伝説のバーマン、チャールズ・シューマン&菊地成孔が登壇!映画『シューマンズ バー ブック』トークイベント レポート

世界中のバーでバイブルとなった革新的レシピ本「シューマンズ バー ブック」の著者である伝説のバーマン、チャールズ・シューマンが原点を探す旅に出るドキュメンタリー映画『シューマンズ バー ブック』が4月21日に公開となる。それに先立ち、3月6日に東京ドイツ文化センターにてトークショー付特別試写会が行われ、PRのため来日したチャールズ・シューマンと、ミュージシャンの菊地成孔が登壇した。

シューマン&菊地成孔さん2
 
トークイベントは、二人の軽妙な掛け合いに観客から大きな笑いが起こるなか、「世界最高のバーもカフェもフレンチもドイツ料理もみんな東京にある!」という話で幕を閉じた。なお、トークイベント後は映画が上映され、終映後には満席の観客から拍手が沸き起こり、客席から立ち上がったシューマンが、日本語で「ありがとう!ありがとう!」と感謝の言葉を大きな声で伝えた。その後、シューマンはたくさんの写真撮影とサインのリクエストに応え、会場を観客が去る最後までその場で見送った。

以下、トークショーの模様を掲載。

菊地:私はまだ55歳の若造ですけど。

シューマン:そうですね、私に比べれば若いかもしれないけれど、そんなに若くもないですよね(笑)。

菊地:色々な方と仕事で会いますが、あなたに会えてとても光栄です。

シューマン:私もとても嬉しいのですが、残念ながら日本語が上手く出来ないので、日本の素敵な方と知り合うことがなかなかできないのです…。

菊地:僕は仕事柄、ドイツには行くことが多くて、若い頃は脳みそも優れているので、レストランで注文するくらいのドイツ語は出来ていたんです。

シューマン:またドイツ語を始めてください。歳をとればとるほど、新しく何かを学ぶということが重要になってくると思います。私も今、日本語を勉強していて、いつか日本人になろうと思っています(笑)。

菊地:素晴らしいですね。ところで、僕の実家は、実は母方は寿司屋で、父方は割烹でした。割烹わかりますか?カジュアル懐石です。

シューマン:では次にお会いする時、ぜひお父様の割烹に行きましょう。

菊地:ええ、残念ながら両親とも亡くなっているんです(笑)。

シューマン:ごめんなさい。その情報を知らなかった。じゃあ菊地さん、今度ミュンヘンに是非来てください。私はまだ料理できますので。ドイツ料理、お好きですか?

菊地:そこですねえ。僕がドイツに行っていたころはマルクの黄昏で、EUになる直前でした。ドイツの文化を非常に尊敬していますが、残念ながら当時のJAZZミュージシャンが食べるドイツの食事は、イタリアやフランスに比べてちょっと落ちるかなというのが正直なところです。

シューマン:私たちの食文化というのはすごく低下しているということはありますね。ピザとパスタばかり食べるようになってしまう。でも、ミュンヘンの私の「シューマンズバー」では、優秀な女性のシェフを育てました。今、彼女は日本で料理研究をしていて良いレストランで働いています。ぜひ行ってみてください。

菊地:素晴らしい。さて、一般的にバー文化というのは、そもそも僕の中では、very dangerous、many many gangsters drunk and fighting every night…お酒を出すところだけど、荒っぽいイメージがあります。

シューマン:そういう意味では、この映画『シューマンズ バー ブック』は、バー文化の色々な側面を見せてくれるということで、少しは貢献できたかなと思います。この映画の中では、東京のシーンも多いのですが、東京のバーというものを私は本当に羨望の眼差しで見ています。あまりにも素晴らしいので、自分もそのようなバーを作りたいと思い、色々なエッセンスを吸収させてもらいました。

菊地:僕の母方は寿司屋なので、寿司職人と食べる客がカウンターを挟んで、一対一のコミュニケーションをとります。そのあり方は、すごく集中力と緊張感があり、酔っ払ってけんかするような場所と全然違います。

シューマン:私は寿司職人でもなく日本のバーマンでもないので、なかなか日本のそういった文化について語ることは出来ませんけれども、ミックスする、いわゆる飲み物を作るということは、なかなか教えることは出来ないと日本のバーマンから聞いたことがあります。

