強制退去させられた都営霞ヶ丘アパート住民の最後の生活の記録から、五輪ファーストの陰で繰り返される排除の歴史を描くドキュメンタリーで、東京ドキュメンタリー映画祭にて特別賞を受賞した『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』が、8月13日より公開されることが決定した。併せて、特報映像がお披露目となった。
明治神宮外苑にある国立競技場に隣接した都営霞ヶ丘アパートは、10棟からなる都営住宅。1964年のオリンピック開発の一環で建てられ、東京2020オリンピックに伴う再開発により2016年から2017年にかけて取り壊された。本ドキュメンタリーは、オリンピックに翻弄されたアパートの住民と、五輪によって繰り返される排除の歴史を追う。
平均年齢が65歳以上の高齢者団地であるこの住宅には、パートナーに先立たれて単身で暮らす人や身体障害を持つ人など様々な人たちが生活していた。団地内には小さな商店があり、足の悪い住民の部屋まで食料を届けるなど、何十年ものあいだ助け合いながら共生してきたコミュニティであったが、2012年7月、このアパートに東京都から一方的な移転の通達が来た。2014年から2017年の住民たちを追った本作では、五輪ファーストの政策によって奪われた住民たちの慎ましい生活の一部や団地のコミュニティの有り様が収められる。また移転住民有志による東京都や五輪担当大臣への要望書提出や記者会見の様子も記録される。
監督・撮影・編集を手掛けたのは、本作が劇場作品初監督となる青山真也。そして音楽は、2013年「あまちゃん」の音楽でレコード大賞作曲賞を受賞した大友良英が務める。
■青山真也(監督) コメント
1964年のオリンピックの際に立ち退きがあったことを私は知らなかった。今回の霞ヶ丘アパートのことも、オリンピックが始まったら歓声と共に忘れられてしまうのではないかという危機感からこの映画を撮り始めた。国立競技場でイベントがあると、歓声がこのアパートの中まで響いた。夜には眠れなくほどの音量だったが、ある住民は「耳が遠くなった一人暮らしにはちょうどいい」と言っていた。コロナウイルスにより歓声をあげられない時代になって、私の危機感は斜め上に逸れていったが、よりタチの悪い状況ではある。東日本大震災からの復興五輪と言っていたのに、いつのまにかコロナを乗り越える五輪にすり替わって、これまでに湧き起こったオリンピックの様々な問題が覆い隠されてしまった。2021年4月末現在、コロナ禍でもオリンピックを強行しようとする政府の姿勢に対し、Twitter等では「オリンピックより命が大切」の声が上がりはじめた。この映画に映るアパート住民の何人かは移転後に亡くなっている。「命よりもオリンピックが大切」にされた結果だということは言うまでもない。
『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』
8月13日(金)より、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
監督・撮影・編集:青山真也
音楽:大友良英
整音:藤口諒太
配給:アルミード
【作品概要】 都営霞ヶ丘アパートは1964年のオリンピック開発の一環で建てられた。国立競技場に隣接し、住民の平均年齢65歳以上の高齢者団地であった。単身で暮らす者が多く、住民同士で支えあいながら生活していたが、2012年7月、東京都から「移転のお願い」が届く。2020東京オリンピックの開催、そして国立競技場の建て替えにより、移転を強いられた公営住宅の2014年から2017年の記録。
©Shinya Aoyam