佐藤浩市「いい思い出になった。まるで映画みたいだった、本当に」『愛にイナズマ』ティーチインイベント

松岡茉優と窪田正孝がW主演し、石井裕也監督史上最もポップ&ハッピーなタッチで描かれる愛と希望とユーモアに満ち溢れた痛快ストーリー『愛にイナズマ』が、10月27日より公開中。そのヒットを記念して、11月12日にヒューマントラストシネマ渋谷にてティーチインイベントが行われ、佐藤浩市、石井裕也監督が登壇した。

日曜日の朝から上映に駆けつけた満員の観客の前に、プロデューサーの北島直明の呼び込みで、佐藤浩市と石井裕也監督が颯爽と登壇。佐藤は第一声で「あんまり寒くなかったから良かったですね」と親しみを込めて観客に語りかけ、リラックスした雰囲気でトークイベントがスタートした。

北島が、「SNSで生涯ベスト級ですとか、今年ナンバーワン、何度でも見たい、というような非常にポジティブな意見が多いですが」と感想を聞くと、石井監督は「普段はあまりみないんですが」と前置きしつつ「今回は(もう一本の公開作品)『月』と公開時期が重なったのでよく見てるんですが、びっくりしたのは、「オールタイムベスト」と言ってらっしゃる人が多いこと。その方の人生にとって特別な一本になったということなので、それは本当に嬉しいですね。生涯で1番なわけですから」と喜びを言葉にした。そして、「そういう作品になった理由って…浩市さん、分かります?」と佐藤に話を振ると、「なんだろうね。一番っていうのはページをめくるように変わって行くもんだから、それでいいと思うんだけど。1つ言えるのは、この作品は(誰にしも)なにか刺さってくる。年代・性別云々で左右されない映画ということが大きいと思います」と思いを述べた。「国が違えば宗教も違う、人種も違う、そういう中で、全ての人に気に入ってもらうことは理想ではあるけど、現実的ではないんだけれど」という佐藤に、「それでも(本作は)うまく合わさった、特別なものになった」という石井監督に、「不思議な偶然がいくつもあった」と振り返った。

トークは撮影現場の具体的な内容に移り、佐藤が「家族での喧嘩のシーンは、ワンカットのグループショットで撮った後に、じゃあ次こっち側から、次はこっちから、と、監督が面白がって何度も撮ったもの」と現場の様子を明かした。石井監督は「編集のために重ねたのではなく、(シーンが)面白いからもっといろんな角度から見たくて何度も撮影した。そういう現場での面白がり方が、すごく伝わったシーンになった」と笑顔で返すと、佐藤は「なので、よく感想でアドリブっぽいといわれるのだけど、ノンアドリブですから。全部石井監督の台本通り。現場で1発目のテストから、あ、これいけるな、という感覚があって。監督は本番の時もほとんどカメラを覗かず脇で芝居を見ているんだけど、その時の、彼のその顔ですよ。それがやっぱり僕らにとっては1番の、なんていうか、栄養剤なんでね。もっとやってやろう、という気持ちをくれる。本当にいろんな意味合いが重なって、面白くできましたね」と、監督と俳優同士の信頼が高い現場だからこそのシーンだったと語った。石井監督も「浩市さんを見ている若手の俳優たちも、釣られてノってきたっていう、グルーヴのようなものが間違いなくありました」とお互い手ごたえを感じながらの撮影現場だったと一致して振り返った。

