「会長が新人アシスタントのホテルに」性的搾取の可能性を人事部へ訴えかけるが…『アシスタント』予告編

『ジョンベネ殺害事件の謎』(2017)で知られるドキュメンタリー映画作家のキティ・グリーンが、2017年、ハリウッドを発端に巻き起こった“#Me Too 運動”を題材に、今日の職場における大きな問題を掘り下げた、自身初の⻑編映画『アシスタント』が、6月16日より公開される。このほど、予告編と本ポスタービジュアルがお披露目となった。

名門大学を卒業したばかりのジェーン(ジュリア・ガーナー)は、映画プロデューサーという夢を抱いて激しい競争を勝ち抜き、有名エンターテインメント企業に就職した。業界の大物である会⻑のもと、ジュニア・アシスタントとして働き始めたが、そこは華やかさとは無縁の殺風景なオフィス。早朝から深夜まで平凡な事務作業に追われる毎日。常態化しているハラスメントの積み重ね……。しかし、彼女は自分が即座に交換可能な下働きでしかないということも、将来大きなチャンスを掴むためには、会社にしがみついてキャリアを積むしかないこともわかっている。ある日、会⻑の許されない行為を知ったジェーンは、この問題に立ち上がることを決意するが……。

予告編は、“夢の仕事についたはずだった”ジェーンのある1日を切り取ったもの。名門大学を出たにもかかわらず、彼女は組織で最も力のないヒエラルキーに属するがゆえ、クリエイティブな仕事は一切やらせてもらえない。仕事といえば、誰でもできるような雑用ばかり。電話に出る、コピーをとる、郵便物を開ける、コーヒーを淹れる、掃除をする……「下っ端だから」「女性だから」と目に見えない差別による役割分担とルーティンに追われ、次第に自尊心を奪われ無力感を覚えていく。そんな中、会社のトップの不正を確信したジェーンは「会長が新人アシスタントのホテルに……」と性的搾取の可能性を人事部へ訴えかけるが。シャンタル・アケルマン『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(1975)にインスパイアされた本作は、ほぼセリフなし。一人の女性の感情の揺れを、淡々と働くアクションと微妙な表情の変化だけで見せるジュリア・ガーナーの見事な演技にも注目の映像となっている。

「わたしは どうする?」とキャッチコピーが添えられたポスタービジュアルは、入社5ヶ月目でまだ職場に自分の居場所がないジェーンの戸惑いを捉えたもの。一体何が自分の夢だったのか、何が正しいのか、そして何がやるべきことなのか……ハラスメント体質が根深く浸透した会社で、日々傷ついていく心を殺して機械のように業務を遂行するものの、まだ人間らしさが残っていて完全には組織に染まりきれないジェーンの、複雑な表情を映したビジュアルとなっている。

24時間のあいだ、まるで透明な存在のようにさまざまな暴力の矛先になるジェーン。自分の意見はほとんど述べず、寡黙に状況を見つめる彼女の目を通じて、観客は自分が同じ立場ならどうするか考えさせられる。また同時に、本作は『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(2022)にも連なる、職場のパワハラや性的虐待を許容し蔓延させているシステムへの痛烈な告発とも言える。一つの確信によって、自らも気づかぬうちに組織のシステムに加担していることを知ったとき、ジェーンはどのような選択をするのか?架空の映画会社の一日が、目に見えない<闇(しくみ)>を明るみに出す。すべての人に問いかける、87分の静かな衝撃となっている。

『アシスタント』
2023年6月16日(金)より、新宿シネマカリテ、恵比寿ガーデンシネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
監督・脚本・製作・共同編集:キティ・グリーン
出演:ジュリア・ガーナー マシュー・マクファデイン マッケンジー・リー
製作:スコット・マコーリー ジェームズ・シェイマス P・ジェニファー・デイナ ロス・ジェイコブソン
配給・宣伝:サンリスフィルム

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