ドキュメンタリーとフィクション、記録映像を横断しながら、環境危機とジェンダーの未来を静かに、しかし力強く問いかけるハイブリッド・ドキュメンタリー『水の中で息をする ―彼女でも彼でもなく―』が、2026年1月31日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開される。

本作が着目するのは「海のミルク」とも称される牡蠣の存在だ。牡蠣は食材として人々を魅了するだけでなく、呼吸によって水を濾過し、水質を改善する役割を担っている。集団で生息し、牡蠣礁を形成することで、微生物や甲殻類、小魚たちの住処となる生態系の要でもある。さらに特筆すべきは、繁殖の過程で性別を変えるという性質だ。本作は、こうした牡蠣の生態を手がかりに、私たち人間社会のあり方や、固定化された性別観、そして環境と共生する未来の姿を見つめ直していく。
今回解禁された予告編では、海底に沈められた列車が藻に覆われ、小魚たちがその周囲を泳ぐ幻想的な光景や、水が溢れ出し洪水を予感させる地下鉄構内の映像などが映し出される。かつて牡蠣の収穫量で世界一を誇ったニューヨークの歴史、黒人奴隷たちが支えた産業の記憶、乱獲による牡蠣の激減、そして気候変動による海面上昇と都市洪水。そうした現実に対し、市民団体による「牡蠣を海に戻す」取り組みが希望として提示される。
ドキュメンタリーでありながら、フィクションや歴史映像を巧みに織り交ぜた構成により、環境危機とジェンダーの問題を感傷的な美談に回収することなく、観る者に思考の余白を残す映像世界が立ち上がる。
▼予告編
【著名人コメント】
■アオイヤマダ(パフォーミングアーティスト)
牡蠣に手を差し伸べられ、牡蠣に手を差し伸べる。彼女でも、彼でもない彼らに教わる生き方は牡蠣の殻のように、きっと未来を切り拓いてくれる。先日、ニューヨークで牡蠣を食べました。在住の友達に、「ニューヨークを知るひとつ」と言われた理由がわかりました。あの一粒に詰まった物語、これからも、食べる度に呼吸を思い出す。
■小田香(映画作家)
多くの人にとって、性別は2種類しかない。私はじぶんの性別に名前をつけることを諦めてしばらく経つ。この映画を観ながら、環境によって性別を変えられる牡蠣のような柔軟さがあれば楽なのかな?と考えていたが、なんだか人間ぽい発想だなと思った。牡蠣にとっては男も女も古代のワードかもしれない。常に進化の途中。みな個として、くっつくのだろうし、くっつかないやつもいるだろう。そしてそれが末には小魚の住処として在れるかもしれないのだから、どんなに素晴らしいだろう。
■森山至貴(社会学者)
男と女、白人と黒人、自然と人工…いくつもの二項対立を乗り越える地点に存在する牡蠣は、ともすると安易な美談の象徴になりうる。このことに自覚的な本作は、ドキュメンタリーとフィクションを巧みに混淆させ牡蠣の意義を豊かに乱反射させることで、見知った「感動の実話」に回収されないクィアな未来を提示する。
■児玉美月(映画批評家)
牡蠣は一生のうちに性別を変化させる生き物として知られる。ノンバイナリーの映画作家が手がけたこのドキュメンタリー作品は、人間と牡蠣の境界線を撹乱する独創的な語り口で、わたしたちの社会の在り方を問う。そしてそこでは、あなたが息苦しい場所にいても少しでも息がしやすくなるように、という作家の祈りが波のように寄せ返す。
■作品情報
邦題:水の中で息をする ―彼女でも彼でもなく―
原題:Holding Back the Tide
製作国/年:アメリカ/2023年
上映時間:77分
言語:英語
監督:エミリー・パッカー
プロデューサー:トレイ・テルーオ
撮影:ジョン・マーティ
編集:リンジー・フィリップス、ベン・スティル
字幕翻訳:西山敦子
デザイン:中野香
配給宣伝:ブライトホース・フィルム
配給協力:野崎敦子
公開日:2026年1月31日(土)より
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