ロッテルダム国際映画祭や山形国際ドキュメンタリー映画祭へ正式出品され、世界の評論家を騒然とさせた、草野なつか監督による長編第2作『王国(あるいはその家について)』が、12月9日より公開されることが決定した。併せて、予告編とメインビジュアルが披露された。
長編映画初監督作品である『螺旋銀河』で、第11回SKIPシティDシネマ映画祭にてSKIPシティアワードと観客賞のW受賞を果たした草野なつか監督による長編第2作となる本作。2016年度愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品として製作された本作は、2017年に64分版が発表されて以降、再編集が施された150分版としての上映は、第11回恵比寿映像祭や新文芸坐、三鷹SCOOLなどや映画配信サービスMUBIでの限定配信のみだった。今回、オムニバス映画「広島を上演する」の一編である最新作『夢の涯てまで』がマルセイユ国際映画祭2023でのワールドプレミアに続き、第24回東京フィルメックス メイド・イン・ジャパン部門へ選出されたことを記念し、待望の劇場公開となる。
本作は、演出による俳優の身体の変化に着目。脚本の読み合わせやリハーサルを、俳優が役を獲得する過程=“役の声を獲得すること”と捉え、同場面の別パターンまたは別カットを繰り返す映像により表現する。ドキュメンタリーと劇で交互に語るその手法は脚本が持つ可能性をも反復し、友人や家族という身近なテーマによる人間の心情に迫ることに挑戦している。「王国」を作り上げると同時に、その支配からも逃れようとする。綱渡りのような150分間で新たな映像言語をもって試みの全貌を伝える。
脚本を務めるのは、『螺旋銀河』で共同脚本として参加し、『ハッピーアワー』などでも知られる高橋知由。出演者には澁谷麻美、笠島智、足立智充ら実力派俳優たちが名を連ねている。
予告編を手掛けたのは、第73回カンヌ国際映画祭批評家週間短編部門に正式出品された『とてつもなく大きな』や『とおぼえ』で国内外でも高い評価を得る川添彩。今回の劇場公開に寄せて、映画監督の濱口竜介もコメントを寄せ、「自分が夢見たことを先んじてやられてしまったような、そんな感覚を持った。草野なつか監督の勇気と知性に敬意を表したい。」と本作を絶賛している。
■草野なつか(監督) コメント
『王国(あるいはその家について)』を撮影したのは2017年の年明けだった。初日にフィクション部分を撮影し、いよいよ作品の肝となるリハーサル撮影、という2日目、自分の見通しの甘さが原因で身動きの取れない状態になった。このとき、作品の本質を理解し打開策を講じたのは私ではなくスタッフであり、駆動し始めた撮影で大きな、広い景色を見せてくれたのは役者たちだった。翌年完成し2019年に映画祭を周ったのち、映画配信サイトMUBIでの配信が始まったまさにそのとき、世界中でロックダウンが起きた。コロナ前に撮影した本作がコロナを経た今どう観られるかは想像もつかないが、作品がまた大きな景色を見せてくれること、そして今度は観客の皆さんに遠くまで連れて行ってもらえるであろうことを私は楽しみにしています。
■濱口竜介(映画監督) コメント
俳優たちはテイクを重ね、やがて「これしかない」という声に辿り着く。この特権的な声が本来「OK」テイクとなるものだ。しかし、このたった一つの声は、実のところすでに為された無数の発声がその裏に張り付いた複層的なものなのだ。『王国』ではその声は示されるとともに解体されて、あらゆる声が「OK」として響く。自分が夢見たことを先んじてやられてしまったような、そんな感覚を持った。草野なつか監督の勇気と知性に敬意を表したい。
『王国(あるいはその家について)』
2023年12月9日(土)より、ポレポレ東中野にて3週間限定上映
監督:草野なつか
脚本:高橋知由
出演:澁谷麻美 笠島智 足立智充 龍健太
配給:コギトワークス
【ストーリー】 出版社の仕事を休職中の亜希は、一人暮らしをしている東京から、1時間半の距離にある実家へ数日間帰省をすることにした。それは、小学校から大学までを一緒に過ごしてきた幼なじみの野土香の新居へ行くためでもあった。野土香は大学の先輩だった直人と結婚して子供を出産し、実家近くに建てた新居に住んでいた。その家は温度と湿度が心地よく適正に保たれていて、透明の膜が張られているようだった。まるで世間から隔離されているようだと亜希は思った。最初は人見知りをしていた野土香の娘・穂乃香は、亜希が遊びの相手をしているうちに彼女に懐いた。一方、野土香からはとても疲れているような印象を受けた。数日後、亜希は東京の自宅にいた。彼女は机に座り手紙を書いていた。夢中でペンを走らせ、やがて書き終えると声に出して読み始める。「あの台風の日、あの子を川に落としたのは私です」そして今、亜希は警察の取調室にいる。野土香との関係や彼女への執着、直人への憎悪について、亜希は他人事のように話し始めた。