リドリー・スコット監督 インタビュー『ゲティ家の身代金』再撮影の決断の裏側についても!

1973年の大富豪ジャン・ポール・ゲティの孫の誘拐事件を映画化した、巨匠リドリー・スコット監督最新作『ゲティ家の身代金』が5月25日より全国ロードショーとなる。このほど、本作のメガホンをとった巨匠リドリー・スコットが、本作の再撮影や映画製作についてインタビューで語った。

この誘拐事件は、1700万ドル(当時のレートで約50億円)という破格の身代金を要求されるも、50億ドル(当時のレートで約1.4兆円)の資産を持つゲティがその支払いを拒否し、日本のメディアでも大きく報道された。本作では、この事件の裏側で、誘拐犯と身代金を拒むゲティの間で戦い続けた人質の母親の姿を描く。

メガホンを取ったのは、『オデッセイ』、『アメリカン・ギャングスター』、『グラディエーター』、『エイリアン』などを手掛けた巨匠リドリー・スコット監督。本作は、大物プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ問題に端を発した騒動により、当初ジャン・ポール・ゲティ役だったケヴィン・スペイシーが全米公開を目前に突如降板し、代役にクリストファー・プラマーを立て短期間で再撮影を敢行した。お蔵入りをも危惧された危機的状況を短期間で乗り越え、アカデミー賞(助演男優賞:クリストファー・プラマー)、ゴールデン・グローブ賞(監督賞:リドリー・スコット、主演女優賞:ミシェル・ウィリアムズ、助演男優賞:クリストファー・プラマー)、英国アカデミー賞(助演男優賞:クリストファー・プラマー)でノミネートされるという快挙を成し遂げた。

リドリー・スコット監督 オフィシャルインタビュー全文

Q:驚異的なスピードで再撮影を決定し、当初の予定通り年内公開、というのが信じられませんでした。この奇跡を可能にしたのは一体何だと思いますか?

スコット監督:素晴らしい効率の良さと、たくさんの経験だよ。そこには何のマジックもない。やっていることをちゃんとわかっていることだ。僕にはすごく経験がある。(最終的に)やらないといけないことがわかっていた。それは、基本的にケヴィン・スペイシーを入れ替えることだった。さもなければ、この映画は消え去ってしまっただろう。このままではスタジオは、この映画にプリント代や広告費をかけないからね。公開日に行き着く前に死んでしまっただろう。僕のパートナーや僕に、そういうことを起こさせることは出来なかった。なぜなら、(製作費を出したのは)ソニーじゃないからだよ。プライベートの投資家なんだ。だから僕は彼のところに行って、「僕たちはこれを直せる。誰をキャストし直すことが出来るかわかっている。再撮をして、予定通りに公開出来るよ」と言ったんだ。僕にはそれを出来ることがわかっていた。なぜなら僕のチームは、どんなことでもとてもうまく出来るからだよ。彼らはとても優れている。正確さがとても大事なんだ。

Q:クリストファー・プラマーのことをすぐに思いついたんですか?

スコット監督:クリストファー・プラマーの名前は常に候補者のリストにあった。かなり前にこのプロジェクトをやっていた時にね。実は、このプロジェクトを始めたのは多分、5月か6月なんだ。とても早く製作が進んだんだ。リストには2人しか載っていなかった。ケヴィン・スペイシーとクリストファー・プラマーだ。それで、僕はクリストファーに電話をかけたんだ。

Q:これは、世界一裕福な男がターゲットとなった世紀の大誘拐でした。

スコット監督:そうだね。

Q:そのためにスキャンダラスに語られてきた実在の事件を映像化するにあたって、最も焦点を当てて描きたかったのはどんな点でしたか?

スコット監督:僕は、事実に基づいたストーリーが好きなんだ。ほとんどジャーナリズムのようなストーリーが好きだ。これまでに手がけた他のジャーナリスティックな映画は、多分『アメリカン・ギャングスター』。『ブラック・ホークダウン』もそうかもしれない。それから間違いなく今作だ。今作はジャーナリスティックな扱いが要求される。それは、僕が普段やっていることと違うものだよ。なぜなら、僕はたくさんサイエンス・フィクションをやるからだ。いろんな作品をやる。多様性のあるものをね。でも、僕は、今についての題材をやるのが好きなんだ。現代社会や今日についてのものを。これは、70年代に僕が経験したシンドロームだった。僕はこの事件のことをとてもよく知っていた。僕はロンドンで、60年代、70年代、とても楽しい時を過ごしたからだよ。だから、それに関わった人々を何人か知っていた。もちろん、とても興味を持った。でも、僕が企画開発したわけじゃない。脚本が送られて来たんだ。

Q:2017年公開作、そして今後アナウンスされるものも含め、監督、プロデューサーとして膨大な数の作品を手がけています。そのペースが年々加速しているようにも感じます。その原動力は一体何でしょうか?

スコット監督:それもまた経験だと思うよ。じっくり考えないことを学ぶんだ。くよくよ考えない。ただやるんだよ。今作で(ケヴィン・スペイシーとクリストファー・プラマーを)入れ替えたように、じっくり考えていないで、(その問題を解決するために)何か実際にやることだ。最も大変で最も困難なことは、どんな題材であっても、それを書くことだよ。一旦、それが脚本に書かれて、その題材についてのビジョンがあれば、フィルムメーカーやライターの見方によって、どんなことでも興味深いものになる。だから僕は多くの映画を手がけているんだ。自分がやっていることが大好きだからだよ。

Q:最後に、日本のファンにメッセージをいただけますか?今作の最大の見どころは何でしょうか?

スコット監督:この映画は、みんなが考えているものじゃないと思う。裁判事件であるとか、トーキングヘッズ(画面に語り手の顔が出てくるもの)じゃないんだ。今作には、とてもストレスフルで、時にはかなり暴力的なところが出てくる。多くの意味で、それは家族の崩壊についてのストーリーなんだ。でもまた、子供のために立ち向かったこの女性の人生におけるとても緊張した瞬間だ。ミシェル・ウィリアムズによって演じられたこの女性の意志の強さや勇気は、最も重要なものだ。ファンタスティックだよ。

『ゲティ家の身代金』
5月25日(金)全国公開
監督:リドリー・スコット
出演:ミシェル・ウィリアムズ クリストファー・プラマー ロマン・デュリス チャーリー・プラマー マーク・ウォールバーグ
配給:KADOKAWA

【ストーリー】 “世界中のすべての金を手にした”と言われた大富豪ジャン・ポール・ゲティ。愛する17歳の孫ポールが誘拐され1700万ドル(当時のレートで約50億円)という破格の身代金を要求されたゲティは、こともあろうかその支払いを拒否。彼は大富豪であると同時に、稀代の守銭奴だったのだ。離婚によりゲティ家から離れ中流家庭の人間となっていたポールの母ゲイルは、息子のために誘拐犯のみならず世界一の大富豪とも戦うことに。一方、一向に身代金が払われる様子がないことに犯人は痺れを切らし、ポールの身に危険が迫る。しかし、事件は思いもよらぬ展開へと発展していく。

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