池上彰、ネイティブアメリカンの知られざる現状を解説『ウインド・リバー』トークイベント レポート

『ボーダーライン』、『最後の追跡』で2年連続アカデミー賞ノミネートの脚本家テイラー・シェリダンによる初監督作品で、ジェレミー・レナーを主演に迎えた『ウインド・リバー』が7月27日より全国ロードショーとなる。このほど、本作の日本公開を記念して、7月19日に東京・神楽座にて特別試写会とトークイベントが行われ、ジャーナリストの池上彰が登壇した。

本作は、厳寒の大自然に囲まれたアメリカ中西部ワイオミング州にあるネイティブアメリカンの保留地“ウインド・リバー”を舞台にしたクライム・サスペンス。日本公開を記念して、一般試写会の上映後、ジャーナリストの池上彰が登壇し、知られざるアメリカの闇に切り込むトークイベントが行われた。「最近、映画のイベントの仕事が増えてきまして、映画を観るとむらむらと説明をしたくなる病気になっています(笑)」と登場するなりコメント。上映後のトークということもありネタバレOKを確認しつつ「娘を失った父親同士の交流、悲しみが通底にあって、サスペンスではあるんですけど人間ドラマとして描かれ進んでいく。その中で、さらにネイティブアメリカンの先住民がどのような立場に置かれているのかという、じつはアメリカ国内でも知らない人が多くいる事実や色々な背景を知ってもらおうというよくできた映画だと思いました」と語った。

続いて、アメリカの地図パネルをもとにワイオミング州のウインド・リバーという土地について解説。「元々は肥沃な違う土地で生活をしていたのに、農業に適している土地は白人が占領してしまった。こういったネイティブアメリカンの保留地はじつは約100か所あります。アメリカだけでなくカナダにもある。オーストラリアにはアボリジニという先住民がいました。この映画に登場したあの一族は、荒廃したウインド・リバーという土地に押し込められただけなんです。アメリカの国旗が逆さになっていたシーンがありましたが、あれは保留地に住む人々の敵意の現れなんです」と説明。数多くこのような事件が起きているにも関わらず失踪者、死亡者数の人数が未だ分かっていない、“がんで死亡するよりも殺人での死亡率が高い場所である”という知られざる驚愕の事実に対し、なぜこういったことが起きているのか疑問を投げかけると、事件として扱われなければ調査すらされないという実態、アメリカの自治体警察の制度についても話が及び、場内では驚きの声が上がった。

さらに、現代のネイティブアメリカン保留地に追いやられた人々の生活について、農業をすることもままならない彼らには「カジノ営業権」が認められ収入源になっていることにも触れ、この方法が結果として楽をして収入を得る怠惰な生活に繋がり、生きがいを失い、やがて薬や酒に走り麻薬中毒や犯罪率の増加を招くきっかけとなり負のスパイラルとなっている点も指摘。池上は、「現代のアメリカの闇を見つめ切り込んだテーマを扱った映画が作られるようになったことは革命的」とも言い、「昔の西部劇では、保安官が登場し“インディアンは悪いやつ”として戦う一方的なものでした。私が大学生の時に『ソルジャー・ブルー』(1970)という映画が公開され、それは当時画期的だったんです。“ソルジャー・ブルー=騎兵隊”が先住民を虐殺する。後から入ってきた者たちがこのように虐殺をしてきた、ということにようやく目が向いたんです。ネイティブアメリカンの置かれている現状、問題を取り上げたこと。今またこういう形で人々の意識が変わってきたんだ、と見ています」と語った。

また、トランプ政権に代わり問題となっている、ゼロ寛容政策やメキシコへの制裁についても触れ、テイラー・シェリダン監督がアメリカ・メキシコ国境で起きている麻薬戦争を描いた『ボーダーライン』に続き、『ウインド・リバー』の題材として取り上げたことが興味深く、その作家性について「エンターテイメント、人間ドラマ、親子の情感、現代的な若い女性の成長物語、緻密でよくできている脚本の中にアメリカの闇が浮き出てみえてくる。もう一度観るとさらに気付くところがあり、メッセージが詰まっている映画」と熱く語り、トークイベントを締めくくった。

『ウインド・リバー』
7月27日(金)、角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー
監督・脚本:テイラー・シェリダン
音楽:ニック・ケイヴ ウォーレン・エリス
出演:ジェレミー・レナー エリザベス・オルセン ジョン・バーンサル 
配給:KADOKAWA

【ストーリー】 厳寒の大自然に囲まれたアメリカ中西部ワイオミング州にあるネイティブアメリカンの保留地“ウインド・リバー”で見つかった少女の凍死体―。遺体の第一発見者であり地元のベテランハンターのコリー・ランバート(ジェレミー・レナー)は案内役として、単身派遣された新人FBI捜査官ジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)の捜査に協力することに。ジェーンは慣れない雪山の不安定な気候や隔離されたこの地で多くが未解決事件となる現状を思い知るも、不審な死の糸口を掴んだコリーと共に捜査を続行する…。

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