市川実日子 × 松尾諭 × 吉田大八監督が登壇!『羊の木』ロングラン御礼トークイベント レポート

『桐島、部活やめるってよ』、『紙の月』など、人間の光と闇を描き続ける吉田大八監督の最新作で、錦戸亮主演で贈る『羊の木』が2月3日より公開中。3月23日、東京の渋谷シネパレスでロングラン御礼トークイベントが行われ、出演の市川実日子、松尾諭、監督の吉田大八が登壇した。

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吉田監督の進行で、キャストを呼んで行うトークショーは今回が4回目。松尾が「実は僕も一緒に観てたんですよ。気づいてました?」と言うと、観客からは驚きの声が。「公開から2ヶ月ほど経ちますが、こうして観てもらえてありがたいです」という吉田監督は、市川と松尾に感想を尋ねると、松尾は「今日が3回目の観賞なんですけど、やっぱり面白かったです。改めて結構笑えるところがあるなと。僕がボソッと話してからドラムを叩き始めるシーンとか」とコメント。市川も「あそこ面白いですよね」と共感すると、吉田監督は「こないだ新宿でティーチインをやったんだけど、その部分に関して“何であんなことをしたんだ!”というお客さんからの指摘がありました」と明かした。ドラム初心者だったという松尾は「現場でこういう風に言ってくださいと指示があって面食らったシーンでした。そもそもドラムの練習でいっぱいいっぱいだったので…」と振り返り、「撮影は1日だけでしたが、ドラムの練習は7日間しました。せっかく練習したので、音楽スタジオの会員証を作りましたよ!」と明かすと観客からは驚きとともに、笑いが漏れた。

サスペンスフルなシーンもある本作に関し、「市川さんは恐い映画は苦手なんでしょ?」と吉田監督が問うと、「試写の時は(怖がってしまって周りの方に)ご迷惑をおかけしました」と謝る市川。動物の死骸に触れるシーンを回想し「お亡くなりになったものに触れるのがダメなんですよ」と明かし、「その撮影の夜、ホテルの部屋でクラっとしてしまって。全然大丈夫だったんですけど」と驚きの告白が飛び出した。「やっぱり一つの役に魂を込める女優さんと伺ってるんで。本当に素晴らしかったですよね?」と松尾が観客に同意を求めると、客席からは拍手が起こった。

市川が注目したポイントは、本作で初共演した水澤紳吾。水澤と交友のある松尾から裏話も飛び出す中、市川は「(終盤のシーンで)水澤さんの目がとても大きくなるんですよね。それまでは目が細いのに、すごく見開いてて、光もちゃんと入ってて」と、その表現力に驚いたという。それに対して吉田監督は「あれは僕からは何も指示していないです。俳優が監督にも共演者にもあえて何も言わずに、その場のカメラの前で何か出したくなる瞬間というのはやっぱりあるんですかね」と反応した。一方で、市川が気になっていたのは、松尾の起用理由だという。市川が「どうして錦戸さんの同級生役に松尾さんなんですか?(同級生に)見えます?」と観客に問いかけると、松尾が「出てたやろ、同級生感」と反論し、客席は笑いと頷きが飛び交った。

松尾が7日間練習して挑んだというバンド演奏シーンに話が及び、「僕も(木村)文乃ちゃんも楽器初めてなんですよ。でも、錦戸くんはギターもドラムも出来るんですよ。だから、演奏シーンではちょっと余裕のある感じになってる」と松尾が明かすと、市川は「ベースがそういう役割なのか、すごく2人のことを見ているなと思っていました」と感想を述べた。吉田監督も「音楽のスタッフも、あの練習量でこれだけ叩けるのは相当センスがあると褒めてたんですよ」と太鼓判を押した。

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市川演じる元殺人犯・栗本に関しては、「栗本と(松田龍平演じる)宮腰は人間じゃないんです、って監督に言われたのを覚えてます」と話した市川。吉田監督は「市川さんや松田さんじゃなかったらダメだったと思ったし、2人に本当に助けてもらったなと思います」と振り返った。市川は「栗本の場合は“こうだからこうする”というのを考えちゃうとできないんですよ。途中から、動物なんだなと思って。初めての人には警戒する、観察する、みたいな」と役柄への独特のアプローチについて語った。そして、元殺人犯6人のうちで、その部屋が映るのが、市川演じる栗本だけだったという話になり、監督は「僕は映画の中で部屋を作るのがすごく苦手なんですよ。自分でシナリオを作っていても、部屋っていうものになじみと関心があまりないんだと思う。でも、栗本が部屋で一人でいるシーンを作りたかったから、あの部屋を見つけて、そこに市川さん演じる栗本がはまってくれてよかったなと。この部屋にちゃんと栗本が住んでるように見えているとホッとしたことを思い出しました」と意外なエピソードを披露した。

テイク数が多いことで知られる吉田組の現場に関し、「1回でOKだったのは何回くらいでしたかね?1回でOKになると、ほんとに?って。俳優同士で自慢話になる感じでした。もちろん、いい意味で、ですよ」と市川。松尾は「監督の演出はすごく丁寧だし、何がやりたいのかが分かるし、ちゃんとしたものを作ろうという姿勢が伝わってくるので僕はすごく楽しかったですよ!」と撮影を振り返った。そして、イベント終盤には、市川の提案で急遽客席とのQ&Aが実施されることに。「栗本は何を信じて、何を疑っていたんでしょうか?」という質問に対し、市川は「羊の木の絵が描いてある缶を見て、死んだ生き物を埋めたら、また会えるんだっていうことを信じてたり…この人はすごくいろんなことを信じてると思います。警戒はするんだけど、疑っていないというか」と、自身が演じた栗本についての考えを伝えた。

『シン・ゴジラ』でも共演した市川と松尾の気心知れた仲むつまじい軽快なやり取りに、客席は最後まで大盛り上がり。終始アットホームなイベントとなった。

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『羊の木』
2月3日(土)より公開中
監督:吉田大八
脚本:香川まさひと
原作:「羊の木」(講談社イブニングKC刊)山上たつひこ いがらしみきお
出演:錦戸亮 木村文乃 北村一輝 優香 市川実日子 水澤紳吾 田中泯 松田龍平 細田善彦 松尾諭
配給:アスミック・エース

【ストーリー】 ある寂れた港町“魚深(うおぶか)”にやってきた見知らぬ6人の男女。平凡な市役所職員・月末(つきすえ)は彼らの受け入れを命じられた。受刑者を仮出所させ、過疎化が進む町で受け入れる国家の極秘プロジェクト。月末、町の住人、そして6人にもそれぞれの経歴は知らされなかった。しかし、月末は驚愕の事実を知る。「彼らは全員、元殺人犯」。犯した罪に囚われながら、それぞれ居場所に馴染もうとする6人。素性の知れない彼らの過去を知ってしまった月末。そして、港で発生した死亡事故をきっかけに、月末の同級生・文を巻き込み、町の人々と6人の心が交錯し始める。

© 2018「羊の木」製作委員会 ©山上たつひこ いがらしみきお/講談社