菊地:僕は上映後のトークは得意なのですが、まだ観てない人たちの前で喋るのは苦手で…、なんで上映前に喋らされるのかと思うんだけど。

シューマン:飲んでから観なきゃいけないような映画だからね。でも飲んでしまうと喋れない(笑)。

菊地:まあ簡単に言うと、この映画は、マエストロ(シューマン)がどんだけカッコいいかを伝える映画です。

シューマン:ありがとうございます。私は実際にバーで仕事をしていますけれども、自分はそんなに飲みません。バーで仕事をする上では、やはりお客さんが飲み過ぎないようにして差し上げるのが正しいバーマンとしての姿勢ではないかと、いつもそのように思っています。

菊地:この映画では、東京のバーを非常にリスペクトしてくださっているのがよく描かれています。先ほど寿司屋の話をしたのは、ともすれば、飲んでグダグダになってしまう場所でのぎりぎりのところで、てんぷら職人とお客さん、寿司職人とお客さん、懐石料理屋とお客さんというのは、緊張感によって非常に知的で上品に事を進めていく。そういったことと日本のバーは繫がっているのではないか?というようなご興味をシューマンさんがお持ちなのではないかなという気がしている一方で、バーを堅苦しく考えずに皆で楽しもうという、何でもありな感じもしますね。

シューマン:私がやっているシューマンズバーは、東京にあるバーよりずっとお店の規模が大きいんですね。そのかわりに、東京のいわゆる高級バーのように敷居が高いわけではないです。誰でも行ける、誰でも席さえ確保できれば行って楽しめるバーになっています。

菊地:そういったバーカルチャーが醸しえる可能性の全てを右から左までみんな見せてくださる。

シューマン:この映画では、どのようなお酒の飲み方をしているか、国によって飲み方にどのような違いがあるか、あるいは、バーマンの違いなどについてを観ていただけるかと思います。そして、バーマンというのは、人々に喜びをお伝えする仕事なのではないかと思います。自分の職業によって人を喜ばせることができるのではないか、ということをこの映画を作りながら考えました。ちょっと話しかけづらいバーマンもいるかもしれないのですが、ぜひ皆様もバーに行かれることがあったら、観察してですね。ぜひコミュニケーションを取っていただければと思います。この映画が完成してから、自分の職業というのは、ただの儀式とかセレモニーではなく、来てくださったお客様に喜びを伝えられる素晴らしい職業だなと、本当に毎日毎日思うようになりました。

菊地:フランス、すくなくともパリでは、と限定していいかもしれないですが、文化が栄えている空間というのはどちらかというとカフェ。カフェでは小説が書けるし議論ができる。

シューマン:ちょっと訂正していいですか。パリに良いカフェはありませんよ。世界で一番素晴らしいカフェは東京にあります(笑)。

菊地:もちろん、もちろん(笑)。世界で一番素晴らしいフランス料理屋も、世界で一番素晴らしいドイツ料理屋も東京にあると思います!

シューマン:何年も前から東京を頻繁に訪れていますけれど、このカフェ文化というのが、こんなにも早く確立されて発展したということに驚かされます。東京というのは非常にドイツから遠くて、むしろフランスの方が行きやすいところにありますが、カフェに関しては世界で最も劣悪なカフェがあるのもフランスだと思います(笑)。

菊地:おっしゃるとおりです。

シューマン:(日本語で)ホントウ(笑)。

菊地:小説を書いたり長い哲学議論も出来ないという意味で、バーはカフェに比べるとそこで馥郁と文化が発達していく可能性というのは一見無いようにみえるんだけれども、この映画を観たら皆さんお考えが変わると思います。

シューマン:パリにももちろん素晴らしい伝統の格式あるカフェがあると思いますけれども、ミュンヘンにいる私の友達は、ものを書いたり考えたりするためにはバーの開店直後の早い時間に行くのが良いと言います。バーは飲むところなので、遅い時間に行くより開店直後の空いている時間がお薦めです。

菊地:すごく端的に言うと、我々は、カフェのカルチャーに飽き飽きしていて。ちょっと飽きているところがあって。

シューマン:私はコーヒー5杯飲まないと体が目覚めない人間なので、そういう意味でカフェがなくなるというのはちょっと考えにくいです(笑)。それが高じて自分でカフェもやっています。カフェバーという形でコーヒーも飲めるところを作りまして、それがドイツで大きなトレンドを生み出したというのも確かなことです。菊地さん、次はベルリンじゃなくてぜひミュンヘンに行きましょう!

『シューマンズ バー ブック』

4月21日(土)、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

監督:マリーケ・シュレーダー

出演:チャールズ・シューマン シュテファン・ウェーバー デイル・デグロフ ジュリー・ライナー コリン・フィールド 岸久 上野秀嗣 

配給:クレストインターナショナル

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