伝説の男子フィギュアスケート金メダリスト、ジョン・カリーの知られざる人生を描いたドキュメンタリー映画『氷上の王、ジョン・カリー』が、5月31日より公開中。このほど、6月11日に新宿ピカデリーにて公開記念イベントが行われ、元全米五輪代表フィギュアスケーターのジョニー・ウィアーが登壇した。
本作にも出演し、プロスケーター、衣装デザイナー、ファッショニスタ、役者、さらにはLGBTQ当事者として率先して発言するなど幅広く活躍する“氷上のポップスター”ジョニーは、ファンタジー・オン・アイスの公演で多忙を極める中、本作のために会場に駆けつけた。自らの衣装だけでなく、羽生結弦選手をはじめとするフィギュアスケーターの衣装デザインを手掛けるほどファッションにこだわりを持つ彼は、この日、神戸の大丸で購入したイッセイ・ミヤケの斬新なドレスに、ドリスヴァンノッテンのスタイリッシュな靴で登場。満面の笑顔を浮かべ、まずは「皆さん、こんばんは!ジョニー・ウィアーです」と日本語で挨拶。本作を観て大いに感銘を受けたというジョニーは、「この世界で、自分らしさを求め、自分らしく生きることはとても大事なこと。その闘いを(ジョン・カリーを通して)この映画で観ることができる」と語った。
カリーから受けた影響についてジョニーは、「例えば、今、私が斬新なドレスを着て、皆さんを笑わせたり、喜ばせたりしていますが、何か爪痕を残すことは凄く大事だと思います。カリーは音楽や衣装の選択も独特な感覚を持っていましたし、どんなトラブルに見舞われても、クリエイティブな部分を残しつつ、それを実践してきた方なので、とてもリスペクトしています」と称賛した。
そのカリーのDNAを受け継いでいる選手として、「まず、長年の友人であるステファン・ランビエールが頭に浮かぶ」と明言。「ディテールに細かく意識を向けているところ、氷の上でバレエを再現しているところ、そして音楽に合わせた振り付けを完璧にこなしているところを見ると、明らかにジョン・カリーの遺伝子を受け継いでいるな、と思いますね」と分析した。日本人では、「直接的ではないかもしれませんが、町田樹さんと宮原知子選手ですね」と二人の名を挙げた。
また、劇中、スポーツ界のホモフォビアについて触れ、カリーの勇気を称えていたが、ジョニー自身も勇気を持って闘ってきた。「トリノオリンピックでは、自分のセクシャリティは関係なく、国の代表として戦ったが、メダルを取ることができなかった。滑り終わったあとに、パフォーマンスについて質問があると思っていたら、『ジョニー、君はゲイだよね?』という質問ばかりで驚きました」と吐露。次のバンクーバーオリンピックでは、「カナダのテレビレポーターが、『ジョニー・ウィアーの性別テストをしよう』と言い出して問題になりましたが、今からわずか9年前の話。これは残念に思いましたね」と表情を曇らせた。それでも前を向いて選手生活を全うしたジョニーは、「このように自分を隠さず、フィギュアスケートをやって来られたのは、同じ経験をしてきた先輩たちのおかげであり、カリーもその一人」と感謝の意を表した。さらに、「私は強い人間なので耐えることができるけれど、みんなが強い人間ではない。だからその人たちのためにも声をあげ、傷ついた仲間がいたらサポートしていきたい!」と強い意志を見せた。先日、エフゲニア・メドベージェワ選手に対する誹謗中傷に怒りをあらわにしたのも、その正義感ゆえの行動だろう。
そんなジョニーも、2022年にはプロスケーターから引退することを表明したが、これについては、「この道は自分だけで歩んできたのではなく、ファンのみなさんと一緒に歩んできた。良い時も悪い時も、みなさんが支えてくれました。本当に感謝しています。この話をすると涙が出てしまうのですが…自分はフィギュアスケーターをやめたくない、という気持ちは強いです。でも、自分が退いて、今度は若い選手がその場に立つ。またその選手がいずれ自分よりも若い選手を支える。私はその流れを横で見守る立場になると思いますが、自分自身の新しい挑戦も楽しみにしています」と最後は笑顔を見せた。
『氷上の王、ジョン・カリー』
5月31日(金)より、新宿ピカデリー、東劇、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国公開中
監督:ジェイムス・エルスキン
ナレーション:フレディ・フォックス
出演:ジョン・カリー ディック・バトン ロビン・カズンズ ジョニー・ウィアー イアン・ロレッロ
配給:アップリンク
【作品概要】 アイススケートをメジャースポーツへと押し上げ、さらに芸術の領域にまで昇華させた伝説の英国人スケーター、ジョン・カリーの、アスリートとしての姿だけでなく、栄光の裏にあった深い孤独、自ら立ち上げたカンパニーでの新たな挑戦、そして彼を蝕んでいく病魔AIDSとの闘いを、貴重なパフォーマンス映像と、本人、家族や友人、スケート関係者へのインタビューで明らかにしていく。
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