“姿を消す”という選択の先にあるもの『蒸発』公開決定

日本では毎年、約8万人が失踪し、そのうち数千人が完全に姿を消すといわれている。彼らは「蒸発者」と呼ばれ、人間関係のトラブルや借金、社会的圧力など、さまざまな理由から過去を断ち切り、別の土地で新たな人生を始める。ドキュメンタリー映画『蒸発』は、こうした日本特有ともいえる現象に真正面から向き合い、その実像と、失踪者、そして残された人々の心の軌跡を静かに見つめていく。

本作が描くのは、単なる失踪の実態ではない。いわゆる「夜逃げ屋」と呼ばれる存在の仕事を通して、蒸発を選ばざるを得なかった人々の事情や葛藤、そして人生をゼロからやり直そうとする希望が浮かび上がる。深い喪失感と再生への願いが交錯するその姿は、観る者に強い没入感をもって迫ってくる。

監督を務めたのは、ドイツ人映画作家のアンドレアス・ハートマンと、ベルリンと東京を拠点に活動する映像作家の森あらた。異なる文化的背景を持つ二人の視点が重なり合うことで、日本社会の中では見えにくい「隠された世界」が浮かび上がる。センセーショナルな演出を避け、人々の声に丁寧に耳を傾ける姿勢が、本作に静かな説得力を与えている。

本作はコペンハーゲン国際ドキュメンタリー映画祭で連日満席を記録し、ミュンヘン国際ドキュメンタリー映画祭では最優秀作品賞を受賞。40以上の国際映画祭で高い評価を受け、ドイツ国内でも50館以上のアートハウスで上映されてきた。世界各地で注目を集めてきた作品が、ついに撮影地である日本で劇場公開される。

なお、出演者の身元保護のため、本作ではAI技術を用いて一部の顔や音声に加工が施されている点も特徴のひとつだ。社会の周縁に追いやられがちなテーマを扱いながらも、『蒸発』は判断や非難を押し付けることなく、観る者に考える余白を残す。人はなぜ姿を消すのか、そして「自分自身」を取り戻すとはどういうことなのか――静かな問いが胸に残る一本となっている。 

▼予告編

■作品情報
『蒸発』
監督:アンドレアス・ハートマン、森あらた
撮影:アンドレアス・ハートマン
編集:カイ・アイアーマン(BFS)
音楽:ヤナ・イルマート、竹原美歌
制作:Ossa Film
共同制作:Mori Film、バイエルン放送(BR)
配給:アギィ
製作国:ドイツ/日本
製作年:2024年
上映時間:86分
公開日:2026年3月14日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開

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