東日本大震災と原発事故から13年。福島の被災地では、帰還した住民、移住者、仕事や復興のために訪れる人など、多様な背景を持つ人々が交錯しながら、新たな生活が紡がれている。ドキュメンタリー映画『ロッコク・キッチン』は、東京と福島を結ぶ国道6号線(通称「ロッコク」)沿いの町を舞台に、「食」を切り口として、そこに生きる人々の現在を静かに、そして温かく映し出す。

本作で描かれるのは、原発被災地ツアーを企画するインド人女性・スワスティカ・ハルシュ・ジャジュ、「おれたちの伝承館」を運営する写真家・中筋純、夜だけ開く本屋「読書屋 息つぎ」を営む武内優という3人の人物。それぞれの“キッチン”に立つ姿や、料理の手ざわり、食卓で交わされる言葉を通して、彼らの日常と人生が軽やかに紡がれていく。一人で食べる食事、仲間と囲む鍋、寒い夜に体を温めるスープ――その一つひとつが、震災という過酷な体験を経た土地で育まれた「生活の色」であり、記憶であり、希望の証だ。
監督を務めたのは、ノンフィクション作家の川内有緒と映画監督の三好大輔。川内がインタビューと構成を、三好が撮影を中心に担当し、約1年にわたってロッコク沿いの町を訪ね歩いた。また本作には、地元住民の協力によって集められた震災以前のホームムービー映像も挿入されている。かつての町の日常や家族の風景を映すそれらの映像は、再開発や解体によって失われつつある「暮らしの記憶」を次世代へ手渡す、貴重なアーカイブとなっている。
「なにを食べるか」は、「どう生きてきたか」と深く結びついている。食卓を見つめることで浮かび上がる福島の「いま」。『ロッコク・キッチン』は、震災をテーマにしながらも、重さだけにとどまらず、人と人とのつながりや、生きることの確かさを静かに問いかける一本だ。
▼予告編
■作品情報
タイトル:『ロッコク・キッチン』
監督:川内有緒+三好大輔
制作年/制作国:2025年/日本
上映時間:122分
公開日:2026年2月14日(土)よりポレポレ東中野、3月6日(金)よりシモキタ – エキマエ – シネマ『K2』ほか全国順次公開
©ロッコク・キッチン・プロジェクト

