2016年に公開され、世界各国の国際映画祭で11の賞を受賞した金子雅和監督作『アルビノの木』が、4月21日より池袋シネマ・ロサにて凱旋上映される。それを記念して、4月14日から20日に「金子雅和監督特集」が開催。18日には、金子の初長編作であり映画美学校修了制作『すみれ人形』が上映され、上映後のトークショーに、2005年当時映画美学校の専任講師として金子を指導した映画監督の瀬々敬久、ヒロインを演じた山田キヌヲ、そして金子雅和監督が登壇した。
13年前に撮影された『すみれ人形』を久しぶりに観客と共に鑑賞した瀬々は、「映画美学校で金子くんの担当講師だったのです。あとストリップシーンのかぶりつきで出演しました(笑)」と告白。また、この作品で金子監督とタッグを組んで以来、金子作品に多数出演する山田は、「今日家でDVDを見直して来ました。どのシーンを見ても楽しい思い出ばかり」と語った。
同時上映された金子のデビュー作『AURA』(1998年)について、「傑作だと思った。金子は映像詩の人。ところで『AURA』でも『すみれ人形』でも手が執拗に出てくるけど、なんで?」という瀬々の質問に対し、金子は「世界に触れる器官として、手が面白いと思うんです。こんなに複雑に動くのは人間だけだし」と返答。すると、瀬々が「演出的にも手へのこだわりはあった?」と山田に問うと、「踊りのシーンで手をつくと、“山田さん違うんです、あと1センチ右です”みたいに、すごい細かく」と苦労を語り、場内から笑いが起こった。
「山田さんのセリフ回しが朗読っぽいけど、それも金子の演出?」という瀬々からの質問に、金子は「このヒロイン役はキャスティングが難しく何か月も色んな人に会いました。当時の山田さんはとてもボーイッシュな感じだったけど、本読みをやってもらったらああいう口調。すごく良いと思ってすぐにお願いしたんです」と明かした。それを受け、山田は「(ロケ地が僻地なので)早朝とか夜中にスタッフの人が自宅前まで車で迎えに来て出発。そこで渡されるのが99円ショップの、さらに50円割引されたおにぎり2個(笑)」と撮影の裏話を披露した。金子も「スタッフはみんな学生で経験がない、予算もない。とにかく大変な撮影でした」と振り返り、山田は「日に日にスタッフが減っていって。あんまり可哀そうだから、途中からわたしが(スタッフキャストのために)おにぎりを作って持って行ってた。大変だけど楽しかったな」と、過酷な状況でも一致団結して作品を作り上げた当時を語った。
『すみれ人形』の冒頭に登場している綾野剛の出演の経緯について、金子は「それまでプロの役者を使ったことがなかったのですが、瀬々監督があとあとのことを考えると役者は大事、2~3年後にブレイクする役者を使え、と仰ってキャスティングディレクターを紹介してくださいました。その人の一押しが綾野さんでした。一目会っただけですごくインパクトがありました」と説明し、当時の綾野の印象についても語った。また、「『すみれ人形』はエロスとバイオレンスがあって、話がどんどん変わっていって、いわばトンデモ映画。良く言えば豊かとも言える。それに比べると『アルビノの木』はすごくシンプル。どうして変わったの?」という瀬々からの問いに、金子が「『すみれ人形』の時は初めての長編で、まだ長尺の物語を作ることが出来なくて、接ぎ木のようにエピソードを付け足していきました。長編2作目『アルビノの木』ではその反対に、ひとつの主題で見せきることを意識しました」と答え、最新作『アルビノの木』まで短編も含め変化の経緯を見てきた山田は「(演出は)昔ほど細かくない。周りの人が金子さんを理解したり、応援している様子が現場で伝わってきました」と語った。
かつての教え子に対する瀬々監督からの愛情を感じる質問と、「今後も金子作品に出たい。金子さんがわたしを一番きれいに撮ってくれた」という山田の言葉に、場内は終始温かい雰囲気に包まれていた。最後に金子は、「特集で上映された旧作の集大成が『アルビノの木』。インディーズでこれ以上は出来ない、という覚悟で作った自分にとって大きな区切りの作品。豊かな大自然描写が最大の見どころ。ぜひ大きなスクリーンでご覧ください」と作品をPRし、トークイベントは終了した。
映画『アルビノの木』は4月21日から池袋シネマ・ロサにて連日上映され、初日は出演の松岡龍平、長谷川初範、増田修一朗、金子雅和監督らが舞台挨拶に登壇する。上映期間中もトークイベントが複数開催される予定だ。
『アルビノの木』
4月21日(土)より、池袋シネマ・ロサにて公開
監督・脚本・撮影・編集:金子雅和
出演:松岡龍平 東加奈子 福地祐介 増田修一朗 山田キヌヲ 長谷川初範
配給:マコトヤ
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