完成から5年、大阪西成区・釜ヶ崎に漂着する若者を描写した『解放区』が10月ついに公開!

友人の自殺を直視したドキュメンタリー映画『わたしたちに許された特別な時間の終わり』が国内外で反響を呼び、また俳優としても活躍の場を拡げる太田信吾監督が、再開発に揺れる大阪の西成区・釜ヶ崎に漂着する若者をリアリティあふれる描写で表現した初の長編劇映画『解放区』が、10月18日より公開されることが決定した。

本作は、2014年、大阪での映像制作者の支援と映像文化の発信を目的とするプロジェクト<シネアスト・オーガニゼーション大阪(通称:CO2)>で、大阪市からの助成金を得られる企画募集において、対象監督として選定され、大阪アジアン映画祭での上映を目指して制作が開始されたが、映画完成後、大阪市より釜ヶ崎(あいりん地区)の描写が「相応しくない」という理由で内容修正指示を受けた。しかし、太田監督は修正を拒否し、それによって大阪アジアン映画祭での上映も中止となった。話し合いの結果、最終的に太田監督は助成金を返還し、『解放区』は監督の自主制作映画として東京国際映画祭やゆうばり国際ファンタスティック映画祭などで上映され話題となっていた。

撮影は、NPOや商店街の店主をはじめ、地元住民の後押しのもと敢行された。ドキュメンタリーの手法を使い、そこで息づく人々の「生きる様」を生々しく映し出した。「貧困や病気、犯罪は、個人の問題ではなく、社会システムを受容しているわたしたち1人ひとりに起因する」という監督の強い信念のもと制作された。

■阪本順治監督 絶賛コメント
ここ何年もの間に観た劇映画の印象がすべて吹っ飛ぶぐらい、衝撃を受けました。社会性を持ちながら、劇映画本来の醍醐味がここにあります。俳優の存在力、カッティング、自在に動くカメラ、音や音楽など、低予算にも関わらず条件の厳しさはまったく感じさせず、いまの映画業界に愚痴ばかり言っている私は、ですから、ひどく落ち込みました。そして遠い昔、勝新太郎さんが私に言った「サカモト、映画はね、裏切りとすれ違いで成り立ってるんだよ」という言葉を思い出しました。加えて、「フィクションはノンフィクションのように、ノンフィクションはフィクションのように、作るべし」とよく先達が言っていましたが、そのどちらでもありどちらでもないありかたに驚きました。あらためて、撮影隊=芸術を受け入れる度量の深さをあの町に感じ、それでいて『解放区』はその題名のとおり、決してあの地域のみに特化した作品ではなく、この国に住む私たちの脆弱な精神性(排除や偏見や憎悪)にも関わる物語として、あらゆる場所へ越境して行くべき作品です。2020年、2025年のバカ騒ぎに向けて、日本の繁栄を最底辺から支えてきた人間たちと、その営みを覆い隠して、なんのための国づくりなのか。自戒も含め、まずは映画人が観るべき映画。主人公の自業自得は、あまりに痛快。傑作!

■太田信吾監督 コメント
映画『解放区』を大阪市西成区・釜ヶ崎で撮影して5年。様々な困難を経て、劇場公開が決まった事を嬉しく思います。今年は釜ヶ崎にとって節目の年です。ドヤ街の象徴でもあった通称「あいりんセンター」が建て替えのため仮移転になり、現在の建物は取り壊しになるのです。撮影当時、街のそこかしこに立っていた密売人達は、表通りから姿を消しました。ゲストハウスや介護・福祉施設に用途を変える簡易宿泊所も増え、「日雇い労働者の街」だった釜ヶ崎は大きな変動の時期にあります。この映画はそんな変わり行く街・釜ヶ崎を記録・記憶した貴重な映画です。みなさんとシェアできたら嬉しいです。劇場で、お待ちしております。

『解放区』
10月18日(金)よりテアトル新宿にて公開
監督・脚本・編集:太田信吾
出演:太田信吾 本山大 山口遥 琥珀うた 佐藤亮 岸健太朗 KURA 朝倉太郎 鈴木宏侑 籾山昌徳 本山純子 青山雅史 ダンシング義隆&THE ロックンロールフォーエバー SHINGO★西成
配給:SPACE SHOWHER FILMS

【ストーリー】 先輩ディレクターとの理不尽な上下関係、制作時の被写体との接し方に疑問を持ちながらも、小さな映像制作会社で働きながらドキュメンタリー作家になる事を夢見るスヤマ。未だその途中にありながらも、夢を語り理解を示してくれる恋人もいる。ある日、取材現場での先輩の姿勢に憤りを爆発させてしまうスヤマ。やがて仕事での居場所を無くした彼は、自らの新たな居場所を探すかのように、かつて希望を見失った少年を撮影したことのある釜ヶ崎へ向かう。しかし、1人で問題に向き合えないスヤマは、東京で取材した引きこもりの青年を呼びつけたり、行きずりの女性に愛を語ったりと切実さに欠ける取材を続ける。少年を探しながら街をさまよう日々。やがて、自らの甘さがもたらした結果から、スヤマは一歩また一歩と道を踏み外し始めるのだった。

©2019「解放区」上映委員会