蒼井優「この状況でも映画は海を渡るという喜びを噛みしめている」、高橋一生「これがベネチアの空気なんだ」

日本を代表する映画監督・黒沢清が、主演に蒼井優、共演に高橋一生を迎え、6月6日にNHK BS8Kにて放送された同名ドラマを、スクリーンサイズや色調を新たにして映画化する『スパイの妻』が、10月16日より公開される。このほど、9月9日にスペースFS汐留にて第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門のリモート公式会見と、日本のマスコミ向けの会見が行われ、キャストの蒼井優、高橋一生、そして黒沢清監督が登壇した。

■ベネチア国際映画祭会見

はじめに、黒沢監督からベネチア映画祭の会見や駆けつけたジャーナリストへお詫びの言葉が述べられた。

黒沢監督:東京からリモートで会見をさせていただいていることを光栄に思うと同時に、そちらに駆けつけてくださったジャーナリストのみなさまに、イタリアにうかがうことができず、すみませんでしたと謝りたいです。

Q:このテーマを選んだ理由は?
黒沢監督:社会と個人が引き裂かれ、対立するわかりやすい職業・存在としてスパイがいました。それ以上に、スパイと聞いた瞬間、ある種の映画的魅力が発揮できるんじゃないか?と思うような、映画に撮って魅惑的な言葉のひとつだと感じました。

Q:仲が良いように見えつつも互いに秘密を抱える夫婦、聡子と優作をどのように演じたのか?
高橋:聡子(蒼井優)と優作(高橋一生)の関係性は非常に繊細です。互いに思い合う形が違う。表層的なものと、(実際に)内側で思っているもの違いを、黒沢監督が切り取ってくださった。優作を演じる際は、個人の主観やバイアスもあるでしょうが、脚本に忠実に、目の前にいる蒼井さんとお芝居を通して会話することを心がけていました。

蒼井:優作さんがいるから、自分がいるという感覚だったのが、途中から優作さんと共に生きる喜び、一緒に何かを成し遂げようとする喜び、一心同体になっていく喜びを持つようになり、物語を動かしていると思い、その気持ちを大切に演じました。私は怠け者ですが(笑)、聡子の生命力に負けないように、衝動に置いていかれないように演じたつもりです。

監督、キャストへの質問と共に、発表されたばかりのアカデミー賞の審査基準についてどう思うか、といった質問が出るなど、国際映画祭らしい議論の場となった。

■日本マスコミ向け会見

Q:映画祭に参加できなかったが会見に参加してどうだったか?
蒼井:手塩をかけて作った作品がベネチアの観客に触れるという、とんでもない緊張感を含めての映画祭。そこに行けないことを実感するとともに、この状況でも映画は海を渡るという喜びを噛みしめています。こういう形で映画を喜ぶ瞬間があり、映画祭の灯が消えないようにつながっている。それが今年限りであることを祈っています。

高橋:外国語が飛び交う質疑応答で、内容の鋭い、意義のある質問をされる方もいて、改めてこれがベネチアの空気なんだと、感じていました(笑)。残念という気持ちもありますが、リモートであっても参加させて頂けることを光栄に思い、汐留からベネチアを楽しみました。非常にいい経験ができたと思っています。

黒沢監督:(中継が)繋がってイタリア語が聞こえてきた瞬間に「ベネチアだ」と思ったけど、(会見が終わって)通信が途絶えると「汐留だなぁ…」と(苦笑)。現地に行っていれば、会見が終わってもベネチアで、いろんな質問をされたり、熱気を感じたり、それが映画祭の醍醐味なんですが…。

黒沢監督は冗談を交えつつも無念さをにじませる。それでも、会見での現地記者からの鋭い質問に映画祭の熱気を感じたようで、「作品が難しい質問の一番良い答えになってくれることを祈るばかりです」と語っていた。

Q:高橋さんと蒼井さんについて、国際映画祭の場で世界に向けて誇れる魅力は?
黒沢監督:どこも素晴らしいけど、声が特に素晴らしい!声が素晴らしい人は、後ろを向いてても、遠くにいても、場合によっては画面にいなくても存在感が強烈にこちらに伝わってきます。声のすばらしさに関しては、世界のどの人が見ても、「この人はどんな人なんだろう?」と興味がわく強烈な魅力を持っていると思います。

黒沢監督は二人の俳優に賛辞を贈り、『スパイの妻』が世界に通じる自信をうかがわせた。質問の絶えない記者会見は夜遅くまで続き、会場は熱気に包まれた。

『スパイの妻』
10月16日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督・脚本:黒沢清
脚本:濱口竜介 野原位
音楽:長岡亮介
出演:蒼井優 高橋一生 坂東龍汰 恒松祐里 みのすけ 玄理 東出昌大 笹野高史
配給:ビターズ・エンド

【ストーリー】 1940年、神戸で貿易商を営む優作(高橋一生)は、赴いた満州で偶然恐ろしい国家機密を知り、正義のため、事の顛末を世に知らしめようとする。聡子(蒼井優)は反逆者と疑われる夫を信じ、スパイの妻と罵られようとも、その身が破滅することも厭わず、ただ愛する夫とともに生きることを心に誓う。太平洋戦争開戦間近の日本で、夫婦の運命は時代の荒波に飲まれていく…。

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