東出昌大「芝居が終わると必ず一礼してくださる」田中裕子の俳優としての凄さを語る!

芥川賞と文藝賞をダブル受賞した若竹千佐子のベストセラー小説を、田中裕子が15年ぶりとなる主演をし、蒼井優が共演する、沖田修一監督作『おらおらでひとりいぐも』が、11月6日より公開中。このほど、11月23日に新所沢レッツシネパークにて公開後舞台挨拶が行われ、キャストの東出昌大と沖田修一監督が登壇した。

コロナ禍において、声援は禁止、舞台上には飛沫防止の透明なシートが置かれた状態でのトークとなったが、沖田監督と東出は満員の観客からの割れんばかりの拍手で迎えられた。この街で育ち、この映画館で人生初めての映画となる『グレムリン』を見たという沖田監督は地元の温かい歓迎に感激の面持ちだった。

東出は、田中裕子と蒼井優が現在と若い頃を2人1役で演じた主人公・桃子の夫・周造を演じたが、最初にオファーを受け、台本を読んだ際の印象について「『すごい台本だなぁ…』と思いました。もともと、沖田組に憧れがあっていつかご一緒できればと思っていたところ、大女優で大先輩である田中裕子さんも出演されると伺って、『これはぜひ!』と一も二もなく飛びつきました」と振り返った。

沖田監督は東出にオファーを出した経緯について「周造って、都会の中の故郷という“山”の印象があって、まず大きな人にと思ってまして、原作に“美男子”とあり、身体が大きくてそういう印象の東出さんがぴったりだと思って、どうしても出てほしくてお願いしました」と明かした。一方、東出は期待を胸に飛びこんだ沖田組の現場の印象について「監督が映画少年のように嬉々として現場にいて、プロポーズのシーンで、監督がカメラ横で『ふん!ふん!ふん!』ってうなずいてて(笑)、(撮影の)近藤龍人さんが撮っている画じゃなくて、役者のお芝居をご覧になってるんですね。そういう温かさ、映画愛が沖田作品に通底する朗らかな温かさなんじゃないかと思いました」と述懐した。

本作では、特に食事シーンの周造の食べっぷりが魅力的だが、沖田監督は「東出さんが大衆食堂で食べるシーンは印象的です。たくさん食べてほしいと思っていたんですが、東出さんが口からワカメが出るくらい、たくさん食べてて面白かったです(笑)。(ワカメが)気になるのでもう1回撮ったんですけど、でもやっぱりワカメが出ている方が面白いんですよね。現場で東出さんも『こっちのほうがよくない?』という顔をしてた気がします」と印象的な食事のシーンを挙げた。東出は「(フードスタイリストの)飯島奈美さんは、見た目だけの高級さとかではなく、本当においしそうで、そして実際においしい食事をご用意してくださるんです。業界で食事のことを“消えもの”と呼ぶんですけど、飯島さんの食事は消えものじゃなく、物語を代弁する重要なアイテムとして存在するので、そのお力を借りました」と語った。

昭和の時代の桃子を演じた蒼井優とは『スパイの妻』に続いての共演となる東出は、「『スパイの妻』とは真逆の印象でしたが、周造はあんまり蒼井優さんを意識するという芝居ではなかったと思います。その中で毎回、しゃべり方も空気感も違うし、レンズの前でもいつも自由でいる蒼井優さんで、その姿に尊敬の念と共に、動きのきっかけや心を動かされるお芝居の力をいただきました」と振り返った。一方、現在の桃子を演じた田中裕子については、「以前から映画やCMで拝見していた姿がお美しくて、何なんだろう?と思ってました」と語り、特に周造が桃子の手を取るシーンについて「田中さんは長回しでずっと現場にいらしたんですが、僕はカイロをポッケに忍ばせて、それが幸いして手が温かかったんですね。田中さんの手は冷え切っていて、その手を温めることが出来たのが周造としても嬉しかったです。あのシーンは、田中さんが感極まる瞬間もあったんですけど、監督は『ここは感極まるほうじゃなく、二人の長い年月の…』と演出をされているのを見て、いいシーンだなぁと思っていました」としみじみ。沖田監督も「田中さんのお芝居を見て、ひとりでグッとなっていました」とうなずいていた。

最後に、東出は「田中さんは、芝居が終わると必ずこちらに向き直って一礼してくださるんです。その姿勢に俳優としての凄さを感じました。沖田作品に通底する人間らしさ、温かさみたいなものは、役者が自分の人生や経験から想像し、人ってこうなんじゃないか?と思ったりしながら『こう見えればいいでしょ?』じゃなく、『その人物であろう。そうなりたい』と思ってぶつかっていくことをしたくなる台本だからこそ、みんなそういう芝居になるんじゃないかと思います。本当に沖田組に参加できることは、幸せな時間でしたし、幸せのおすそ分けみたいなことがお客様にできていれば嬉しいです」と語りかけた。また、沖田監督は改めて「映画を作り続けて、またここで舞台挨拶できたら嬉しいです」とふたたびの“凱旋”を約束。ポスタービジュアル同様のこたつ席での和やかなフォトセッションを行い、温かい拍手のなかでトークイベントは幕を閉じた。

『おらおらでひとりいぐも』
11月6日(金)より全国公開中
監督・脚本:沖田修一
原作:若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」
音楽:鈴木正人
主題歌:ハナレグミ「賑やかな日々」
出演:田中裕子 蒼井優 東出昌大 濱田岳 青木崇高 宮藤官九郎 田畑智子 黒田大輔 山中崇 岡山天音 三浦透子 六角精児 大方斐紗子 鷲尾真知子
配給:アスミック・エース

【ストーリー】 1964年、日本中に響き渡るファンファーレに押し出されるように故郷を飛び出し、上京した桃子さん(田中裕子)。あれから55年。結婚し子供を育て、夫と二人の平穏な日常になると思っていた矢先…突然夫に先立たれ、ひとり孤独な日々を送ることに。図書館で本を借り、病院へ行き、46億年の歴史ノートを作る毎日。しかし、ある時、桃子さんの“心の声=寂しさたち”が、音楽に乗せて内から外から湧き上がってきた。孤独の先で新しい世界を見つけた桃子さんの、ささやかで壮大な一年の物語。

© 2020「おらおらでひとりいぐも」製作委員会