錦戸亮は「魅力的で説得力がある」吉田大八監督&脚本家・香川まさひと『羊の木』トークイベント レポート

『桐島、部活やめるってよ』、『紙の月』など、人間の光と闇を描き続ける吉田大八監督の最新作『羊の木』が2018年2月3日より公開される。原作は熱狂的な支持を集める山上たつひこ&いがらしみきおの巨匠タッグによる超問題作「羊の木」。マンガ界を震撼させる内容で、2014年文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞した。このほど、1月19日、東京のApple銀座にてトークイベントが行われ、吉田大八監督と脚本家の香川まさひとが登壇し、製作の舞台裏を語った。

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吉田監督と香川のタッグは映画『クヒオ大佐』以来約10年ぶり。再タッグの経緯について吉田監督は「殺人犯が過疎化の港町にやってくるという原作にある設定が面白いと思ったし、混沌としたパワーもあった。ただそれにどうやって手を付けたらいいのかわからず、辞退しようと思ったときに、香川さんが思い浮かんだ」と回想した。すでに原作を読んでいた香川は「企画の打ち合わせはまさに悪夢。70回くらいやりました。それで完成まで2年くらいかかった。ここまで時間をかける映画も珍しい」と過ぎ去った苦労を報告した。

劇中の殺人犯たちの状況は、現実世界の移民問題と置き換えて見ることもできるが「7冊にも及んだ打ち合わせノートには、刑務所の問題や公務員の問題などの新聞記事の切り抜きが貼られているし、移民問題についての視点もあった」と香川が証言すると、吉田監督は「シナリオ作業の時は今ほどに移民問題を切実に考えていたわけではなかったが、今になって移民問題に対する世界の切迫感が強くなった気がする。映画に描かれていることがリアルに迫ってきて怖いけれど、しかし映画は時代の中で見られるものなので、避けられないもの」と本作の持つ世界観に現実問題が接近したことに驚いた。

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元殺人犯たちという“異物”を受け入れられるか?ということがひとつのテーマになっているが、吉田監督は「現代は考えの違う人との線をはっきりと引きがち。お互いにわからないことに傷つき合いながら、付き合っていくということがなくなってきた」と、SNSなどを中心とした対面しないですむネット社会の危機感との関係を明かした。香川は「今回の映画の打ち合わせ自体が激しいぶつかり合いで、多い時は17時間も吉田監督と顔を突き合わせて、殺してやろうか!と思うところまでいった」とぶつかり合いの制作過程を報告。これに吉田監督も「決別するかと思うことが3度あったが、それでも香川さんとは付き合い続けた。シナリオ作業はその繰り返し。だからこそのぶつかり合いの熱量が映画にも表れている」と舞台裏の激闘を語った。

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また吉田監督は、主演を務めた錦戸について「普通の青年を演じても魅力的な人。原作よりは若い設定だが、より若い未熟な魂が殺人犯たちとの触れ合いを通してどう変わるのかを見せるのがより映画向きだと思った。錦戸さんはそんな普通を演じても説得力のある人」と自然体演技を賞嘆した。男女6人の殺人犯の受け入れを担当することになった市役所職員・月末を演じているが「そんな彼の表情を通して、元受刑者たちの姿や事件を見せていきたかった」と狙いを明かした。

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『羊の木』
2月3日(土)より全国ロードショー
監督:吉田大八
脚本:香川まさひと
原作:「羊の木」(講談社イブニングKC刊)山上たつひこ いがらしみきお
出演:錦戸亮 木村文乃 北村一輝 優香 市川実日子 水澤紳吾 田中泯 松田龍平
配給:アスミック・エース

【ストーリー】 さびれた港町・魚深(うおぶか)に移住してきた互いに見知らぬ6人の男女。市役所職員の月末(つきすえ)は、彼らの受け入れを命じられた。一見普通にみえる彼らは、何かがおかしい。やがて月末は驚愕の事実を知る。「彼らは全員、元殺人犯」。それは、受刑者を仮釈放させ過疎化が進む町で受け入れる、国家の極秘プロジェクトだった。ある日、港で発生した死亡事故をきっかけに、月末の同級生・文(あや)をも巻き込み、小さな町の日常の歯車は、少しずつ狂い始める…。

© 2018『羊の木』製作委員会 ©山上たつひこ、いがらしみきお/講談社