続いて、観客からの質問に答えていくところでは、本作を2回見たという観客からの「素晴らしい作品でした。脚本を読んだときに思ったことについて教えてください」との質問に対し、「とにかく石井裕也の勢いを感じたんですよ。そこに息づく人たち(キャラクター)を感じて、演じたいと思った」と返答。次に質問をした方も「2回目ですが泣いて笑って楽しませてもらいました」との感想の後、「正夫(窪田正孝)のセリフで「人間は死んだら天国に行くんですよね」というセリフがあったが、お二人の死生観をお聞かせください」と質問されると、石井監督が驚いた様子で「すごい!今、僕もちょうど死後の世界を研究中で、どうやって死後の世界にコネクトしようか考えてるんですよ」と返答。「この作品が、ある人にはものすごく受け入れられて、ある人には受け入れられない要素のひとつって僕はそこだと思っていて。全編に死の匂いみたいなものが貫かれてる気がするんですよ。それを1番、最前線で体現したのが浩市さんだと思うんですけど。生と死の垣根については意識していました。ただ、無邪気にやってたので理論化されてはないんです、僕の中では」と語ると佐藤も、「スピリチュアルな意味合いでお聞きになられたかどうかはわからないけれど、石井監督が今考えてらっしゃる(死生観についての)曖昧な部分が、この映画の後半に生かされていたと思う」と佐藤も納得していた。

そこから、撮影以外でのプライベートな付き合いの話に移り、「浩市さんはお酒を飲むと、酩酊されるんですよ。酩酊した直後ぐらいは、多分ですが浩市さんは違う世界にコネクトしていて、何を聞いても瞬間的に答えが返ってくるんですけど、浩市さんはそのことを一切覚えてないんです」と明かし、「俺は、ダライ・ラマの口頭筆記じゃないけど、全部記録して、後でちゃんと伝える係だと思って一緒に飲んでいます」と、佐藤のものすごく哲学的で凄まじい語彙力だという酩酊時のエピソードを楽しそうに暴露していた。

すると、そこから本作の公開記念舞台挨拶を3回実施した日の思い出話に移り、折村家の家族(佐藤浩市、松岡茉優、池松壮亮、若葉竜也)と正夫(窪田正孝)とスタッフで打ち上げをした際に、別れ難くなりもう一軒行きましょうと、打ち上げ会場の五反田から目黒のバーまで皆で歩いた、というエピソードを披露。「この映画に出てきたバーに行きましょうとなって、そうしたら壮亮(池松)が、五反田から目黒まで歩きましょうというので、あ、いいよって歩いてロケ場バーまで行ったんですよ。家族みんなで30分ほど歩いてね。そうしたら茉優(松岡)が“本当にこんな思い出はない”って言ったけど、まさにその通りで。忘れることができない、いい思い出になった。まるで映画みたいだった、本当に」と振り返り、まさに映画のワンシーンのような素敵な思い出を明かしてくれた。

ほか数人の質問に答えたあと、最後のフォトセッションでは、自ら「いい映画なんで(記事を)使ってください」と記者に語りかけていた佐藤。最後、石井監督より「こうやって浩市さんが公開して2週間経ってもまだ(イベントに)来てくれるということは、本当に特別な作品になったということだと思います。まだまだ映画館で上映を続けて、1人でも多くの方に見てもらいたいので、ぜひ皆さんよろしくお願いします」と、本日ご来場いただいた観客へ、心からを感謝の意を示して、トークイベントを締めくくった。

『愛にイナズマ』
2023年10月27日(金)全国ロードショー
監督・脚本:石井裕也
主題歌:エレファントカシマシ「ココロのままに」
出演:松岡茉優 窪田正孝 池松壮亮 若葉竜也 仲野太賀 趣里 高良健吾 MEGUMI 三浦貴大 芹澤興人 笠原秀幸 鶴見辰吾 北村有起哉 中野英雄 益岡徹 佐藤浩市
配給:東京テアトル

【ストーリー】 長年の夢だった映画監督デビュー目前で、すべてを奪われた花子(松岡茉優)。イナズマが轟く中、反撃を誓った花子は、運命的に出会った恋人の正夫(窪田正孝)とともに、10年以上音信不通だった家族のもとを訪ねる。妻に愛想を尽かされた父・治(佐藤浩市)、口だけがうまい長男・誠一(池松壮亮)、真面目ゆえにストレスを溜め込む次男・雄二(若葉竜也)。そんなダメダメな家族が抱える“ある秘密”が明らかになった時、花子の反撃の物語は思いもよらない方向に進んでいく…。

©2023「愛にイナズマ」製作委員会