森山未來「カザフ語はスカイプを使って勉強した。現場でセリフが変わってもそれしか言えないし、誰よりもセリフを覚えていたと思う(笑)」

森山未來と、『アイカ』(原題)で第71回カンヌ国際映画祭最優秀主演女優賞に輝いたサマル・イェスリャーモワがダブル主演を務める、日本とカザフスタンの合作映画『オルジャスの白い馬』が、1月18日に公開初日を迎えた。それを記念して、新宿シネマカリテにて初日舞台あいさつが行われ、森山未來、竹葉リサ監督が登壇した。

MCが胸をつかまれるような映画であったと感想を述べると、森山は「ただの楽しい映画ではないと思います。皆さんがどんな読後感をお持ちなのかすごく気になります。ストーリーなども重要なんですが、この映画はそれよりももっと大きなものを描こうとしているのかなと。一言で言うのは簡単ではないですが、“台地に溶ける”というんでしょうか」と、完成した映画への印象を語った。

竹葉監督は、森山をキャスティングした理由として「もともと、演技の芸術性が高い方だと思っていました。カザフスタンでの撮影は本当に過酷な現場になります。森山さんはイスラエルに留学した経験もありますし、乗馬の経験もあります。それで、“森山さんしかいない”ということでお願いしました」と説明。また、カザフスタン人監督との共同作業について、竹葉監督は「脚本の段階では日本とカザフのスタイルを合わせるためにかなり試行錯誤もありましたが、伝えたいものがすでに一致できていた編集ではスムーズだったと思います」と自信を込めた。

映画の撮影を通じて初めて訪れたカザフスタンの魅力について、森山は「カルチャーショックとはまた違う、原風景を見ているような場所でした。人間が立ち返る場所、自然の中に生かされているという感覚は、僕の中に宝物のように残っています」と振り返る。自身が演じた謎に満ちたカイラートという人物については「カイラートとは多くを語らない存在です。どうして家族から離れなければならなかったのか、どうして戻ってくることができなかったのかということは映画でもはっきりとは描かれていません。でも編集された後のものを見ると、そういう時世を表すようなものは全て抜かれていきました。僕はこういう感じを好きだなと思いました」と、作品が持つ“語らない”魅力を説明した。
それに対して竹葉監督は、「ソ連崩壊の1990年前後という時代設定で、カイラートがそこに至る人生というのは、シナリオとしては裏では存在しています。人が生きているという輪郭が残ればいいと考えていました」と、作品の狙いを語った。

森山は、本作で日本のものとは全くスタイルの異なる“カザフ”流の乗馬にも挑戦した。そのことについて、「向こうの馬は本当に荒いんです。草原で走ることに慣れているんだと思います。『モンゴル』(2008)でスタントをやられていた一流の方が付いてくれました。それで一度、映画にも出てくる“馬追い”をやってみたんですが、馬がどうしても走り続けて止まってくれなくて、さすがに無理でしたね(笑)」と振り返った。さらに、過酷だったというカザフスタンでの撮影を振り返りながら、「エルラン(・ヌルムハンベトフ/カザフ側の監督)は人柄のよさがにじみ出ている方で、スタッフも皆さん本当にあったかくて仲良くなることができました。いつでもカザフに戻りたいなと思います」と懐かしんだ。カザフ語をどのように覚えたのかという質問には、「この映画の撮影前、日本にいなかったので、ネットでスカイプを使って勉強しました。カザフの方と週何回か、そのペースを増やしていったんです。現場では直前にセリフがどんどん変わっていきましたが、何を言われてもそれしか言えないですし、誰よりもセリフを覚えていたと思います(笑)」と明かす。

現場での数々の驚きのエピソードに対して、竹葉監督は、「もし<俳優>という競技がオリンピックにあったとしたら、森山さんは確実に金メダルをとれるんじゃないかと思います(笑)。現場でどんどん変わっていくシナリオに対応しながら馬にも乗ったりして」と最大級に称えた。

最後に、森山は「この作品に関われて本当に光栄でした。皆さんがどう感じたかを聞いてみたいですし、カザフスタンの風を皆で共有できたらと思います」と挨拶し、竹葉監督は「エルランと出会ってから365日、この映画の企画を通すことだけを考えていました。こうして映画館で観さんにご覧いただくことができるのは、本当に感無量です」と締めくくった。

『オルジャスの白い馬』
1月18日(土)より新宿シネマカリテほか全国ロードショー
監督・脚本:竹葉リサ エルラン・ヌルムハンベトフ
撮影監督:アジズ・ジャンバキエフ
出演:森山未來 サマル・イェスリャーモワ マディ・メナイダロフ ドゥリガ・アクモルダ
配給:エイベックス・ピクチャーズ

【ストーリー】 夏の牧草地、草の匂いが混じった乾いた風、馬のいななく声。広大な空に抱かれた草原の小さな家に、少年オルジャスは家族とともに住んでいる。ある日、馬飼いの父親が、市場に行ったきり戻らない。雷鳴が轟く夕刻に警察が母を呼び出す。不穏な空気とともに一家の日常は急展開を迎える。時を同じくして、一人の男が家を訪ねてくる…。

©『オルジャスの白い馬』製作委員会