日本統治時代に台湾で生まれ、戦後の「二二八事件」の渦中で多くの市民を救った弁護士・湯徳章（トゥン・テッチョン）。歴史の狭間に埋もれたその人物像を追いかけるドキュメンタリー映画『湯徳章―私は誰なのか―』（原題：尋找湯德章）が、2026年2月28日（土）よりユーロスペースほかにて全国順次公開される。

本作は、2016年公開『湾生回家』で台湾の“湾生”たちの記憶を描いた黄銘正（ホァン・ミンチェン）監督が、連楨惠（リェン・チェンフイ）監督とともに、5年をかけて制作した意欲作。今回、日本公開決定とあわせてキービジュアルと場面写真が解禁された。湯徳章が抱えていた“多層的なアイデンティティの揺らぎ”を象徴的に表現したビジュアルは、本国版を踏襲しつつ、日本公開に向けて再構築されたものだ。

物語は1947年3月13日、現在の台南市中心部にある民生緑園（現・湯徳章記念公園）で行われた一人の男の公開処刑から幕を開ける。湯徳章は日本人の父と台湾人の母のもとに生まれ、日本で司法を学んだのち台南で弁護士として活動。戦後、国民党政権の圧政に対して民衆が不満を募らせたなか発生した「二二八事件」で、市民を守るため奔走した人物として知られる。しかし、その詳細を知る人は台湾でも多くない。

映画は、湯徳章の養子や姪、果物屋の店主、ジャーナリスト、歴史家、作家といった人々を訪ね歩き、記録や証言を手繰り寄せる旅の記録である。積み重なる声の断片から、彼の人柄、人生の選択、揺れ動くアイデンティティが少しずつ立ち上がっていく。

台湾が日本統治から国民党による統治へと移行した激動の時代。統治者が変わるたびに塗り替えられ続けた“台湾人とは誰か”という問い。その中心で苦悩しながらも市民のために力を尽くした湯徳章の姿は、現代台湾が抱える集団的な迷いや、私たちが自らのルーツを考える際に直面する普遍的テーマとも響き合う。

黄銘正監督は、本作の根底にあるテーマをこう語る。「台湾には言葉にしにくい“アイデンティティの混乱”が長く影を落としてきました。湯徳章の人生には、その手がかりが無数に隠されています。観客である“あなた”がそれを見つけてくれる日を楽しみにしています」連楨惠監督は「過去に起こった出来事が、今の私たちをつくっている」と語り、湯徳章の旅を通して台湾の歴史と現在をつなぐ想いを込めている。 

本作では、監督であり俳優としても知られる鄭有傑（チェン・ユウチェー）が湯徳章を演じ、当時の情景を再現するパートも挿入。証言と再現、歴史と現在が交差する独自の構成は、従来の歴史ドキュメンタリーの枠を超え、温もりやユーモアに満ちた“生活の延長線上にある歴史”として物語を立ち上げている。湯徳章の生涯とともに、台湾の近代史、その土地で生きてきた人々の記憶を見つめる旅が、いよいよ日本の観客へと届けられる。

■作品情報
タイトル： 『湯徳章―私は誰なのか―』
原題： 尋找湯德章
公開日： 2026年2月28日（土）よりユーロスペースほか全国順次公開
監督・撮影： 黃銘正（ホァン・ミンチェン）、連楨惠（リェン・チェンフイ）
出演： 鄭有傑（チェン・ユウチェー）
プロデューサー： 連楨惠（リェン・チェンフイ）
企画・製作： 角子影音製作有限公司
配給 / 国際版権： 希望影視行銷股份有限公司
監修： 栖来ひかり
日本語字幕： 加藤浩志
後援： 台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター
配給・宣伝： 太秦
上映時間： 93分（2024｜台湾｜DCP）

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