『ディア・ピョンヤン』『愛しきソナ』『かぞくのくに』のヤン ヨンヒ監督最新作『スープとイデオロギー』が、6月11日より公開されることが決定した。併せて、ポスタービジュアルと場面写真がお披露目となり、俳優・映画監督のキム・ユンソク、映画監督の是枝裕和、作家・エッセイストの平松洋子より本作を絶賛するコメントも寄せられた。
本作は、「キネマ旬報ベスト・テン 日本映画ベスト・テン1位」「ベルリン国際映画祭・国際アートシアター連盟賞」を受賞した『かぞくのくに』から10年ぶりとなるヤン ヨンヒ監督の待望の新作で、家族と愛の物語。昨年「DMZ 国際ドキュメンタリー映画祭 2021 グランプリ ホワイトグース賞」「ソウル独立映画祭 2021 実行委員会特別賞」を受賞し、ついに日本公開となる。
朝鮮総連の熱心な活動家だった両親は、「帰国事業」で3人の兄たちを北朝鮮へ送った。父が他界したあとも、“地上の楽園”にいるはずの息子たちに借金をしてまで仕送りを続ける母を、ヨンヒは心の中で責めてきた。突然、心の奥底にしまっていた「済州4・3事件」体験の記憶を語った母は、アルツハイマー病を患う。消えゆく記憶を掬いとろうと、ヨンヒは母を済州島に連れていくことを決意する。
監督は、『ディア・ピョンヤン』『かぞくのくに』など、朝鮮半島と日本の悲劇的な歴史のうねりを生きる在日コリアン家族の肖像を親密なタッチで映し続けてきた、大阪出身のコリアン2世、ヤン ヨンヒ。なぜ父と母は、頑なに“北”を信じ続けてきたのか?ついに明かされる母の秘密。あたらしい家族の存在…。1948年、当時18歳の母は韓国現代史最大のタブーといわれる「済州4・3事件」の渦中にいたという。これまで多くの映画ファンを魅了してきた、あの“家族の物語”が、まったくあらたな様相をおびて浮かび上がる。ひとりの女性の生き様を通して、国家の残酷さと同時に、運命に抗う愛の力を唯一無二の筆致で描き出す。
©Emi Naito
ポスタービジュアルは、『人生フルーツ』や『戦場のメリークリスマス 4K 修復版』などを手掛けた成瀬慧が担当した。
■ヤン ヨンヒ(監督) コメント
本作で私は、初めて家族と「南(韓国)」との関係を描いた。『スープとイデオロギー』というタイトルには、思想や価値観が違っても一緒にご飯を食べよう、殺し合わず共に生きようという思いを込めた。1本の映画が語れる話なんて高が知れている。それでも、1本の映画が、世界に対する理解や人同士の和解につながると信じたい。私の作品が多くの人々にとってポジティブな触媒になることを願っている。
■荒井カオル(エグゼクティブ・プロデューサー・出演) コメント
「オモニ(母)のドキュメンタリー映画を撮ろうと思う」妻であるヤン ヨンヒ監督からそう告げられたのは、2016年のことだ。『ディア・ピョンヤン』『愛しきソナ』に続く新たなドキュメンタリー映画を作ると言う。当然ながら、その挑戦に水を差すどころか「映画を早く観たい。がんばれがんばれ」と背中を押した。だが、続く言葉を聴いてイスから転げ落ちた。「オモニとあなたを撮りたい。カメラを回してもいいかな。顔を映すのに差し支えがあるなら、首から下を映すとか、顔が映らないように工夫してカメラを回すから…」ドキュメンタリー映画の被写体になるという行為は、監督と共に海に身投げするようなものだと私は思う。中途半端な構えで『スープとイデオロギー』に参加すれば、荒海に揉まれて溺れ死ぬかもしれない。ヤン ヨンヒ監督と家族が生きてきた長大な時間と記憶の海に、思いきって飛びこんでみよう。カメラの前ですべてをさらそう。そう決めた。
▼著名人 絶賛コメント
■キム・ユンソク(俳優、映画監督)
『ディア・ピョンヤン』『愛しきソナ』『かぞくのくに』――これら宝石のような映画たちを観ながら、私が最も驚かされ気になった人物はオモニ(母)だった。『スープとイデオロギー』は、まさにそのオモニについての物語だ。
■是枝裕和(映画監督)
「私たち」のすぐ隣に住み、「私たち」とは違うものを信じて生きている「あの人たち」。彼らがなぜそのように生きているのか、なぜ「私たち」には理解できないものを信じようとしたのか。監督でもある娘が撮影を通して母を理解していくように、この作品を観終わるとほんの少し「あの人たち」と「私たち」の間に引かれた線は、細く、薄くなる。
■平松洋子(作家、エッセイスト)
『ディア・ピョンヤン』『かぞくのくに』、そして本作。ヤン監督による三作品を束ねる圧倒的な強度。むきだしの母の生の姿を追い、やがて現れる家族の真実に心臓を射貫かれる。
『スープとイデオロギー』
2022年6月11日(土)より、東京・ユーロスペース、ポレポレ東中野、大阪・シネマート心斎橋、第七藝術劇場ほか全国順次公開
監督・脚本・ナレーション:ヤン ヨンヒ
アニメーション原画:こしだミカ
エグゼクティブ・プロデューサー・出演:荒井カオル
配給:東風
【ストーリー】 朝鮮総連の熱心な活動家だった両親は、「帰国事業」で3人の兄たちを北朝鮮へ送った。父が他界したあとも、“地上の楽園”にいるはずの息子たちに借金をしてまで仕送りを続ける母を、ヨンヒは心の中で責めてきた。心の奥底にしまっていた記憶を語った母は、アルツハイマー病を患う。消えゆく記憶を掬いとろうと、ヨンヒは母を済州島に連れていくことを決意する。
©PLACE TO BE, Yang Yonghi