巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督作『ベニスに死す』(1971)で主人公を破滅に導く少年タジオを演じたビョルン・アンドレセンの衝撃の真実を描いたドキュメンタリー『世界で一番美しい少年』が、12月17日より公開される。このほど、本作の予告編がお披露目となった。
“世界で一番美しい少年”として当時一大センセーションを巻き起こしたのは、巨匠ルキノ・ヴィスコンティに見出され、映画『ベニスに死す』のタジオ役に抜擢された当時15歳のビョルン・アンドレセン。同作は1971年カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され「25周年記念賞」を受賞、日本でも、1972年の「キネマ旬報ベスト・テン第1位」になるなど圧倒的に高い評価を得て長年にわたり多くの人に愛され続ける名作だ。観る者の目を釘付けにする圧倒的な存在感で同作を強く牽引したアンドレセンは、同作の日本公開年などに来日、CM出演などの芸能活動も行い、日本のカルチャーに大きな影響を及ぼした。劇中、マンガ「ベルサイユのばら」の作者・池田理代子が語るのは、彼が主人公“オスカル”のモデルであったという事実。そして50年後、かつて伝説のアイコンまでになった彼は、日本でも大ヒットしたアリ・アスター監督作『ミッドサマー』の老人ダン役を演じ、驚愕の変貌ぶりが話題となった。本作は『ベニスに死す』の裏側を明らかにし、“世界で一番美しい少年”と呼ばれその後の人生を運命づけられてしまったひとりの人間の栄光と破滅、そして心の再生への道のりを映し出した衝撃のドキュメンタリー。
予告編冒頭に映し出されるのは、ヴィスコンティが“世界一の美少年、タジオ”を探すために行った大規模オーディションのひとコマ。集められた多くの少年の中からアンドレセンの姿を見つけたヴィスコンティは、彼に歩み寄り、「美しい」と言葉をかける。アンドレセンの運命を変えた瞬間をカメラは捉えていた。『ベニスに死す』でのカンヌ国際映画祭の華やかな狂騒からアンドレセン来日時のファン達の熱狂や日本で行った芸能活動の様子など、豊富なアーカイブ映像により1本の映画をめぐる映画史をも描き出していく。また、本作ではアンドレセン家が残してきたホームビデオや音源なども多く使用。同作出演前に記録された、行動的でありながら音楽好きといった彼のごく普通の少年としての一面なども収められる。さらに、『ミッドサマー』出演時のメイキング映像も。また、彼は熱狂の“あの頃”に訪れた都市を再び巡る。本作がビョルン・アンドレセンというひとりの人間の魅力と悲劇をめぐる旅、そして彼の知られざる人生そのものに光を当てていることが伝わる映像となっている。
語られなかったアンドレセン自身の物語を明かすことで再び歩き出そうとする彼に寄り添い、本作を5年かけて製作した監督のクリスティーナ・リンドストロムとクリスティアン・ペトリは、連名で「私たちは単純な返事よりも興味深い問いかけを信じ、これは簡単な物語ではないことも理解しつつ、魅惑的なものとなっていることを心から願っています。そして、多くの層が重なった物語を伝えることで、ビョルン自身の複雑で深みのある人間性がさらに前に向かっていくことを信じているのです」と製作意図についてコメント。さらに、「私たちは、この映画があの少年が他人によって作られたイメージ、アイコン、ファンタジニーとなり、青年期の人生を奪われた物語に耳を傾ける機会を観る者に伝えることが出来ればと願っています。2021年は『ベニスに死す』のワールド・プレミアで、ルキノ・ヴィスコンティがビョルン・アンドレセンを『世界で一番美しい少年』と高らかに宣言してから50年となる年です。その年に、あの少年が真の姿で帰ってきたのです」とも語る。
『世界で一番美しい少年』
12月17日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国順次公開
監督:クリスティーナ・リンドストロム クリスティアン・ペトリ
出演:ビョルン・アンドレセン 池田理代子 酒井政利
配給:ギャガ
【作品概要】 “世界で一番美しい少年”と称賛され、一大センセーションを巻き起こした少年がいた。巨匠ルキノ・ヴィスコンティに見出され、映画『ベニスに死す』に出演したビョルン・アンドレセン。来日時には詰めかけたファン達の熱狂で迎えられ、日本のカルチャーに大きな影響を及ぼした。だが彼の瞳には、憂いと怖れ、生い立ちの秘密が隠されていた…。そして50年後。伝説のアイコンは、『ミッドサマー』の老人ダン役となって私達の前に現れ、その驚愕の変貌ぶりは話題となる。彼の人生に何があったのか。今、ビョルンは、熱狂の“あの頃”に訪れた東京、パリ、ベニスへ向かう。それは、ノスタルジックにして残酷な、自らの栄光と破滅の軌跡をたどる旅…。
© Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021