『異物-完全版-』や『転がるビー玉』を手がけた宇賀那健一監督による新作長編映画『渇いた鉢』が、2022年に公開されることが決定した。併せてメインビジュアルがお披露目となり、主演の安部一希と、宇賀那監督よりコメントが寄せられた。
本作のテーマは、愛する家族を奪われてしまった1人の男性の喪失の物語。ひとくくりに〈被害者遺族〉と世間から呼ばれてしまう人々のやり切れない思い、理不尽な処遇。周囲の身勝手な好奇に晒されるという不条理…。どうしようもなく大きな喪失感に苛まれながらも、彼は何を思い、何を願い、何故生きるのか。不安定にぐらつきながら狂おしく歩む姿をただひたすらに描き切っている。
主人公・松村大地(まつむらだいち)役を演じるのは、プロデューサーも務め、今作が映画初主演となる俳優、安部一希。そして上司の三浦役に『さがす』(22)『由宇子の天秤』(21)等への話題作に出演が続いている松浦祐也や『シュシュシュの娘』(21)で市長役を演じ存在感を見せた三溝浩二など実力のある役者たちが出演している。
本作は、イギリスのアカデミー賞である英国映画テ レビ芸術アカデミー公認映画祭であるRomford Film Festivalで上映され、最優秀監督賞・最優秀主演男優賞・ 最優秀脚本賞・最優秀撮影賞の4部門にノミネート。そして観客賞である《Special Commendation》を受賞した。
■安部一希(松村大地役)コメント
テレビの中の出来事、自分達にとって一つのニュースでしかない事件。しかし確かに現実として存在している事実の下で何が起きているのか。目の届かない所にもやはり自分の知らない現実が必ずあります。この作品は殺人事件の被害者遺族を描いた映画です。しかしこうして乱暴に「被害者遺族」という言葉で括ってしまうのではなく、被害者となってしまった方々一人一人の悲しみや恨みや後悔があって人生があるという事を一人の男性を描く事で表現しました。宇賀那監督を始め沢山の方のサポートを頂き、初めて自ら映画を企画し、主演を務めさせて頂きました。そんな何もかも初挑戦の僕に文句1つ言わず素晴らしい仕事をして頂いたスタッフ・キャストの皆様と共に精一杯一つの命に向き合って作り上げた映画です。この作品を観ても明るく楽しい気持ちにはなれないかもしれませんが、何かもうちょっとでも生きる力となる物を拾ってもらえたらと願っております。
■宇賀那健一(監督)コメント
ずっと続くと信じて疑わなかった愛すべき平穏な日常なんて、だれかの悪意(ときにそれはその人にとって正義だったりもしますが)や厄災によって一瞬で崩れ去ってしまう可能性があることを、改めて突きつけられるような日々を僕らは生きています。平穏な日常が奪い去られてからも残された者たちは日々を生きていかなければならない。それは決して綺麗事ではないし、終わりが見えているわけでもない。この映画の登場人物たちもまた歯を食いしばりながら、そんな地獄のような日々を必死に生きています。この絶望に満ちた映画が、そんな愛すべき平穏な日常が過ぎ去ってしまった誰かの希望になるよう心から祈っています。
『渇いた鉢』
2022年、池袋シネマ・ロサにて公開
監督:宇賀那健一
出演:安部一希 三溝浩二 東龍之介 はぎの一 山本月乃 遠藤隆太 田中栄吾 青島心 贄田愛菜 髙木直子 志田織乃 松浦祐也 新海ひろ子 石原理衣 本山勇賢 竹崎綾華 川崎希 櫻井亜衣 峰秀一 飯田浩次郎 フェルナンデス直行
配給:vandalism
【ストーリー】 暗い部屋で独り、パソコンの光に照らされ、浮かび上がる男の姿。松村大地(安部一希)は無心に検索画面に言葉を打ち込み続けている…。彼は3年前に、最も愛する家族を見知らぬ狂気によって突然奪われてしまっていた。幼い娘を手にかけた犯人、いたずらに家族を責め立てて妻を追い詰めたマスコミや野次馬への憎しみ。何よりも2人を守れなかった自分に対する抱え切れない自責の念。時と共に簡単に忘れられ、風化していく事件。余りにも深い孤独の中、彼が今も生きる理由とは。松村大地はまたフラフラと街へ歩み出す。