第70回カンヌ国際映画祭特別招待作品として上映された、ソル・ギョング主演の映画『名もなき野良犬の輪舞』が5月5日より公開となる。本作の公開を記念し、4月19日に渋谷ユーロライブにてトークイベントが行われ、「ハゲタカ」の原作で知られる小説家の真山仁、映画評論家の松崎健夫が登壇した。
80年代の香港映画やヨーロッパ映画のような古典的でスタイリッシュな映像と、名優ソル・ギョングと若手注目株イム・シワンの共演で話題となった本作。トークイベントでは、本作を「万華鏡のような映画!」と絶賛する真山が、作品の魅力や自身が大好きだと語る俳優ソル・ギョングについて、さらに韓国映画の面白さなど、興味深いトークを繰り広げた。
映画の感想を問われると、真山は「おそらく最後まで騙されない人はいないんじゃないかな。人ってこんなに裏切られるんだ、と。さらにその絶望感も何だかだんだん心地良くなってくる、韓国映画独特のカオスが見事にはまったんじゃないかと思う。それに韓国映画で、この手の映画を知っていれば知っているほど、この場面何かに似てるなぁと思うんだけど、思った瞬間アウトですね。もう騙されてます」と絶賛。また、「あまり韓国映画を観たことがない人にとっては、あれよあれよという間に自分がどこにいるかわからなくなる、まるで万華鏡みたいなんです。下手したら破たんするんだけど、破たんしなかったのがこの作品だと思う」と熱くその魅力を解説した。
また、大好きな俳優だという主演のソル・ギョングについては、「これまでの作品では、どちらかというと優しい頼りがいのあるお父ちゃんって感じなんだけど、この作品を観たらぶっ飛びましたね!韓国の俳優って、自分のイメージを全然大事にしないところがすごい。ぜひ日本の俳優さんにも真似てほしい」と語り、「彼の目をみてください!微妙に凶悪な目なんです。笑っているんだけど怖い、できれば3メートル以内には近づきたくない、なんかそういう狂気を出していますよね」と魅力を多いに語った。一方、「他の出演者では、若手のイム・シワン。初めて見る俳優さんでしたが、この彼はこれから追っかけなきゃと思わせるカメレオン俳優ですね。TPOというか、1本の映画でいろんな顔を出せてしまう。彼にはこれから期待したいです」と本作でさらなるお気に入りの俳優を見つけたようだ。
さらに、韓国映画が大好きな理由としては「最大の理由は“絶望的なラスト”ですね。救いがない。自分の小説もよく救いがない“ハッピーエンドがない真山”って言われるんです。だからなかなか映像化してもらえないのですが(笑)。だから、ぜひ私の小説を韓国映画に!と思い、お恥ずかしい話ですが海外エージェントに私の作品を韓国で翻訳してくれって、この2、3年やっているんですけれど、なかなかうまくマッチングできなくて」という意外な話も飛び出し、「ただ、救いがないって一言で言うのではなくて、そこに必然性があるんです。頭からみていくと、いろいろな伏線がほとんど目立たないように組まれていて、それがちゃんとラストに閉じて、閉じるんだけど、絶望とともに見ている人をちゃんと突き放してくれる。だからといって気分が悪くなって帰るわけではない、そこがエンターテインメントとしてのレベルの高さを感じますね」と韓国映画愛が感じられるコメントが続いた。
また、お気に入りの作品の一つに『新しき世界』を挙げ、韓国版の『ゴッドファーザー』だと語った真山に対し、「真山さんの「ハゲタカ」の映像をみたとき、これは血の出ない『ゴッドファーザー』だと思ったんです」と言う松崎からの言葉には、「それすごく嬉しいです!これはあんまり言ったことないんですけど、(「ハゲタカ」に)日光のミカドホテルという舞台がでてくるんですが、これは完全に“コルレオーネ家”って感じで描きました。日本だとウェットな家族の描き方が多いんですが、でも家族だからこそどうしようもない、答えのでない葛藤もあり、イタリア映画はその描き方がうまい。かたや、どれだけ仲が良くても遺産相続の段階で骨肉の争いをする、というので有名なのが日本人なんで(笑)。身内の距離感が近いのか、お金がはいると逆効果になる。我々はそういうこともエンタメで伝えることによって、社会勉強してもらえればよい。その点韓国映画はうまいと思う」と自らの作品の裏話も交えたトークに、観客も熱心に耳を向けていた。
最後に真山より「映画って最近イメージが先行していて、ハリウッドならこう、ヨーロッパ映画ならこう、韓国映画ならグロテスクや怖いというイメージを持たれている方も多いとおもうのですが、それだけでなく、物語の深さがあって、観たあと、すぐもう一度観てみたくなる魅力のある映画が多いと思っています。この作品は、最近正直韓国映画が元気がないなと思っていたのですが、それを覆す、食い入るように観ないと必ず騙されると思いますので、それでもまたリベンジしていただいて、そんなもう一回観る魅力のある映画だと思いますので、どうぞお楽しみください!」という熱いコメントでイベントは締めくくられた。
『名もなき野良犬の輪舞』
5月5日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督:ビョン・ソンヒョン
出演:ソル・ギョング イム・シワン チョン・ヘジン キム・ヒウォン イ・ギョンヨン ホ・ジュノ
配給:ツイン
【ストーリー】 犯罪組織でナンバー1に成り上がるという野望を持つ受刑者のジェホ(ソル・ギョング)は、刑務所へ入所してきた野心的な新入りヒョンス(イム・シワン)と出会う。ジェホはこれまでの人生で一度も他人を信じたことはなかったが、ヒョンスが奇襲からジェホを救って以降、二人はお互いに信頼しあい、一緒に働くことを誓う。出所後、彼らはチームを組んで犯罪組織を乗っ取ろうとするが、次第にそれぞれの秘めた動機が現れ始める。彼らの信頼の下に潜む真実が姿を現すとき、二人の関係は哀しきものへと変わっていく。
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