今からおよそ100年前、「映画(活動写真)」がまだサイレントでモノクロだった頃、日本では楽士の奏でる音楽とともに独自の“しゃべり”で物語をつくりあげ、観客たちを映画の世界に誘い、そして熱狂させる【活動弁士】、通称“活弁”(カツベン)が大活躍していた。そんな時代を舞台に、活動弁士を夢見る青年が、とある小さな町の映画館に流れついたことからすべてが始まる【アクション】×【恋】×【笑い】の要素を織り交ぜた、周防正行監督によるノンストップエンターテインメント『カツベン!』が、2019年12月に公開される。このほど、公開に先立ち、武蔵野館100周年記念企画の一環で周防監督のトークショーが開催された。
今回、その主人公に大抜擢されたのが「MEN’S NON-NO」専属モデルとして活躍し、大ヒットとなった『劇場版 コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』へ出演するなど様々な分野で活躍する若手最注目俳優の成田凌。ヒロインには若手実力派女優の黒島結菜。さらに永瀬正敏、高良健吾、井上真央、音尾琢真、竹野内豊と超実力派俳優が脇を固める。もちろん竹中直人、渡辺えり、小日向文世をはじめとする周防作品おなじみのキャストも登場する。
実際に活動弁士も活躍した歴史をもつ伝統ある映画館で、監督がこの映画に込めた想いなどを、現役活動弁士・澤登翠とともにたっぷり語った。
まず初めにかつてこの武蔵野映画館に所属していた活動弁士・徳川夢声が説明する映画を本日見られた感想を求められた周防監督は「徳川夢声さんのカツベンを聞いたことがなかったのですが、観れてとても感慨深かったですね」と活弁上映の内容と本作の共通点に目を輝かせ始まったトークセッション。本日登壇した100周年を迎えた武蔵野館に対しての思い入れを澤登に聞かれると「大学生くらいのころは新宿昭和館に来ていて、本当にここに来れるようになったのはちゃんとお金を稼げるようになってからでした。安いところでしか見れなかった当時は憧れの場所でした」と話す周防監督。監督にとっても憧れの場所であり「当時、武蔵野館で活躍していた山野一郎さん(活動弁士)のひ孫さんの椎名桂子さんには、『カツベン!』に出てくる無声映画の中に出演していただいているんです」と武蔵野館と深い縁があると語った。また周防監督最新作『カツベン!』を作ろうと思った動機を聞かれると「無声映画はフィルムセンターで見ていて、弁士なし、音楽なしで見ていました。無声映画なんだからそれが当たり前だと思っていたんですが、客観的に当時のことを考えたとき、日本では無声映画を音無しで見るのはあり得なかったんですよね。活動弁士あり、音楽ありだったので、自分は間違った見方をしていたのだと気づき、改めてこういう映画の見方(活動弁士が説明をする無声映画の上映)をしていたのは日本だけだったというのが衝撃過ぎたんです」と明かした。
また、上映する側が一方的に映画を見せるだけではなく、活動弁士の説明による観客からのリアクションもありきで上映が成り立っていたという双方向からの映画の楽しみに魅力を覚え、そのような盛り上がりを見せていた映画の原点を、現代の映画とは違いサイレント映画なのに映画館が一番盛り上がる時代の素晴らしさを伝えたいというのが本作を撮るきっかけと語る。改めてなぜ今の時代に『カツベン!』を作ったのか聞かれると「みんな日本映画がこのようにスタートしたのを知らないだろうからね。日本には語り芸の種類が沢山あって、だから活動弁士付きの映画はごく自然な形で盛り上がったんだと思います。だから一つの文化スタイルになったし、これを知って欲しかったんです」と映画に解説を入れる文化は現代の日本人にも馴染みやすいはずと指摘。また「劇中にも無声映画が登場するが、その活動弁士の語りも昔の難しい言葉ではなく、若者にも伝わる言葉を喋らすこと。また台本を自分で書いて、自分のしゃべりで客を呼ぶんだと個性を出していた当時の弁士さんたちの雰囲気をきちんと表現するために成田くん、高良さんにはそれぞれ現役活動弁士の方に指導していただき、その中でも二人に工夫してもらいました。無声映画は断片でしか出てきませんが、それでも面白さが伝わるようにしています」と若い人たちにも見てもらいたいと熱く語った。
監督は最後に「『カツベン!』って言葉を聞いて映画を説明していた活動弁士のことだ!と認知を皆さんに持って頂けるようになりたい」と本作にかける意気込みを劇場の方へ投げかけ、また「新宿シネマカリテにて活動弁士の澤登翠さんによる『第七天国』が活弁上映されるので見るべきだ!」と最後まで活弁について熱心に話し、トークショーは幕をおろした。
『カツベン!』
12月 全国ロードショー
監督・脚本:周防正行
出演:成田凌 黒島結菜 永瀬正敏 高良健吾 井上真央 音尾琢真 竹野内豊 竹中直人 渡辺えり 小日向文世
配給:東映