『へばの』、『愛のゆくえ(仮)』に続く、木村文洋監督による渾身の最新長編『息衝く』の公開日が2月24日に決定し、本作の予告編とメインビジュアルも公開された。併せて、宗教学者、島田裕巳と、小説家の木村友祐から本作への推薦コメントが寄せられた。
ある政権与党の政治団体でもあり、大新興宗教団体でもある「種子の会」。この映画は、そこで育った二人の男と一人の女を巡る、3.11以後のこの国の物語である。宗教の掲げる理想、原発の再稼働に目を瞑る政党。理想と現実の間に揺れ、自らの信念を問い続けながらも団体の中で生きる二人の男、則夫と大和。一方、「種子の会」を離れ、母親となり、一人で子を育てる女、慈(よし)。彼らには絶対的に信頼を寄せる父親的存在がいた。幼少期からの師でもあり、精神的支柱でもあるカリスマ、森山周。「ひとは一人で生きていける程は強くない。世界ぜんたいの幸福を願うときこそ、個であれ」。そう言ったかつてのカリスマは、日本という国を捨てて失踪した。彼が思い描いた未来は果たしてどこにあったのか。この物語は、未だ生きることに揺れ、自立を確かな実感として感じることのできない三人が、森山に再び会いにいくことで、自身の背けていた何かを取り戻そうとする。
■島田裕巳(宗教学者) コメント
親と子と信仰。これは、三位一体の関係にある。そんな関係が成立してしまうのも、その背景には貧しさがあり、社会の矛盾があるからである。社会は冷酷で、その矛盾を弱者に押し付けてくる。弱者は居場所を失って、新宗教に逃げ場を求める。その組織は果たして、そうした矛盾から人を救い出してくれるのだろうか。それは、映画が提起する重要な課題だ。
■木村友祐(小説家) コメント
『息衝く』を観ながら、おれはこんな小説が書きたかったんだと全身がざわつき、高ぶり、軽い嫉妬をおぼえていた。息ができない現代日本の空気感を生々しくとらえながら、それでも〝まっとうさ〟を希求する本作の純真なたたずまいに、胸打たれずにはいられない。
公開された予告編では、その三人が混迷する現代社会の中で、激しい政治活動に飛び込んでいく様子、かつて持っていた宗教心に揺れる姿、そして、彼らの家族との関わりなどが描かれている。理想なき社会。そこで各個人がいかに希望をもち、生き続けていくのか。この映画を観る者は、ある特殊な生育環境で育った三人の、それでも誰しもが求める生の実感を追い求める旅を通して、この国の抱える根本的な問題を知ることになるだろう。
『息衝く』
2018年2月24日(土) ポレポレ東中野ほか全国順次公開
監督:木村文洋
出演:柳沢茂樹 長尾奈奈 古屋隆太 木村知貴 齋藤徳一
配給:team JUDAS
【ストーリー】 3.11、数年後の夏を迎える、東京。参議院選挙が始まろうとしていた。この国にとって幾度目か、そして則夫、大和にとって―果たして幾度目の「忙しい夏」なのか。彼らはカリスマ・森山の失踪後、久しくして“種子の会”選挙に呼び戻される。「原発廃炉が争点となるか」、その言葉を幹部との人質に交わしながら。活動に邁進する大和。一方、則夫は、幼少期に核開発が始まった青森県・六ヶ所村に妹と父とを残してきた記憶に決着をつけられず、母・悦子との最後の時間を目前にしていた。そのさなか、かつて想いを抱いていた慈と再会する―。
©teamJUDAS2017