奥田瑛二「巨匠と仕事をしたとき以来、脚本を読んだ瞬間に『監督に会いたい~!!』と叫んだ」『洗骨』公開記念舞台挨拶レポート

モスクワ国際映画祭を始め、上海映画祭、ハワイ映画祭など数々の国際映画祭に選出され、ニューヨークで開催された北米最大の日本映画祭・第12回JAPAN CUTSでは28本の作品の中から観客賞を受賞した照屋年之(ガレッジセール・ゴリ)監督の最新作『洗骨』が、2月9日に全国公開初日を迎え、このほど、2月10日にシネマート新宿にて公開記念舞台挨拶が行われ、奥田瑛二、筒井道隆、水崎綾女、大島蓉子、坂本あきら、鈴木Q太郎、筒井真理子、照屋年之監督が登壇した。

“洗骨”とは、沖縄の離島などごく一部にいまなお残っている、死者を風葬にし、さらに数年後にもう一度取り出して骨を洗うという風習。照屋監督は「短編映画を粟国島で撮ることになり、ロケハンのときに偶然洗骨の話を聞いたのが初めてでした。沖縄出身の僕も知らなかった。命を繋いでくれたご先祖にいまの自分があるのを感謝する行為、これは映画になると急遽、台本を変えて短編を作りました。その作品が賞を頂き、いざ長編にしようとするときに母が亡くなりました。2日間の通夜で母と添い寝したんです。この人のおかげで俺が生まれたんだよな、その母はばあちゃんのおかげで…と遡ると、祖先が生きることをあきらめないで命を繋いでくれたから自分がいると思えたんです。だから母が書かせてくれたシナリオです」と語った。

公開まで精力的に宣伝活動を行った主演の奥田は、監督から沖縄での大ヒットの報告を聞くと「3週沖縄で1位ということは…僕が木村君やクイーンに勝ったってこと?」とニヤリ。場内からも大きな笑いと拍手が飛んだ。「この年齢になって、よくぞこんな映画に巡り合えたと思います。昔巨匠と仕事をしたとき、脚本を読んだ瞬間に『監督に会いたい~!!』と叫んだ。そして今回も『監督に会いたい~!!』と叫んだんです。思えば20数年、一生懸命仕事をしてきたけれどそんなことはなかった気がします。だから気合が入りすぎて、役作りをどうしていたのか、どんなことを思いながら沖縄にいたのか記憶がない。それくらい強い想いと自信をもって、お届けできていると思います」と語った。

筒井道隆は沖縄での撮影を振り返り、「もともとが沖縄が好きで。撮影では約1ヶ月滞在しました。沖縄の歴史なども知らなかったから調べたりして。今も、もっと勉強しようと思いますね」と笑みを浮かべていた。水崎は、この作品と巡り合う前は引退も考えていたことを明かし、「(女優人生の)第二章の始まり、スタートのような気がしています」と語った。信綱の長女で妊婦の優子を演じたが、お腹のシリコンを巻いたまま、撮影が休みの時も生活を続けていたそうで「『命を繋ぐ』がテーマで、わたしの妊娠姿がとても大事だったので。そうして生活していると、町に出ても妊婦さんが自然と目に入ってくるんです。旦那さんと寄り添って幸せそうなのに、自分は一人で寂しくなった。そういう気持ちが優子が感じている気持ちなのかなと。それから食堂のおばちゃんがわたしのお腹を見て「もうすぐ生まれるね」「この張り方は男の子ね」と応援してくれてちょっと心苦しかった(笑)。映画が公開されたことで、役作りのために頑張っていたことをわかってもらえるかなと思います」と明かした。撮影期間中、水崎のリアルすぎる妊婦姿が誤解を生むことがあったようで、監督は「周りのお客さんが食堂のすみでご飯を食べている奥田さんと水崎さんをチラチラ見てるんです。でも話しかけない。“奥田瑛二が若い女優をはらませて、落ち着くまで沖縄潜伏してるんじゃないか”と勘違いしていて(笑)」と思わぬ騒動を暴露し、会場は爆笑に包まれた。また、妻亡き後生きる気力を失くした信綱に寄り添う姉・信子を演じた大島蓉子は、満員の客席を前に「初めての舞台挨拶なので緊張していますが2度3度と足を運んでいただいて、この映画を知らない方にも教えてあげてください」と堂々の挨拶。現場では「わからないことがあると、監督がやって見せてくれるんです。それが上手すぎて!」と語ると監督は、「大島パニックと呼んでたんですが、現場では『急に言われてもできない!準備していたことしかできないよ!!』と慌てるのに、本番の声がかかると堂々の演技。この人、本当に本番に強いんです」と現場での様子を語った。坂本は独特のテンポで「今日大雪にならなくてよかったです。それもこれも皆さまのおかげです」とあいさつ。また、水崎演じる優子の恋人役で俳優デビューを果たした鈴木は挨拶のあと「10年前に流行ったギャグをやらせていただきます!」と万感の思いを込めて「卑弥呼様~!!」を全力披露していた。そして、信綱の妻役で数シーンの出演ながら、キーマンとなる恵美子を演じた筒井真理子は、「遺影にはこだわりましたね。台本を読んだときに、なんて幸せな役なんだろうと思ったんです。でも失敗すると映画が成立しなくなる役。死に顔と遺影にはこだわらせていただきました」と語った。照屋監督も筒井のこだわりには舌を巻いたそうで、「(死体役で)桶に入っても、何度も目を開けて『監督、頬がこけるメイクをもうちょっといいですか?メイクさーん!』というやり取りを繰り返し、『早く死ねよ!』と思った(笑)。タイトルが『黄泉がえり』になっちゃう(笑)」と話すと場内も大きな笑いに包まれた。

