『佐々木、イン、マイマイン』で映画賞新人賞を席巻し、『若き見知らぬ者たち』で現実と青春の狭間に生きる若者を見つめてきた内山拓也監督。その最新作『しびれ』が、第26回東京フィルメックス・コンペティション部門に正式出品されることが決定した。監督の故郷・新潟を舞台に、居場所とアイデンティティを探す少年の姿を自伝的視点で描く、内省と希望の物語だ。
日本海沿いの灰色の町。曇天と荒波に囲まれた環境で暮らす少年・大地は、幼い頃、暴君のような父の影響で言葉を失ってしまう。母・亜樹(宮沢りえ)とともに雑居ビル屋上のプレハブで暮らすが、母は水商売で家を空けがち。孤独と貧困の中で、彼は心を閉ざしていく。ある日、大地は失踪した父の行方を追う決意をする――。そこから彼の運命は大きく揺らぎ始める。誰にも理解されない孤独、母への愛憎、言葉を奪われた少年の胸の内にわずかに差し込む光。それらが静かな筆致で20年にわたり綴られる。
青年期の大地を演じるのは北村匠海。感情を爆発させることなく、憎しみと愛が交錯する内なる衝動を丁寧に表現した。母・亜樹を演じる宮沢りえは、世間的には“育児放棄”と見られながらも息子への微かな愛を宿す複雑な母を繊細に体現。父・大原役には永瀬正敏が扮し、暴君から一転、老いと後悔を背負う男の哀しみをにじませる。さらに、少年期の大地を榎本司、加藤庵次、穐本陽月の3人が演じ、言葉のない演技で観る者の胸を打つ。
内山監督は本作を「人生をやり直すための確かな基盤となった」と語る。「人生は何度でもやり直せる。手遅れなことはない。再び歩み出そうとするすべての人々に、そして存在のない子供たちにこの映画を捧げます」。北村は「監督にNOと言わないと決めた。この映画で一緒に心中してくれと言われて嬉しかった」と語り、共演者たちも監督の“生き様を刻む映画”として本作への深い敬意を示している。
『しびれ』は、第26回東京フィルメックス・コンペティション部門に正式出品。2025年11月21日(金)~30日(日)、有楽町朝日ホールおよびヒューマントラストシネマ有楽町で上映予定。上映スケジュールや舞台挨拶登壇者の詳細は、東京フィルメックス公式サイトで発表される。
■作品情報
タイトル:『しびれ』
監督・原案・脚本:内山拓也
出演:北村匠海、宮沢りえ、榎本司、加藤庵次、穐本陽月、赤間麻里子、永瀬正敏
企画・制作:カラーバード
製作幹事・制作プロダクション:RIKIプロジェクト
配給:NAKACHIKA PICTURES
上映:第26回東京フィルメックス(2025年11月21日~30日、有楽町朝日ホールほか)
©️2025「しびれ」製作委員会