鈴木茂「砂の女」を演奏♪「木の状態がギターの重さ、音にも影響すると改めて感じた」『カーマイン・ストリート・ギター』

第75回ベネチア国際映画祭や第43回トロント国際映画祭など多くの映画祭にて好評を博した、ニューヨークにあるギターショップの1週間を捉えたドキュメンタリー『カーマイン・ストリート・ギター』が、8月10日より公開中。このほど、8月24日に渋谷のシアター・イメージフォーラムにて公開記念トークショーが行われ、ミュージシャンの鈴木茂と音楽評論家の萩原健太が登壇した。

はじめに、本作を絶賛する鈴木は「職人は、作る気持ちや姿勢というのが一番大事。職人を、そこまで突き動かすものは何か?それは素材だったりするんですよね。主人公のリック・ケリーさんのようにニューヨークの廃材を使うという部分もそう。これって世界共通だと思います」と開口一番、自身が感動したポイントを語り、続けて「特にリックさんは僕のアンプを修理してくれる職人の方と共通する部分があって、しみじみいいなぁ…と感じました」と感慨深そうにしつつ、「でも僕が本作で1番面白いと思うシーンは、リックさんたちが“あの”廃材を持ち出しちゃうことだけどね(笑)」と、面白かったポイントを明かし、観終えたばかりの観客の笑いを誘った。

実際に「カーマイン・ストリート・ギター」へ訪れた経験があり、本作のパンフレットにも寄稿している萩原は、「実は、僕、間違って入ってしまったことがあるんです。当時アコースティックギターを探していたから、すぐ出ちゃったんですけど、今思えば惜しいことしたなぁ(笑)。そんな一瞬の印象ではありますが、独特な雰囲気を醸し出しているんですよね」と当時の貴重な経験を語った。

続いて、ニューヨークの建物の廃材からギターをつくるユニークさについて鈴木は「ギターが量産されている今、こういった一点物というのはこれからますます価値があがるんじゃないですか」とコメント。そしてなんと、特別にニューヨークから直輸入したリック・ケリーの実際のギターが会場に登場。観客からは一斉に驚きの声が上がり、鈴木の手に渡ると興奮する人が続出した。さらに、鈴木が「丸太を半分に切ったようなネックの太さですね!どうしてこうなったんだろう…」とリックのギターを不思議そうに眺める様子に会場からは笑いが。萩原も「そこが彼のこだわりなんでしょうね」とフォローしつつもギターに興味津々。「自分独自の新しい形を追求しているよね」と鈴木はギターから感じ取ったリックの職人魂を伝えた。

リックが集めてくる廃材は、建物の一部として使用されていたこともあり、十分に乾燥しきっていることからギターにすると音が良く、本編では、大御所ギタリストらが弾く音に酔いしれるのも見どころである。現在20本のギターを所有している鈴木は、「例えば、70年代後半~80年代の楽器ってなぜか重かったり、58~62年代のギターは、どこのメーカーのものでも音が良かったりします。本作を観て、木の状態が重さにも音にも影響してくるのだなぁ、と改めて感じることができました」とリックのギターを持ちながらしみじみ。萩原は「本作を何度も観ると、泣けてくるシーンがたくさんあるんですよ。ギタリストたちがどういう目的で訪れるかという、短いけれどそれぞれのストーリーが垣間見えて面白いんです!」とコメント。鈴木も「リックさんも訪れた人々の意見をギターに反映しているのが分かる」と語り、「本作で僕が一番注目しているのは、現代のアメリカで、将来的に値段が高くなってしまうかもしれないけれど、こだわりを持ったギターをそこまで高く売らずにいる姿勢です。欲しいと思わせてくれることがすごいし、尊敬します」とリックを最後まで絶賛した。

最後に、「茂さん、もし良ければ一曲弾いてください!」と、今か今かと鈴木がギターを弾くのを待ちわびる観客の思いを伝える萩原。すると、鈴木は自身のシングル「砂の女」を特別に披露。鈴木の大サービスに会場も今日一番の盛り上がりを見せ、トークショーは終了した。

『カーマイン・ストリート・ギター』
8月10日(土)より全国公開中
監督・製作:ロン・マン
編集:ロバート・ケネディ
音楽:ザ・セイディーズ
出演:リック・ケリー ジム・ジャームッシュ(スクワール) ネルス・クライン(ウィルコ) カーク・ダグラス(ザ・ルーツ) ビル・フリゼール マーク・リーボウ チャーリー・セクストン(ボブ・ディラン・バンド)
配給:ビターズ・エンド

【作品概要】 グリニッジ・ヴィレッジに位置する「カーマイン・ストリート・ギター」。店員は、パソコンも携帯も持たない寡黙なギター職人のリック・ケリーと、ちょっとパンキッシュな装いの見習いシンディ、そしてリックの母親の3人のみ。世界中のギタリストを魅了する、この店だけの“ルール”、それは、ニューヨークの建物の廃材を使ってギターを作ること。工事の知らせを聞きつけるたび現場からヴィンテージ廃材を持ち帰るリックは、傷も染みもそのままにギターへ形を変えるのだった。大御所ギタリストらから愛され、変わらずにあり続けるギターショップの一週間を捉えたドキュメンタリー。

©MMXVIII Sphinx Productions.