「済州島のオモニ(母)たち、たくさん殺されたで」『スープとイデオロギー』予告編&著名人絶賛コメント

『ディア・ピョンヤン』『愛しきソナ』『かぞくのくに』のヤン ヨンヒ監督最新作『スープとイデオロギー』が、6月11日より公開される。このほど、予告編がお披露目となり、併せて、各界著名人より本作を絶賛するコメントが寄せられた。

本作は、「キネマ旬報ベスト・テン 日本映画ベスト・テン1位」「ベルリン国際映画祭・国際アートシアター連盟賞」を受賞した『かぞくのくに』から10年ぶりとなるヤン ヨンヒ監督の待望の新作で、家族と愛の物語。朝鮮総連の熱心な活動家だった両親は、「帰国事業」で3人の兄たちを北朝鮮へ送った。父が他界したあとも、“地上の楽園”にいるはずの息子たちに借金をしてまで仕送りを続ける母を、ヨンヒは心の中で責めてきた。突然、心の奥底にしまっていた「済州4・3事件」体験の記憶を語った母は、アルツハイマー病を患う。消えゆく記憶を掬いとろうと、ヨンヒは母を済州島に連れていくことを決意する。

予告編では、失われつつある母の記憶を描いたア二メーションや、『お嬢さん』『タクシー運転手 約束は海を越えて』などの音楽を手掛けるチョ・ヨンウクの楽曲が一部使用され、ドラマチックな本作への期待を高める。

▼著名人 絶賛コメント

■パク・チャヌク(映画監督)
人々はヤン ヨンヒについて「自分の家族の話をいつまで煮詰めているのだ。まだ搾り取るつもりか」と後ろ指をさすかもしれません。しかし私ならヤン ヨンヒにこう言います。「これからもさらに煮詰め、搾り取ってください」と。彼女の作品たちは、単純に、ある個人についての映画ではありません。普通は対立すると思われる二つのカテゴリーの関係について問い続ける映画です。その目録はとても長い。個人と家族、個人と国家、韓国と北朝鮮、韓国と日本、資本主義と共産主義、島と陸、女と男、母と父、親と子、新世代と旧世代、21世紀と20世紀、感情と思想、そして何よりもスープとイデオロギー。ヤン ヨンヒの母親、この老いた女性一人の顔を見つめながら、私たちはこれらすべてについて省察することができます。映画『スープとイデオロギー』は、ヤン ヨンヒのこれまでの作品のように、私たちがいつまでも噛み締めなければいけない思考の種を与えてくれます。ヤン ヨンヒは引き続き煮詰め搾り出し、私たちはこれからも噛み締めなければなりません。

■ヤン・イクチュン(俳優・映画監督)
オモニ(母)のレシピ通りにつくったあのスープの中には、どんな言葉でも語り尽くせないすべてが込められている。

■斎藤真理子(翻訳家)
この映画は記憶に関する映画でもある。一人の人が持ちつづけた記憶も、持ちきれずにあふれた記憶も歴史になる。歴史は一杯の巨大な器に入ったスープなのかもしれない。一人ひとりがその中に溶けているのか、一人ひとりの中にその器があるのか。どちらであるにせよ、このスープを大切に飲んで、飲んだことを記憶しよう。

■安田菜津紀(認定NPO法人Dialogue for People 副代表/フォトジャーナリスト)
オモニは少しずつ、「忘れて」いく。押し込めてきたあまりに凄惨な記憶を、誰かと分かち、託していくほどに。「もう忘れてもいいよ」と言えるほど、オモニの、人々の背負ってきた歴史を、私は知らなかった。そして、「知らなかった」で終わらせたくない。

■キム・ウィソン(俳優・映画監督)
新しい家族——映画『スープとイデオロギー』は、ヤン ヨンヒ監督の「家族ドキュメンタリー映画3部作」の最終章だ。『ディア・ピョンヤン』『愛しきソナ』で東京・大阪・ピョンヤンに分かれていた家族は、大きな変化を経験する。日本人・荒井カオルの登場である。真夏の大阪にスーツを着て、汗をかきながら現れた彼は、オモニ(母)が作ってくれた鶏スープを食べる。彼はオモニのレシピに沿ってスープを作り、オモニをもてなす。複雑な歴史をもつこの家族の中に、この日本人は一歩一歩溶けこんでいく。

■喰始(ワハハ本舗 作・演出家)
ヨンヒの作品を観ると、自分の家族について考えてしまう。父と母は、旧満州からの引揚者だった。姉と兄は残留孤児になる可能性があった。小学3年の時、父と母は離婚し新しい母が来た。その育ての母は、ヨンヒのオモニ同様に今は認知症だ。どんな家族にも、歴史がある。ドラマがある。日常がある。非日常がある。ヨンヒの作品を観ると、自分の家族を思い出す。

■キム・ユンソク(俳優・映画監督)
『ディア・ピョンヤン』『愛しきソナ』『かぞくのくに』これら宝石のような映画たちを観ながら、私が最も驚かされ気になった人物はオモニ(母)だった。『スープとイデオロギー』は、まさにそのオモニについての物語だ。

■是枝裕和(映画監督)
「私たち」のすぐ隣に住み、「私たち」とは違うものを信じて生きている「あの人たち」。彼らがなぜそのように生きているのか、なぜ「私たち」には理解できないものを信じようとしたのか。監督でもある娘が撮影を通して母を理解していくように、この作品を観終わるとほんの少し「あの人たち」と「私たち」の間に引かれた線は、細く、薄くなる。

■平松洋子(作家、エッセイスト)
『ディア・ピョンヤン』『かぞくのくに』、そして本作。ヤン監督による三作品を束ねる圧倒的な強度。むきだしの母の生の姿を追い、やがて現れる家族の真実に心臓を射貫かれる。

『スープとイデオロギー』
2022年6月11日(土)より、東京・ユーロスペース、ポレポレ東中野、大阪・シネマート心斎橋、第七藝術劇場ほか全国順次公開
監督・脚本・ナレーション:ヤン ヨンヒ
アニメーション原画:こしだミカ
エグゼクティブ・プロデューサー・出演:荒井カオル
配給:東風

【ストーリー】 朝鮮総連の熱心な活動家だった両親は、「帰国事業」で3人の兄たちを北朝鮮へ送った。父が他界したあとも、“地上の楽園”にいるはずの息子たちに借金をしてまで仕送りを続ける母を、ヨンヒは心の中で責めてきた。心の奥底にしまっていた記憶を語った母は、アルツハイマー病を患う。消えゆく記憶を掬いとろうと、ヨンヒは母を済州島に連れていくことを決意する。

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