また、映画になぞらえ、「女は強し!」と思ったエピソードを問われた奥田は、「うちの家族を想像していただければ言うことないと思います…」と語ると場内も納得の雰囲気。「僕は女性至上主義者なんですが、すべての女性に感謝している今日このごろです」と語った。照屋監督は、「女は強しというのを水崎さんに感じて…」と、本作が初上映された2018年沖縄国際映画祭のレッドカーペットのときのエピソードを披露。屋外で実施されるレッドカーペットが雨天で中止になりかけていたときに、水崎が「わたしに任せてください!」と両手を空に掲げると…「まさかの土砂降りの雨!雷までなってたぞ!(笑)」(監督)、「わたし、晴れ女なんですけどね(笑)」(水崎)、「女は強いというか、水崎は強い(笑)」(監督)と語り、場内は爆笑の渦に。

最後に奥田は「もう何も言うことはありません。このままの勢いで走ってくれることを祈っています。この映画を語るときは“あんな奥田瑛二見たことない!”をキーワードでお願いしますね」と笑顔でいうと、「股間の伸び切ったブリーフはいた奥田さんなんて他では絶対見られないですよね!」と監督も納得。奥田は「宣伝期間中にこの話をどこかで聞いたみたいで、グンゼから最新式の赤いボクサータイプとブリーフが1ダースずつ送られてきた(笑)今日も履いてます!」と笑わせた。照屋監督は、本作について「大勢の人の血と汗が混じって作り上げたと思っています。わが子のように可愛い作品です。見せたくて仕方がない、年賀状に赤ちゃんの写真を載せる人の気持ちがわかりました!」と語り、劇場公開の喜びを語っていた。

『洗骨』
1月18日(金)より沖縄先行上映
2月9日(土)より全国ロードショー
監督・脚本:照屋年之
出演:奥田瑛二 筒井道隆 水崎綾女 大島蓉子 坂本あきら 山城智二 前原エリ 内間敢大 外間心絢 鈴木Q太郎 筒井真理子
配給:ファントム・フィルム

【ストーリー】 洗骨―。今はほとんど見なくなったその風習だが、沖縄諸島の西に位置する粟国島などには残っている。粟国島の西側に位置する「あの世」に風葬された死者は、肉がなくなり、骨だけになった頃に掘り起こされ、縁深き者たちの手により骨をきれいに洗ってもらうことで、晴れて「この世」と別れを告げることになる。沖縄の離島、粟国島・粟国村に住む新城家。長男の新城剛(筒井道隆)は、母・恵美子(筒井真理子)の“洗骨”のために、4年ぶりに故郷・粟国島に戻ってきた。実家には、剛の父・信綱(奥田瑛二)がひとりで住んでいる。生活は荒れており、妻の死をきっかけにやめたはずのお酒も隠れて飲んでいる始末。そこへ、名古屋で美容師として活躍している長女・優子(水崎綾女)も帰って来るが、優子の様子に家族一同驚きを隠せない。様々な人生の苦労とそれぞれの思いを抱え、家族が一つになるはずの“洗骨”の儀式まであと数日、果たして彼らは家族の絆を取り戻せるのだろうか?

©『洗骨』製作委員会