谷崎潤一郎の小説を現代風にアレンジして映画化した『悪魔』が2月24日に公開初日を迎え、テアトル新宿にて舞台挨拶が行われ、主要キャストの吉村界人、大野いと、前田公輝、遠藤新菜、藤井道人監督が登壇した。
この日、新作の撮影で福岡にいた吉村は、この舞台挨拶のために飛行機で緊急帰京。「(谷崎潤一郎作品は)学生時代から読んでいました。でも『悪魔』は読んでいなかったんです。(いち読者から、佐伯を演じることになって)俳優っていいことがあるな、と。良い職業に就いたなと思いました。(一見難しそうな役作りも、主人公である)佐伯が、昔から今も絶え間なく僕の心の中にいました。僕が佐伯に近づくというよりは、佐伯が僕の中にいたので、(演じていて自分と佐伯の)切り替えが難しいということは無かったです」と、数多くの谷崎作品の中で、『悪魔』と運命的な出会いをしたことを明かした。
また、「役作りはとても難しかったです」と切り出した大野は、「オファーを頂いた時は、私とは正反対の女の子ですし、男の人を誘惑するような役は楽しみでした。でも照子は冷酷なところが多くて、精神的にも、とても体力を使う役でした」と、谷崎ならではの独特な女性像と自身との違いに四苦八苦した様子だった。
狂気ともいえる異色のキャラクター、鈴木を演じた前田は、「(鈴木は)照ちゃん(=照子)を愛するが故に、ピュアな恋愛感情の表現(の仕方)が曲がっただけなので、撮影現場では照ちゃんの王子様でいようと思っていました」と、子役から長年役者をやり続けているからこその特異な役作りを披露した。
佐伯の大学の同級生で、ストーリーのキーパーソンとなる、あゆみを演じた遠藤は、「登場人物たちみんな様子がおかしい人しかいない中で、あゆみはその中では普通の人であるという解釈をしています。救いというかほっとする役どころになったらいいなと思いながら演じました」と、三人との微妙な距離感を保たなければならない難しさを語った。
弱冠31歳ながら、映画やドラマの監督オファーが相次ぐ*藤井道人監督は「(TANIZAKI TRIBUTEシリーズ)発起人の内田英治監督からオファーを頂いた時に、この『悪魔』と出会って、主人公、佐伯の心の深い部分が現代に解釈しても凄く共感できたので、この『悪魔』にトライすることに決めました」と、この『悪魔』を選択した理由を語った。
*山田孝之がプロデューサーを務める今年公開予定の映画「デイアンドナイト」や、鈴木おさむが脚本を手がける、AbemaTV開局2周年記念オリジナル連続ドラマ『会社は学校じゃねぇんだよ』(主演・三浦翔平、早乙女太一、宇野実彩子、松岡広大)なども監督している。
また、本作のタイトル『悪魔』にかけて、それぞれにとっての「悪魔とは?」と聞かれると、吉村は「台詞に頼らず体現する役者にならなければいけないと言う藤井監督が悪魔的にきつかったです(苦笑)」と本音をポロリ。前田も「(劇中で対峙する)吉村界人です(笑)」と率直に答え、監督は「香盤表(その日の撮影スケジュール表)を見せる時の役者たちが、怖くて。この現場はとても寒かったし、朝から深夜まで大変な現場だったと思う」と撮影現場の過酷さを伺わせた一方で、遠藤は「この映画の大野さんの目は本当に小悪魔そのもの!」と大野の魔性っぷりを大絶賛。それを受けて大野は「(遠藤さん)好きです!大好きです!」と、すぐ隣に立つ吉村や前田を飛び越えて感謝のラブコールを送り、会場は温かな笑いに包まれた。
舞台挨拶の最後に、これから本編を観る観客へ向けて監督は、「自分なりの悪魔に向かい合いながら、若いチームで団結力をもって挑みました」とアピール。大野も「大学の谷崎大ファンの友人が(先月の先行上映会で)観てくれて、本当に良かったと感想を言ってくれたので、皆さんも楽しんで観ていただけると思いますし、ラストシーンは、照子の本性が観られるので、ラストまでしっかり観ていただけたら嬉しいです」と熱く語った。吉村は「明るい映画じゃないですけれど、登場人物全員心弱き者なんです。役者として社会的に弱き者を演じることが出来て嬉しいし、僕は(これからも)そうでありたいと思っています」と締めくくり、会場からは大きな拍手が巻き起こった。
『悪魔』
2月24日(土)より、テアトル新宿ほか、全国順次公開中
原案:谷崎潤一郎
監督:藤井道人
出演:吉村界人 大野いと 前田公輝 遠藤新菜 山下容莉枝
配給:TBSサービス
【ストーリー】 大学入学のため上京した佐伯(吉村界人)は、閑静な住宅街にある林邸に下宿する。林家には大家の千枝、高校生ながら不思議な色気と魅力を持つ千枝の娘・照子(大野いと)、そして、照子を偏愛する林家の親戚にあたる鈴木(前田公輝)が住んでいた。佐伯は、アルコールにおぼれ、幻覚に苦しみ、大学にもなじめない。そして、下宿先では、照子が佐伯の部屋へ頻繁に訪れ、小悪魔のように佐伯の心を惑わしていくのだった。ふたりの様子を見た鈴木は、佐伯に対し、照子に近づかないよう警告をする。反発する佐伯だったが…。
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