森山未來「トレーニング中、ボクサーの方々がボクシングに取りつかれる、本能的なエネルギーを初めて感じた」

『百円の恋』、「全裸監督」の武正晴監督が、森山未來主演、北村匠海、勝地涼共演で贈る『アンダードッグ』が、11月27日より公開される。このほど、11月2日にEXシアター六本木にて東京国際映画祭「TOKYOプレミア2020」の公式上映が行われ、舞台挨拶に森山未來、勝地涼、武正晴監督が登壇した。

豪華キャスト陣による白熱のボクシングが繰り広げられた前編の上映を終え、熱気の冷めやらぬ観客たちの前に、主人公の崖っぷちボクサー・末永晃を演じた森山未來、芸人ボクサー・宮木瞬を演じた勝地涼、武正晴監督が登場。客席から大きな拍手とともに迎えられ、森山は「オープニングセレモニーには参加出来なかったので、今日参加できて嬉しく思います。後編も是非楽しんでください」、勝地は「台本をもらったとき、宮木という役に僕自身も共感するものがあったので、自分の抱えている悔しさを宮木の中に押し込んで一生懸命演じたつもりです。後半も感動の展開なので楽しみにしてください」、武監督は「僕も先ほどの前編を皆さんと一緒に鑑賞していたのですが、宮木に泣かされてしまいました。お客さんと観るのは緊張感があって楽しかったです」と挨拶した。

劇中では臨場感あふれるリアルなボクシングシーンが映し出されていくが、実際の撮影の様子について問われると、森山は「ボクシングシーンは撮影が進むうちにテンションも上がってくるのですが、あくまで撮影なので、長い付き合いの勝地くんとちゃんと冷静な部分も意識しながら、コミュニケーションを取り撮っていきました」と振り返り、勝地は「宮木は基本的に(森山に)殴られる役だったので、振り付けがあっても途中から何が起きているのかわからなくなることもあったんですが、そのたびに未來くんに確認してきっかけを作っていて、未來くんがひっぱってくれていましたね」とお互いの信頼関係の上で迫力のボクシングシーンが成り立っていたことを明かした。

クランクインの1年前から本格的にトレーニングしていたという森山は、「僕は格闘技経験が全くなかったので、ボクシング指導の松浦慎一郎さんと一緒にトレーニングしながら、基本的なところからスタートしました。それでも人を殴る、殴られるというのをしたことがなかったので、松浦さんやプロボクサーの方を相手にスパーリングをしっかり行わせていただいて、そこで初めてボクサーの方々がボクシングに取りつかれる、本能的なエネルギーを肌で感じていきました」とコメントし、勝地は「僕は芸人の役なので未來くんや匠海くんのようにボクシングが上手である必要はないんですが、“大振りしながら外す”という体力を削られる動きが多かったのが大変でした。ミット打ちや大振りの練習を重ねて、スタミナをつけるということも主にやっていきましたね。武監督もよく現場に来てくださって、“今のいいね!”と声もかけてくれたので、みんなで練習をしながら宮木のボクシングスタイルを作っていきました」と過酷な練習の裏側を語った。

ここで、劇中では才能を期待される若きボクサー・大村龍太を演じながらも、今回の舞台挨拶には出席が叶わなかった北村匠海より、森山、勝地、武監督へのサプライズ質問が到着。オープニングセレモニーでも「撮影中は誰よりも主役で、とにかく映画に魅了されている方」と北村が印象を明かしていた武監督には、「映画を撮ろうと決めたきっかけは?」という質問が。武監督は「最初の映画の現場で仕事をしたときに、監督の仕事には到底就けないと思ってしまうくらい素晴らしい監督に出会った。その後、助監督を15年続けるなかで、一本くらいは映画を撮らないとやってらんないなと思い始めまして…そこがきっかけでした」と懐述。

俳優として映画に出演するほかにも、舞台、またダンサーとしても活躍する森山へ、「人生における生き甲斐、気持ちいい、と感じる瞬間は?」という質問がされると、森山は「舞台であれば観客と同じ時間を共有できますし、映画であれば作品と観客のみなさんが一体になると思いますが、僕らに表現したいという想いがあっても観客の皆さんがいないと完結出来なくて、その瞬間が一番大事なんですよね。完結した時の皆さんの反応が良くて、皆さんの世界観や価値観を膨らませることが出来れば、僕にとってそれが一番の喜びだなと思います」と自身が携わる表現に対して並々ならぬ思いを明かした。

そして共に過酷な撮影を乗り越えた勝地へは、「撮影終了後に食べたご褒美メシは?ちなみに僕は家系ラーメンを替え玉して食べました!」という質問が投げかけられ、勝地は「匠海くん、僕だけ質問が浅くない?(笑)」と言いながら、「つけ麺ですね。未來くんと試合シーンのあとにご飯にいったのですが、その前につけ麺を食べました!」と笑顔で回答。森山にも同じ質問がされると、「前編の撮影後は勝地くんとご飯に行きましたが、後編の撮影後は匠海くんと一緒にご飯に行きました。何を食べるかということよりも撮影の後に『お疲れ様!』と言いながら同じ時間を共有できることが僕にとってはご褒美でしたね」と明かし、それに対して勝地が「未來くん、いいコメントいうわ」と羨まし気につぶやき、会場は笑いに包まれた。

