うだるほどの猛暑の日には外出を控え、動画配信サービスで背筋が凍りつくホラーが観たい! そんな映画ファンのニーズに応えるかのように、Netflixが気合いの入った新作ホラーを矢継ぎ早にリリースしている。今回紹介する4作品は、いずれもこの7月に配信がスタートしたばかりの最新コンテンツだ。韓国、イタリア、ドイツ、アメリカという製作国からして多様なうえに、題材や作風もバラエティ豊か。Netflixならではの“攻め”の姿勢がうかがえる先鋭的なホラーも含まれている。(文/高橋諭治)
■『第8日の夜』
まず『第8日の夜』は韓国映画界が放ったオカルト・ホラー。2500年前に釈迦によって封印された魔物が現代の韓国に解き放たれ、世捨て人となった元僧侶ジンスがその邪悪な野望を阻止するために奔走する姿を映し出す。
あらすじだけを読めば、悪魔とエクソシストの闘いを描くキリスト教圏のオカルトものの韓国バージョンといった趣だが、決して単なる焼き直しではない。寡黙な中年のジンスと未熟な少年修行僧のコンビが、人間に憑依して連続殺人事件を引き起こす怪物“赤い目”を捜索していく過程を丹念に描出。事件を担当する刑事、ミステリアスな美少女らの脇役キャラクターの動向からも目が離せない。またビジュアル、ドラマの両面に東洋的な哲学や仏教思想が反映され、登場人物それぞれが現世の“業”を背負っていることも映画に深みを与えている。
そして『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』『KCIA 南山の部長たち』などの話題作が相次ぐ実力派俳優イ・ソンミンが、悲痛な過去を引きずる主人公ジンスに扮して重厚な演技を披露。この世に暗黒の地獄をもたらそうする魔物と、心に闇を抱えた人間が激突するクライマックスを目撃してほしい。
『第8日の夜』Netflixにて独占配信中
監督:キム・テヒョン 出演:イ・ソンミン パク・ヘジュン キム・ユジョン ナム・ダルム チェ・ジノ キム・ドンヨン イ・オル
■『クラシック・ホラー・ストーリー』
イタリアの新鋭ロベルト・デ・フェオ、パオロ・ストリッポリが共同監督を務めた『クラシック・ホラー・ストーリー』は、相乗りのキャンピングカーでめぐり合った男女5人の物語。イタリア南部カラブリア州の田舎を旅する彼らが、事故によって人里離れた山奥で立ち往生し、想像を絶する運命をたどっていく様を映し出す。
主な舞台となるのは、奇怪なデザインの一軒家がぽつんと建っている森の中の原っぱ。そこにさまよい込んだ5人は、家の中に監禁されていた少女を発見したのち、不気味なサイレンが鳴り響くなか、正体不明の一味に脅かされていく。何もかもがシュールで謎だらけのこの映画、誰もが『悪魔のいけにえ』の流れをくむアメリカの田舎ホラー、もしくは邪教集団の恐怖を扱った『ウィッカーマン』『ミッドサマー』あたりを連想するだろう。
ところが中盤以降には、観る者の予想を裏切るトリッキーなひねりが炸裂! イタリアの特異なお国事情を皮肉たっぷりに取り入れ、なおかつSNSや動画配信をも風刺した大胆不敵な描写が盛り込まれている。『クラシック~』という題名とは真逆の“モダン”な切り口が際立つ、ネタバレ厳禁系の挑発的なホラーなのだ。
『クラシック・ホラー・ストーリー』Netflixにて独占配信中
監督:ロベルト・デ・フェオ パオロ・ストリッポリ 出演:マチルダ・ルッツ フランチェスコ・ルッソ ペピーノ・マッツォッタ ウィル・メリック
■『ブラッド・レッド・スカイ』
武装テロリストにハイジャックされた旅客機に、偶然にもヴァンパイアが乗り合わせていた! そんな奇想天外なアイデアを実現させたのが、ドイツ映画『ブラッド・レッド・スカイ』だ。ある不幸な出来事によってヴァンパイアに変貌してしまった女性が、テロリストから最愛のひとり息子を守るために、航行中の機内で壮絶なバトルを繰り広げていく。
ヴァンパイアのヒロインが超人的な身体能力を駆使して、凶悪なテロリストどもをばったばったと打ち倒していく“痛快作”かと思いきや、映画のタッチはかなりシリアス調。多勢に無勢の苦闘を強いられる主人公ナディアは自らも傷つき、幾度となく絶体絶命のピンチに陥ってしまう。おまけに、逃げ場なき機内ではヴァンパイア・ウイルスが拡散し、『REC/レック』を彷彿とさせる感染パニックが勃発。もちろん、ナディアと幼い息子が織りなす親子愛のドラマもエモーショナルに描かれていく。
ユニークな状況設定を盛り上げるためにホラーやスリラーのあらゆる要素を詰め込み、血生臭さもたっぷりの極限サバイバル劇。観終えてぐったりするほどの怒濤の展開に身を委ねてほしい。
『ブラッド・レッド・スカイ』Netflixにて独占配信中
監督:ペーター・トアヴァルト 出演:ペリ・バウマイスター アレクサンダー・シェーア カイス・セッティ カール・コッホ
■『フィアー・ストリート』3部作
最後に紹介するのは、3部作の映画を1週間置きに配信するというNetflix初のリリース形態となった『フィアー・ストリート』。長年、忌まわしい猟奇事件が繰り返されてきた“呪われた街”シェイディサイドを舞台にした青春ホラーだ。
シェイディサイドに暮らす若者たちを主人公にした本作は、典型的なティーン向けスラッシャー・ムービーのように幕を開けるが、魔女というスーパーナチュラルな存在や謎解きの要素をふんだんに織り交ぜたジュブナイル・ホラーと呼ぶのがふさわしい。『フィアー・ストリート Part 1: 1994』では、ショッピングモールで起こった大量殺人事件をきっかけに、サラ・フィアーという魔女が甦らせた殺人鬼につけ狙われる若者たちの姿を描出。『~Part 2: 1978 』では過去にさかのぼり、シェイディサイドのキャンプ場を襲う惨殺事件の行方を映し出す。そして『~Part 3: 1666』では、すべての呪いの起源となったおぞましい魔女狩りの真実が明かされていく。
R・L・スタインのホラー小説シリーズに基づくこのプロジェクトは、3部作それぞれの内容が密接にリンクしながら、ひとつの街の血塗られた歴史をたどっていく斬新な構成だ。『スクリーム』『エルム街の悪夢』『13日の金曜日』といった20世紀後半のアメリカン・ホラーのテイストを今に甦らせる一方、アフリカ系のヒロインとその恋人の同性愛を描くなど現代的な視点も色濃く感じられる。そして1994年のショッピングモール、1978年のサマーキャンプ、17世紀の入植地という変化に富んだ背景が巧みに生かされ、新進女性監督リー・ジャニアク監督のスリル&ショック演出も上々。壮大なストーリーの行き着く果てには、トリロジーにふさしいカタルシスも待っている。
『フィアー・ストリート Part1:1994』Netflixにて独占配信中
監督:リー・ジャニアク 出演:キアナ・マデイラ オリヴィア・スコット・ウェルチ ベンジャミン・フローレス・Jr
Courtesy Netflix Loris T. Zambelli