坂本龍一が劇伴を担当した、ツァイ・ミンリャン監督作『你的臉(原題)』が、邦題『あなたの顔』として4月に公開されることが決定した。
1992年に『青春神話』で映画監督デビューを果たし、第二作『愛情萬歳』(1994)でベネチア国際映画祭金獅子賞を、第三作『河』(1996)でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞するなど、生み出す作品は常に世界の注目を浴び、巨匠へと昇りつめたツァイ・ミンリャン。しかし、ベネチア国際映画祭で審査員大賞を受賞した2013年の『郊遊<ピクニック>』を最後に商業映画から離れることを宣言。近年は舞台演出やアートインスタレーションなどを制作していた。
そんなツァイ監督が5年ぶりに放つ本作は、台湾に暮らす市井の人々と、ツァイ・ミンリャン作品になくてはならない俳優・監督のリー・カンションが出演するドキュメンタリー。カメラの前で自由に話し、動く登場人物の“顔”を、極端なクローズアップと洗練されたライティングによって細部まで映し出す。目や口元、そしてそれぞれの“顔”に刻まれた皺が、人々の生きてきた時間を象徴する。
ベネチア国際映画祭でワールドプレミアを迎えた際には、「彼の映画人生の新たな一歩を踏み出した」(ハリウッドレポーター誌)と言わしめた本作。その後、台北電影節で最優秀ドキュメンタリー賞と監督賞、音楽賞を、金馬奨で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞、2018年の東京フィルメックスでも上映された。そして、第二作『愛情萬歳』以降、既成楽曲のみを使用してきたツァイ・ミンリャンにとって、24年ぶりとなるオリジナル劇伴を坂本龍一が担当。監督から直々に連絡をとり、奇跡のコラボレーションが実現した。本作によって坂本は、台北電影節の音楽賞を受賞した。
■坂本龍一(音楽) コメント
3年前のある日、僕はヴェニスの浜辺をぶらぶら歩いていたのだが、遠くで「サカモトー」と呼ぶ声が聞こえた気がして、ふと振り返るとツァイさんが満面の笑顔でこちらに手を振っている。警戒心の微塵も感じられない、なんと親愛に溢れた表情なんだろうと、なかば呆気にとられる。その時、この人のためなら何でもしてやろうと思ったのだった。それから数ヶ月後にツァイさんのオフィスから連絡があり、新しい映画のために音楽を作ってくれと。ぼくはすぐにもちろんと返事をする。音楽の方向性はと聞くと、何もない、好きにやってくれという答え。送られてきた映像を見て、早速いろいろな音を試してみる。いわゆる「音楽」は似合わない。音と間が必要だ。あのミニマルな映像に適切な音、間とはなにか。最初にピアノで試し、それを映像に合わせてみると、非常にせわしない。だめだ、忙しすぎる。音楽独自の時間が映像の邪魔をしてしまう。今度は映像を見ながら、音を出していく。そういうプロセスを繰り返しながら、納得のいく間をとっていく。この作業にはどんな理論も役に立たない。ひたすら感覚の命ずるところによって決めるのだ。数日して、音と間による12のピースができ、それを監督に送る、「自由にお使いください。切り刻んでも、全く使わなくても自由です」というメッセージを添えて。完成した『あなたの顔』を観て、特に嬉しかったのは、最後の室内のシーンのために作った音を、ツァイさんはやはりそのシーンに使っていたことだ。言葉を交わさず、映像と音だけで意思が通じたと確信できる出来事だった。このように幸福な映画音楽プロジェクトは人生で度々あるものではない。
『あなたの顔』
4月 シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
監督・製作総指揮:ツァイ・ミンリャン
音楽:坂本龍一
出演:リー・カンション
配給:ザジフィルムズ トランスフォーマー
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