今年5月に開催された第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にて最高賞のパルムドールを受賞した、是枝裕和監督の長編14作目『万引き家族』が6月8日に公開された。本作は、公開後7日間で10億円突破という、2018年公開の実写邦画の中で最速の記録を叩き出し、14日には来場者数が100万人を突破し、20日には興収20億円に達した。このほど、6月16日より開催されている第21回上海国際映画祭のHighlights部門にて、6月23日に本作の公式上映が行われ、舞台挨拶に松岡茉優、城桧吏、そして是枝裕和監督が登壇した。
中華圏にも数多くファンがいる是枝監督の最新作だけに注目度もトップクラスで、上映チケットは販売からわずか20秒で完売。一般客だけでなく、中国の俳優や監督なども詰めかけ、1000席の会場は満席となった。空港では出待ちのファンも多く集まるなど、言葉を超えて、上海でも『万引き家族』が話題を独占した。
開口一番に、「ニイハオ(笑)」と中国語で挨拶をし、会場から大きな拍手が送られた是枝監督は「こんにちは。こんなに沢山のお客さんに集まっていただいて、自分の新作をここで観ていただけることを嬉しく思っています」と挨拶。次に、「本日は、来てくださってありがとうございました!」と城くんが挨拶をすると、大きな歓声と拍手が。「映画、面白かったですか?」と観客に問いかけると、会場から「はいー!」と日本語でレスポンスが返ってくる一幕も。続いて、中国でも多くのファンを持つ松岡の番になり「ニイハオ」と中国で挨拶をすると、更に大きな歓声と拍手が巻き起こった。「本当にこんなに沢山の方にこの映画が届いて、本当に嬉しいです!今日は監督に聞きたいことを何でも聞いてください!」と挨拶をした。
その後、MCより、受賞したことで中国も含め、世界中で非常に注目を集めていることについて問われると是枝監督は「とても大きな賞で、日本国内でもニュースで取り上げていただけるような、新聞の一面に載るような事件になってしまったので、僕だけじゃなくて、桧吏くんも街を歩いていると、あ、あの映画の子だ、と気づかれるような状況になっています。でも、こういう形で映画館の外にどんどん広がっていくというのはとても良いことだと思っているので、すごく前向きに捉えていますし、僕自身は今回の受賞をきっかけにして、勿論この中国でもより多くの方たちにこの映画を届けられればいいなと思っていますし、次回作をつくることが少しスムーズにできるようになればと思っています」とコメントした。
また、松岡は、中国の取材を受けた際に、自分が韓国で諧星(シェシン)=コメディスターと勘違いされていることを知ったそうで、観客に「私は女優です!ね、監督!?」と妙な誤解を晴らす場面もみられ、観客から笑いを誘った。また、城くんが中国で火鍋を食べたことを明かすと歓声が起こるなど大盛り上がりとなった。
次に、日中の映画における交流について問われると、是枝監督は「僕が映画を撮る前、大学生の頃に、チャン・イーモウ監督やチェン・カイコー監督の作品が日本で公開されて、すごいブームになって、アジアからすごく新しい作品が生まれるようになりました。その後に、僕自身、台湾のホウ・シャオシェン監督と先ほどの二人の監督を通して、自分が映画を撮りたいと強く思うようになって、更に撮り始めてからは、世代的には僕よりも少し下ですけれど、ジャ・ジャンクーという中国を代表する監督と出会いました。同じ時期に映画をつくり、映画祭をまわり、彼が日本に来たときには、一緒にご飯を食べてというそういう関係の中で、お互いに今、どんなものをつくるべきなのか、映画とどんな風に向き合うべきなのか、自分が生まれ育った土地と人々と社会とどんな風に向き合って、そこから映画のモチーフを見つけていくのか、などとても多くのことをジャ・ジャンクーから学んでいます。そういう同世代に優れた監督を持つということは同じ作り手として、財産ですし、そういう関係を日本と中国の監督たち、役者たちが深く深く、長く持てる関係がつくれたらいいなと思っています」とコメント。そして、「ちょっと話がそれますが」といい、松岡について語り始めた是枝監督は「松岡茉優という女優はですね、お笑い芸人ではありませんけども(笑)、非常にコメディエンヌとしての才能が本当にずば抜けているので、僕は今回かなりシリアスな状況で彼女を撮らせてもらいましたけど、非常に幅広く役をできる女優さんだと思っていますので、是非中国でも彼女が観たいと思っています」とアピールすると大きな拍手が起こった。
また、作風について問われると、是枝監督は「あまり自分の作風というのを考えているわけではないんです。撮りたいなと思う作品に適した、一番相応しいカメラワーク、カメラアングルというのを探ろうという感じでしょうか。ずっと基本はそこなんだけどやはり、デビューしたときに比べると、今の方が、僕が選んだ役者をどう撮るか、その感情をどう撮るか、一枚の画をつくっていくというよりは、より人間に近いところに僕自身の気持ちとかカメラというのが、存在しているんじゃないかと思っています。そういう変化はあります」と語った。
その後は、観客からのQ&Aを実施。「今後一番やりたい役はなんですか?」という質問に対し、松岡は「是枝監督に~また使ってもらえることです♡」と回答し、またもや笑いと拍手を誘い、次に、撮影での役づくりについて問われると「撮影を通して、キャストの皆さんとぎゅうぎゅうな時間を過ごしていたら、本当の“家族”のようになっていったし、大女優の樹木希林さんの隣に座れるようにもなったし、本当にあの時間は“家族”そのものでした」と明かし、「でも、最近、桧吏が男の子になってきて、ちょっと触ると嫌がる…」と寂しげな表情もみせた。
「どの役柄に一番時間をかけましたか?」という質問に対し、是枝監督は「あんまり順番はつけられないんだよな…でも、ここにいるからいうわけではないけど、松岡さんの役は最初書いていたのとは全然違う役だったんですよ。松岡さんと会って、どうしてもこの子が撮りたいなと思って松岡さんを選んだわけですけど、希林さんに映画の中では詳細に描かれない役柄の背景の部分について多くご指摘を受け、希林さんはそういうところに対して、すごい鋭いので、そこが脚本として甘いんだなと思って、書き直していきました。そういった作業が、役者さんとの意見交換の中でできていくということが、監督にとってとても素晴らしい充実した作業なんですけど、今回はそれがとてもよかったと思います」と明かした。
観客からは「是枝監督の大ファンです。全てが素晴らしかったです。とても感動的で悲しかった。安藤サクラが素晴らしかった」といった感想も上がるなど、上海でも確実に人々の心に届いた本作。大きな拍手が送られるなか、是枝監督らは、会場を後にした。
『万引き家族』
6月8日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか公開中
監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:リリー・フランキー 安藤サクラ
松岡茉優 池松壮亮 城桧吏 佐々木みゆ
緒形直人 森口瑤子 山田裕貴 片山萌美 / 柄本明
高良健吾 池脇千鶴 / 樹木希林
配給:ギャガ
【ストーリー】 高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋に、治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀の4人が転がり込んで暮らしている。彼らの目当ては、この家の持ち主である初枝の年金だ。足りない生活費は、万引きで稼いでいた。社会という海の底を這うような家族だが、なぜかいつも笑いが絶えず、互いに口は悪いが仲よく暮らしていた。冬のある日、近隣の団地の廊下で震えていた幼い女の子を、見かねた治が家に連れ帰る。体中傷だらけの彼女の境遇を思いやり、信代は娘として育てることにする。だが、ある事件をきっかけに家族はバラバラに引き裂かれ、それぞれが抱える秘密と切なる願いが次々と明らかになっていく─。
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