを生み出す人がいて、豊田徹也さんの「アンダーカレント」はそういう漫画で、豊田さんはそういう人だ。映画化にあたり、豊田さんと何度もふたりきりで会っていろんな話をした。はじめて会った日に4時間お茶をしたのだが、まだまだ話し足りなかった。帰り際、原田芳雄さんのエッセイ『B級パラダイス俺の昨日を少しだけ』をいただいた。豊田さんは「僕はいいんだけど、登場人物が嫌な思いをしない映画にしてください」と言った。登場人物が嫌な思いをしないように。とってもすてきな言葉だと思った。コロナ禍でお茶をしたある日、会計時に自分の分のコーヒー代を、きっとこういうご時世だからだろう、衛生面からラップにくるんでご用意してくださっていて。この繊細さをきちんと映画にしたいと思った。私はキリスト教徒なのだが、熱心な信者ではなくて、それでもたまに教会に行くと心が澄む感覚になるのだが、自分にとっての豊田さんはそういう人で、会うと心が澄む。とても繊細で面白い方で、日々、自分は映画監督に向いていないなと思いながら映画をつくっているのだが、こういう原作の映画化の話が来ることはとても光栄だし、きっと器用に生きることができない人にしか生み出せないものがあると信じて、これからも生きていきます。かなえや堀も、今もどこかで元気でいてくれたら。

『アンダーカレント』
2023年秋公開
監督:今泉力哉
脚本:澤井香織 今泉力哉
原作:豊田徹也「アンダーカレント」(講談社「アフタヌーンKC」刊)
配給:KADOKAWA

©豊田徹也/講談社 ©2023「アンダーカレント」製作委員会