米トランプ政権のシリア攻撃にも言及 ドキュメンタリー映画『ラッカは静かに虐殺されている』トークショー レポート

シリア内戦で秘密裡に結成された市民ジャーナリスト集団「RBSS」(Raqqa is being Slaughtered Silently/ラッカは静かに虐殺されている)と「イスラム国」(IS)とのSNSを駆使した情報戦を、壮絶な緊迫感で捉えたドキュメンタリー映画『ラッカは静かに虐殺されている』が4月14日より公開中。本作の公開初日にアップリンク渋谷にてトークショーが開催され、シリア人ジャーナリストのナジーブ・エルカシュ、アラブ思想・シリア文化研究者の岡崎弘樹が登壇した。

奇しくもこの日、シリアのアサド政権が化学兵器を使用したとして、米トランプ政権と英・仏が共同でシリアに対する軍事攻撃に踏み切ったというニュースが飛び込んだ。シリア攻撃の一報に対して、日本の新聞社からコメントを求められたというエルカシュは、「私にとっては、今日は特別な日ではない。虐殺はずっと続いている。なぜトランプ政権が攻撃したときしか取材しないのか?」と苦言を呈したことも明かした。一方、岡崎は、「“今日の攻撃はどうか”ということよりも、それを踏まえながら、もっと大きな議論を作っていくことが大事だ」と強調した。

戦後史上最悪の人道危機と言われるシリア内戦で過激思想と武力で勢力を拡大するISが、“ユーフラテスの花嫁”と呼ばれた美しい街ラッカを制圧。本作では、その生死の狭間で戦うRBSSの姿を追っているが、「ラッカは素晴らしい宝の山。内戦によって荒廃した街を整備すれば、一大観光地になるようなところ。同時に有能な作家、ジャーナリスト、小説家を数多く輩出していて、歴史と文明が揃った街でもある」と称える岡崎。そんな平和で才能溢れる街が虐殺の対象になった理由については、「シリア人ではない外国人戦闘員がISの中核。ラッカにいるスンニ派の部族が、宗派感情などをうまく利用されながら、次第に取り込まれていったのではないか」と説明した。

また、「RBSSの面々は顔を出して発言しているが、その反面、危険度も増すのでは?」という観客からの問いに対して、エルカシュは、「今月6日に、早稲田大学の講義でSkype中継を通じてRBSSのメンバーの1人、ハッサン・イーサ本人と話しましたが、彼が言うには、『シリア政府はフェイクニュースが非常に多く、“本当はISのメンバーではないのか?”などという、あらぬ疑いをかけられたため、それを払拭するために顔と実名を公表するという行動に出た』と説明していた」と回答。ただ、「彼らは未だに命の危険にさらされている」という事実は変らず、「潜伏先のドイツから今は別の国に移動し、セキュリティのしっかりしたところに隠れて生活しているようです」と安否を気遣っていた。

『ラッカは静かに虐殺されている』
4月14日(土)より、アップリンク渋谷、ポレポレ東中野ほか公開中
監督・製作・撮影・編集:マシュー・ハイネマン
製作総指揮:アレックス・ギブニー
配給:アップリンク

【ストーリー】 戦後史上最悪の人道危機と言われるシリア内戦。2014年6月、その内戦において過激思想と武力で勢力を拡大する「イスラム国(IS)」がシリア北部の街ラッカを制圧した。かつて「ユーフラテス川の花嫁」と呼ばれるほど美しかった街は、ISの首都とされ一変する。爆撃で廃墟と化した街では残忍な公開処刑が繰り返され、市民は常に死の恐怖と隣り合わせの生活を強いられていた。海外メディアも報じることができない惨状を国際社会に伝えるため、市民ジャーナリスト集団“RBSS”(Raqqa is Being Slaughtered Silently/ラッカは静かに虐殺されている)は秘密に結成された。彼らはスマホを武器に「街の真実」を次々とSNSに投稿、そのショッキングな映像に世界が騒然となるも、RBSSの発信力に脅威を感じたISは直ぐにメンバーの暗殺計画に乗り出す―。

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