さらに上映後は、森山、勝地、武監督が会場に残るほか、脚本の足立紳も参戦し、観客からの質問を募るQ&Aコーナーがスタート。映画好きの猛者たちからのするどい質問に、4人は圧倒されながらも笑顔で答え、大盛り上がりとなった。

▼Q&Aの内容を一部抜粋

Q:森山さんと勝地さんと北村さんらは、俳優としても、またボクシングスタイルに関しても、三者三様だったかと思うが、それぞれに違った演出をつけたり等はあったのか。

武監督:キャスティングは一番大事な演出だと思っています。今作ではシナリオが上がった段階で、森山さん、北村さん、勝地さん、と役柄に合っていると思った俳優を、最初からキャスティングすることができました。そしてこれだけの俳優さんなので芝居に関しては心配していませんでした。あとはボクシングだけだなと思っていたので、俳優たちとボクシング指導の松村さんと共にどのようなボクシングシーンにするかをひたすらに話していました。

Q:ボクサーとセコンドの関係性に胸が熱くなりました。セコンドを演じた方々とのエピソードがあれば教えて下さい。

森山:晃はジムの会長との関係性が良くないなかで、宮木との試合の経緯がありましたが、その間はセコンドである会長から晃に対するフォローはほとんどありませんでした。宮木のセコンドであるロバート・山本博さんが演じる村石は宮木に親身に寄り添っているし、龍太のセコンドは全キャストのボクシング指導をしてくれていた松浦さんが演じていて、僕はずっと“いいな〜。あの人がそばにいるとどれだけ心強いか…”と思っていましたね(笑)。末永晃としても、ますます追いつめられている感じがしていました。

勝地:ロバートの山本さんは、芸人さんであり、プロボクサーで試合に出た経験もあるので、共演させていただき嬉しかったです。撮影中はアドリブで声をかけてくださったり、試合中の椅子に座ったときのケアの仕方にも安心感がありました。山本さんが実際に試合をしていた時の映像も観させていただいたのですが、試合に勝って腕を振り上げている佇まいが胸に来るものがあって…。宮木の試合シーンでもその印象を重ねて演じていました。そして、劇中で宮木の腕を支えてくれているのは山本さんで、そこにも繋がるものがあるなと感じていました。

最後に、森山は「本日は長丁場のなかありがとうございました。このような状況の中ですが、この作品は、前に進むことや立ち上がろうとすることにきっかけを与えてくれるような、試合の勝ち負けを超えた先にあるきっかけを掴むことを後押ししてくれるような作品になっていると思います。是非、沢山の方にご覧いただきたいです」、そして武監督は「このような状況で、この映画をまさか完成させることが出来て、2020年の東京国際映画祭で観ることができたという、非常にまれな瞬間を共有できていると思っています。ボクシングの試合において、観客の存在って大きいんだろうなとこの作品を通して感じました。映画も観客がいないと映画にならないと思いますし、改めてそう感じることの出来る瞬間に今日立ち会えて本当に良かったと思っています。是非いろんな方とこの映画について語り合ってください」とメッセージを送り、イベントは幕を閉じた。

劇場版『アンダードッグ』<前編><後編>
11月27日(金)より、ホワイトシネクイントほか全国公開
監督:武正晴
原作・脚本:足立紳
音楽:海田庄吾
主題歌:石崎ひゅーい「Flowers」
出演:森山未來 北村匠海 勝地涼 瀧内公美 熊谷真実 水川あさみ 冨手麻妙 萩原みのり 風間杜夫 柄本明 佐藤修 竹原慎二 山本博(ロバート) 友近 バッファロー吾郎A 好井まさお じゅんいちダビッドソン ツムラフェスティバル ジャッキーちゃん
配給:東映ビデオ 

【ストーリー】 手にしかけたチャンピオンへの道からはずれた今も“かませ犬(=アンダードッグ)”としてリングに上がり、ボクシングにしがみつく日々をおくる崖っぷちボクサー・晃(森山未來)。幼い息子には父親としての背中すら見せてやることができず“かませ犬”から“負け犬”に。プライドも粉砕され、どん底を這いずる“夢みる”燃えカスとなった晃は、宿命的な出会いを果たす。一人は、 “夢あふれる”若き天才ボクサー・龍太(北村匠海)。児童養護施設で晃と出会いボクシングに目覚めるが、過去に起こした事件によってボクサーとして期待された将来に暗い影を落とす。もう一人は、夢も笑いも半人前な “夢さがす”芸人ボクサー・宮木(勝地涼)。大物俳優の二世タレントで、芸人としても鳴かず飛ばずの宮木は、自らの存在を証明するかのようにボクシングに挑む。 三者三様の理由を持つ男たちが再起という名のリングに立つとき、飛び散るのは汗か、血か、涙か!?

配信版『アンダードッグ』
2021年1月1日より、ABEMAプレミアムにて配信開始

©2020「アンダードッグ」製作委員会