『恋する惑星』、『ブエノスアイレス』、『花様年華』を後に発表するウォン・カーウァイ監督の2作目にして、各国の映画祭でセンセーションを巻き起こした傑作『欲望の翼』が、デジタルリマスター版として、2月3日より全国ロードショーとなる。このほど、公開当時のウォン・カーウァイ監督の貴重なインタビューが公開された。
“1960年4月16日3時1分前、君は僕といた。この1分を忘れない―”という名セリフの誕生秘話を聞かれた監督は、「確かにこのセリフを書いたのは僕ですが、僕自身は、いまだかつてこんなセリフは妻にも言った覚えはありませんよ(笑)。こういうのは、人の気をひくための話し方です。これは私の考えですが、レスリー(・チャン)にはかなりナルシスティックなところがあり、他の人を好きになれない。一番好きなのは自分です。どこか自己中心的なところが彼にはあります。しかし彼はとても頭のいい人間であり、役柄の上でも養母のレベッカひとりに育てられ、女の扱い方を知っているという人間です。ですから、ここではそうしたレスリーの女のあしらい方のツボを心得ているという感じを出したかった。そこから、こういうセリフが生まれてきたわけです」
またこの映画の中で最もミステリアスな場面ともいえるラストシーン。突然、何の脈略もなく登場するひとりのギャンブラーとおぼしき男をトニー・レオンが演じている。記者会見で「このワン・シーンが唐突に挿入されているのでは」という指摘に対して監督は、「あれは、いろんな場所にいろんな時間があることを示したかったからなのです。同じ時刻に世界のどこかではベルリンの壁が壊れ、世界のどこかでは誰かが食事をしている。同じ時刻にいろいろな場所で、いろいろなことが起きているという感じを出したかったんです。あの場面のすぐ前の、香港の坂道で鳴る公衆電話のカットや、フィリピンに到着したカリーナ(・ラウ)のカット、サッカー場の受付にいるマギー(・チャン)のカットは、すべて同じ時間に起こっていることなんです。ラストのトニー・レオンのワン・シーンも、その同じ時刻に世界のどこかで起こっていることのひとつとして描いたのです」と説明した。
「時間が異なれば、状況も異なります。私たちは今ここにいて話をしていますが、数年後はみんな別の場所にいて、ここには居ないでしょう。中国には、時間について、こんな諺があります。“桃の花は毎年いつも同じだが、花を見る人は毎年違う”。誰かが今年この花を見る、5年後にはこの人はいなくて別の人がやってくる。もしかしたら誰もこないかもしれない。例えば、どこかで話をしたり、食事をしたりする。それが心の片隅に残っていて、ある日、突然思い出す。つまり“一瞬”が大切なのです。生きているうちで、その1分間は唯一無二の1分間なんです。過ぎてしまえば、二度と戻ってこない。そして記憶の中の出来事は、たとえ1分間でもとてもとても長い。好きな出来事は大切にとっておくことが出来るし、嫌いな出来事は消し去ることができる。それが個人にとっての“時間”なのです。私は“人間が生きていくことの最大の報酬は思い出を持てるということだ”と思っています」
“時間”に対する強いこだわりと想いを作品に込める監督、ウォン・カーウァイ独特のスタイルの原点を知ることのできるインタビューとなっている。「あの時にしか生まれ得なかった」奇跡の傑作が、製作から28年の時を経て新たな疾走を始める。
『欲望の翼 デジタルリマスター版』
2月3日(土) Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開
監督・脚本:ウォン・カーウァイ
撮影:クリストファー・ドイル
出演:レスリー・チャン マギー・チャン カリーナ・ラウ トニー・レオン アンディ・ラウ ジャッキー・チュン
配給:ハーク
【ストーリー】 「1960年4月16日3時1分前、君は僕といた。この1分を忘れない。君とは“1分の友達”だ。」ヨディ(レスリー・チャン)はサッカー場の売り子スー(マギー・チャン)にそう話しかける。ふたりは恋仲となるも、ある日ヨディはスーのもとを去る。ヨディは実の母親を知らず、そのことが彼の心に影を落としていた。ナイトクラブのダンサー、ミミ(カリーナ・ラウ)と一夜を過ごすヨディ。部屋を出たミミはヨディの親友サブ(ジャッキー・チュン)と出くわし、サブはひと目で彼女に恋をする。スーはヨディのことが忘れられず夜ごと彼の部屋へと足を向け、夜間巡回中の警官タイド(アンディ・ラウ)はそんな彼女に想いを寄せる。60年代の香港を舞台に、ヨディを中心に交錯する若者たちのそれぞれの運命と恋──やがて彼らの醒めない夢は、目にもとまらぬスピードで加速する。
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