第89回アカデミー賞にて8部門にノミネート、作品賞ほか3部門を受賞した『ムーンライト』で世界中を熱狂させたバリー・ジェンキンス監督が、キキ・レイン、ステファン・ジェームスのダブル主演で贈る最新作『ビール・ストリートの恋人たち』が、2月22日より公開される。このほど、2月13日にTOHOシネマズ シャンテにて公開記念トークショーが行われ、初来日となったバリー・ジェンキンス監督、特別ゲストとして、「水曜日のカンパネラ」のコムアイが登壇した。
チケット販売からすぐに完売御礼の大盛況となった本イベント。場内は多くの人々で賑わい、あっという間に満席に。ジェンキンス監督の登場をいまかいまかと待ち受ける熱気が充満する中、満を持して登場した監督は、開口一番「初めての来日ですが、とても楽しんでいます。素敵な国ですね。到着したときの飛行機からの風景がすごく美しくて感動しました。明日、僕のツイッターで紹介しますよ」と冗談まじりに挨拶し、最新作を引っさげての初来日となった喜びのコメントを寄せた。
前作『ムーンライト』に続き、本年度アカデミー賞で見事3部門(脚色賞、助演女優賞、作曲賞)にノミネートされている本作。2作品連続でのオスカー獲得が期待される中、授賞式を直前に控えたタイミングでの来日ということで、今の心境を聞かれたジェンキンス監督は「ワクワクしているよ。でも、去年はちょっとした事件があったからね。トラウマだよ(笑)」と、昨年のアカデミー賞作品賞発表時のハプニングを皮肉交じりに語るなど、サービス精神旺盛なトークで場内を盛り上げた。
和やかなムードでトークが弾む中、前作と本作に惚れ込み、ジェンキンス監督を愛してやまない特別ゲストとしてコムアイが登場。豪華な花束を持って現れたコムアイの姿に、監督も喜びを隠せない様子だった。さらに、本日はバレンタイン・イブということで、映画に登場する主人公のティッシュとファニーのカップルをデザインしたオリジナル・チョコレートのプレゼントも。まさかのプレゼントに監督は大興奮で、しきりにチョコレートを覗き込むキュートな姿が。コムアイより、「日本では、バレンタインの日は女の子が好きな人に、勇気を出してチョコを贈る日なんです」と日本のバレンタイン文化の説明を受けると、監督から「チョコレートがたくさん売れる日なんだね。企業の作戦勝ちだ(笑)」とお茶目なコメントも飛び出した。
一足先に映画を鑑賞したコムアイは、「ミルフィーユみたいに、ロマンチックな甘い空気と厳しい現実が交互に押し寄せてくる映画。その中で、逆境をはねのけてそれに立ち向かう、生命力を感じられました。感情のゆらぎというものをすごく感じた作品です」と本作を絶賛。そんなコムアイからのコメントに対し、監督は少し照れながらも「映画の評論家のようなコメントだ。アリガトウ」と日本語で御礼を伝える一幕も。ロマンチックな愛と社会性という二面性が描かれていることについて、ジェンキンス監督は「最近、映画でラブストーリーが描かれるときは、スイートな一面だけが描かれることが多いと思うんだ。でも僕は、映画の登場人物だって、社会に生きる一員として、様々な文脈に付随して物語が紡がれるべきだと思う。この映画の中で描かれているような人種差別もね。この原作をとても気に入った理由の一つもそこにあるんだよ」と熱弁した。
真剣な様子で監督の言葉に耳を傾け、しきりにうなずきを返していたコムアイは、アーティストならではの視点で自ら監督へ質問も。「原作には音楽の表記が多いと聞きましたが、なぜ映画の中でオリジナルの音楽を用いたんですか?」という鋭いツッコミが飛び出すと、監督は「これまでの取材で初めてそのことについて触れられた!」と驚きを隠せない様子。「最初はすべて、原作に描かれるジャズを使って映画の音楽を作り上げようと思ったんだけど、原作とは違って、映画はキャラクター、特にティッシュの視点でも物語が進んでいくんだ。そうした時に、彼らキャラクターたちの音楽とはどういうものなのか、というのが頭に浮かんだんだよ」と本作の製作秘話を明かした上で、本年度アカデミー賞作曲賞にもノミネートされたニコラス・ブリテルについて「彼は、キャラクターと映画が、観客に何を伝えようとしているかを汲み取って、それを増幅して伝えてくれるんだ」と絶賛した。
さらに、コムアイから「なぜ、ヨーロッパでこの映画の脚本を執筆したのか」と聞かれると、「アジアは遠いからね」とすかさず冗談で場内を和ませる監督。原作への敬意を持って、本作の映画化に挑んだ監督は、脚本執筆時にもその影響を受けていたようで、「(原作者の)ボールドウィンもあちこち旅をしながら、小説を書き進めていたそうなんだ。だから僕も、旅をしながら脚本を執筆してみたかったんだよ」と当時の心境を告白し、続けて「実は、映画化権を獲得する前にこの脚本を書き進めていたんだ。あの頃は、実際に映画として発表できるか否かよりも、自分が本当にやりたいと思ったことを進める、クリエイティブへの愛を貫きたかったんだ」と発言。その言葉に、同じく自身もアーティストとして作曲などを手がけるコムアイは「今の言葉にすごく感動しました。どんな人生を生きる人もそうだと思うけど、やっぱり愛が前提の行動をしたいですよね」と強く共感。しかし、そんな感動的なコメントに対しても、「でも、人はお金を稼いで食べていかないといけないからね(笑)」と冗談で切り替えし、監督のキュートで茶目っ気たっぷりな人柄がにじみ出るイベントとなった。
終始、和やかなムードでイベントが終了すると、なんと映画の上映終了後に、ジェンキンス監督から来場者へのサプライズプレゼントとして、ロゴ入りチロル・チョコが全員に贈られるということも明らかに。実際に配布するのは残念ながらスタッフ、ということだが、バレンタイン・イブならではの盛り上がりをみせてイベントは終了した。
“日本の観客にこの作品を伝えたい”という監督たっての強い希望で叶った今回の初来日。ジェンキンス監督は、最後に「実はこの映画は小津安二郎監督の『東京物語』にも影響を受けているんだ。『東京物語』で使われた、キャラクターがカメラに向かって演技する、という手法を取り入れている。そうすることで、映画の中でキャラクターと直接目を合わせて、映画を体感できるんだ。日本ではあまり身近ではないかもしれないけど、黒人のロマンチックな愛と現実が描かれたこの物語を、少しでも体験してみてほしい。この映画は、僕から皆さんへの招待状なんだよ」と本作をアピールし、舞台を後にした。
『ビール・ストリートの恋人たち』
2月22日(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
監督・脚本:バリー・ジェンキンス
原作:ジェームズ・ボールドウィン「ビール・ストリートに口あらば」
出演:キキ・レイン ステファン・ジェームス レジ―ナ・キング コールマン・ドミンゴ マイケル・ビーチ ディエゴ・ルナ エド・スクライン ブライアン・タイリー・ヘンリー デイヴ・フランコ ペドロ・パスカル
配給:ロングライド
【ストーリー】 1970年代、ニューヨーク。幼い頃から共に育ち、強い絆で結ばれた19歳のティッシュ(キキ・レイン)と22歳の恋人ファニー(ステファン・ジェームス)。互いに運命の相手を見出し幸せな日々を送っていたある日、ファニーが無実の罪で逮捕されてしまう。二人の愛を守るため、彼女とその家族はファニーを助け出そうと奔走するが、様々な困難が待ち受けていた…。
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