信州上田を舞台に、40年ぶりに再会した対照的な老兄弟の絆をほろ苦い笑いと共に瑞々しく描く、柳澤愼一と高橋長英のダブル主演で贈る映画『兄消える』が、5月25日より公開中。5月25日に初日舞台挨拶がユーロスペースにて開催され、柳澤愼一、共演の土屋貴子、西川信廣監督、新田博邦プロデューサー、そしてサプライズゲストに女優・シンガーの真由子が登壇した。
放蕩無頼の兄、金之助を演じた柳澤は、事前の取材などで「この映画を遺作にする」と話していたという。「素晴らしい遺作ができたと思う」と話すと、会場からは「早い!」という声もあがったが、「人生の最後、せめて亡くなるときぐらい、自分で素晴らしい思い出を残していきたいと思っていた。まさにそういう作品に巡り会えた」と万感の表情だった。
柳澤を主演に迎えるにあたって、新田プロデューサーは柳澤の連絡先をひたすら調べ、本人に行き着くまで2ヶ月かかったのだとか。柳澤は「探し当ててくれてありがとうございました。『60年ぶりの主演?えっ、柳澤愼一って生きていたの?』と言われるぐらいだから、大丈夫ですよ」と余裕の表情を見せた。
一方、金之助が連れて帰ってくる謎の女、樹里を演じた土屋は、上田市の出身で、観光大使も務めている。上田では5月17日から先行上映が始まっており、映画館では連日満席が続いているのだそう。土屋は「台本を読んだ時から、素敵な映画だなと思っていましたが、私の故郷で撮影が決まって嬉しかったです。映画の中の時間の流れと、千曲川、浅間山の風景がぴったり合って、とても素晴らしい作品になりました」と笑顔で語った。
今回、映画監督デビューとなった西川監督は、「柳澤さんや長英さん、土屋さん、文学座の先輩や後輩に出てもらって、素敵な映画ができた。本公演でもこのメンバーは集まらない。それに、まさか江守徹さんが出てくださるとは思わなかった。お願いしたとき、内容を言う前にひと言『風呂には長く入るのか?』と聞いただけで、出演を決めてくださった」と感謝のコメントをした。
そして、サプライズゲストの真由子が登場。両親の津川雅彦と朝丘雪路が、それぞれ柳澤や高橋、土屋、監督と縁が深いことから、花束を持って駆けつけてくれた。昨年、両親を相次いで亡くした真由子は、「劇中の兄と弟は、ちょうど父と母と同じ年代。両親にはもう少し長く生きて欲しかったという叶わぬ思いを、映画に映しながら観ていました」と言葉に詰まりながら感想を吐露。続けて「年代関係なく、みんなの心の奥底にある“パワーボタン”を押してもらえるような作品。年齢なんて関係ない。これから人生楽しまなきゃ!と思えるような映画です」と太鼓判を押した。
客席で観ていた出演者の坂口芳貞も登壇。「久しぶりに上田でロケをやって、やっぱりいい街だなぁ!と思いました。気心の知れた人ばかりで楽しい現場でした」と撮影時を述懐した。最後に、柳澤が「ありきたりな表現ですが、これぞ“人間ドラマ”。日本ではこういった作品が少なくなりました。どうぞ宣伝なさっていただきたいと思います」と締めくくり、会場から大きな拍手が贈られ、舞台挨拶は終了した。
『兄消える』
5月17日(金)より上田(長野県)にて先行上映
5月25日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
監督:西川信廣
脚本:戌井昭人
音楽:池辺晋一郎
出演:柳澤愼一 高橋長英 土屋貴子 金内喜久夫 たかお鷹 原康義 坂口芳貞 新橋耐子 雪村いづみ 江守徹
配給:エレファントハウス ミューズ・プランニング
【ストーリー】 町工場を細々と続け、100歳で亡くなった父親の葬式を終えたばかりの76歳の真面目な独身、鉄男(高橋長英)のもとに、40年前に家を飛び出した80歳の兄・金之助(柳澤愼一)がワケあり風の若い女、樹里(土屋貴子)を連れて突然舞い戻ってきた。その日以来、奇妙な共同生活を始める3人。やがて金之助の過去や樹里の素性が明らかとなるなか、兄と弟それぞれの胸中に静かな確執とともに「故郷」や「家族」への思いが蘇っていく―。
©「兄消える」製作委員会