1960年代、ロックバンドやポップアートの中心で時代の寵児となった歌姫ニコ。だが本作『残響のメロディ 魂の放浪者ニコ、最後の旅路』が描くのは、華やかな栄光の時代ではなく、彼女がこの世を去る直前の晩年の姿だ。

舞台は1986年のイギリス・マンチェスター。孤独に暮らすニコは、過去の名声から距離を置きながら、ヨーロッパ各地を巡るツアーへと出る。しかしその旅は、薬物依存や精神的不安、周囲との軋轢といった問題に直面する過酷なものだった。
ステージで輝く姿の裏側で、彼女は「ニコ」という偶像から脱却し、本名であるクリスタ・ペーフゲンとして生き直そうともがき続ける。アラン・ドロンとの間に生まれた息子アリとの関係や、東欧でのアンダーグラウンド公演などを通して、母として、そしてひとりの女性としての葛藤と再生が静かに浮かび上がっていく。
物語の中盤では、チェコスロバキアでのライブが無許可だったことから警察の強制捜査が入り、演奏が中断される緊迫した場面も描かれる。逃亡を余儀なくされる中でも歌い続けるニコの姿は、彼女の人生そのものを象徴するようだ。
さらに、薬物依存と自殺未遂を経験した息子アリをツアーに同行させることで、母としての後悔と向き合う展開も見どころのひとつ。音楽と人生の狭間で揺れる彼女の姿は、単なる音楽映画の枠を超えた濃密な人間ドラマとして胸に迫る。
監督は、『キアラ』『ミス・マルクス』で高い評価を受けたスザンナ・ニッキャレッリ。主演のトリーヌ・ディルホムは、自ら歌唱も担当し、神話化されたスターではなく、怒りや弱さを抱えた“ひとりの人間”としてのニコをリアルに体現している。
また本作は、1980年代後半の空気感を再現するため、1:1のスクエアフォーマットで撮影。さらに実際の映像素材を取り入れたフラッシュバックによって、過去と現在が交錯する独特の映像表現も大きな見どころとなっている。
音楽映画でありながら、ひとりの女性の再生の物語として世界各国で高い評価を受け、数々の映画賞にも輝いた本作。伝説の裏側にある“孤独”と“再生”を描いた、静かで力強い一作となっている。
■作品情報
作品名:『残響のメロディ 魂の放浪者ニコ、最後の旅路』
公開日:2026年7月17日(金)より全国順次公開
監督・脚本:スザンナ・ニッキャレッリ
出演:トリーヌ・ディルホム、ジョン・ゴードン・シンクレア、アナマリア・マリンカ ほか
製作年:2017年
製作国:イタリア・ベルギー
上映時間:93分
言語:英語・ドイツ語・フランス語・チェコ語
原題:NICO, 1988
配給:NEGA
©2017 VIVO FILM / TARANTULA

