是枝裕和監督「僕はまだまだ駆け出しの若造。映画人としての道のりはこれまでの25年間よりも長くしたい」

昨年のカンヌ国際映画祭で日本映画21年ぶりの快挙となるパルムドール(最高賞)を受賞し、興行収入46億円を記録した大ヒット作『万引き家族』の是枝裕和監督の長編14作目となる最新作にして初の国際共同製作映画『真実』が、10月11日より公開される。このほど、本作が10月3日に開幕した第24回釜山国際映画祭でGala Presentation部門へ出品され、是枝監督がAsian Filmmaker of the year(今年のアジア映画人賞)を受賞したことを受け、10月5日に行われた授賞式、公式会見、Q&Aに監督が出席した。

Gala Presentation部門での公式会見の会場には韓国現地の記者に加え、海外から訪れた記者も多数参加。マスコミ席は満席となり、立ち見や、会場に入れない人も出てくるほど大盛況。是枝監督は「こんにちは。まだちょっと空港ついてここに直行しているので落ち着かない気持ちもあるのですが、このような形でアジア映画人賞頂きまして、今年韓国映画がちょうど100周年ということで本当におめでたい年に、釜山映画祭という僕のデビューとほぼ同じ年を重ねながら、困難を乗り越えながら成熟していった映画祭でこの賞を受賞させて頂くという本当に光栄な時間をここで皆さんと分かち合えることを嬉しく思っています。宜しくお願い致します」と挨拶した。いざ会見がはじまると、大勢の人から手が挙がり、本作についてや、監督のこれまでのキャリアについてといった質問が投げかけられた。会見終了の時刻となっても挙手の手が止まることはなく、監督の最新作への注目度の高さが伝わる会見となった。

「Asian Filmmaker of the year」は、毎年アジア映画産業と文化発展に最も優れた業績を残したアジア映画関係者および団体に与えられる賞。公式上映とQ&Aもある是枝監督の授賞式は、840キャパの会場がチケット発売開始後たったの3秒で完売し、当日券も朝一で売り切れとなった。ステージに上がり、トロフィーを受け取った監督は「本当にありがとうございます。開幕式に参加ができずとても残念でしたが、こういう形で釜山映画祭に参加が出来て、皆さんの前で喜びの言葉を伝えられることが本当に嬉しいです」と喜びを明かし、「名誉賞をいただくことが増えてきて、そろそろキャリアの仕上げに入っていると思われるのではないかという不安がよぎっています(笑)。ただ今回映画作りをご一緒したカトリーヌ・ドヌーヴさんに比べたら、まだまだ駆け出しの若造で、これからの僕の映画人としてのキャリアの道のりは、これまで過ごしてきた25年間よりもさらに長くなるだろうと、長くしたいなと、思っておりますので、これからの作品も頑張って作っていきたいと思います」と今後の抱負を語った。最後に、「このトロフィーは、尊敬するアジアの映画人から渡されたリレーのバトンだと思ってしっかり受け止めて、次の世代のアジアの作り手たちに渡したいと思います。いろんな対立や隔たりを超えて、映画と映画をつないでいく役割を担っていければいいなと今日改めて思いました」と明かすと、盛大な拍手が巻き起こった。

本作上映後のQ&Aイベントにて、温かな拍手に包まれながら再び出迎えられた是枝監督。Q&Aが始まると、客席からは公式会見に負けないほどの手が挙がり、両手で必死にアピールする人も続出。劇中の登場人物のカット割りを分析して質問したり、監督の過去作からの考察を述べるような猛者が現れたり、監督の言葉に何度もうなずいたりと、熱心なファンたちによって会場はヒートアップ。

是枝監督はジュリエット・ビノシュと一緒に映画を作ることになった理由について、「僕の映画をずっとフランスで公開してくれているプロデューサーがいるんですが、彼女が『ジュリエット・ビノシュが会いたがっている』と僕に紹介してくれて、そこから一緒にお寿司を食べに行ったのが最初でした。2006年ぐらいだと思います。その食事から交流が続き、2011年に彼女を東京へ呼んで、僕がホスト役で長いインタビューをするというイベントがありました。それをきっかけに『将来的に何か一緒に映画をつくりませんか』という正式なオファーをいただいて、そこから8年かかってこの作品が完成しました」と明かし、カトリーヌ・ドヌーヴとの撮影については、「ドヌーヴさんは、すごく軽快にリズミカルにテンポよくセリフを言い終わって素晴らしかったな、って思って通訳に『今、すごく良かったよね?』と聞くと、『でもセリフが全然違います』となることが度々あって。彼女はリズムで覚えていくタイプで、現場に入ってからセリフをガンガン覚えていくという、現場を重視した方だったので、OKとNGのジャッジは常に不安でした」と話した。さらに、映画を撮影するときに意識していることについては、「『歩いても 歩いても』という映画を撮ったときから、常にファミリードラマを撮るときは、“家族はかけがいのないものだけど、やっかいだ”という、その両面をどのように描きとるかは考えています」と明かした。

質問の手が絶えないため、急遽Q&Aの時間を延長し、最後は是枝監督が壇上から観客を当てる形となった。Q&Aが終わった直後は、サインを求めるファンたちが監督のもとへ殺到。監督は、会場が使用できる時間のギリギリまで笑顔でファンサービスに応え、その後バックステージ裏でも、スタッフたちからサインを懇願されたりと、韓国でも高く評価される監督の確かな人気がますます明らかとなった。

『真実』
10月11日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
監督・脚本・編集:是枝裕和
撮影:エリック・ゴーティエ
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ ジュリエット・ビノシュ イーサン・ホーク クレマンティーヌ・グルニエ リュディヴィーヌ・サニエ
配給:ギャガ

【ストーリー】 国民的大女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)が自伝本「真実」を出版。アメリカで脚本家として活躍する娘のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)、テレビ俳優の娘婿ハンク(イーサン・ホーク)、ふたりの娘のシャルロット(クレマンティーヌ・グルニエ)、ファビエンヌの現在のパートナーと元夫、そして長年の秘書…お祝いと称して、集まった家族の気がかりはただ一つ。「一体彼女はなにを綴ったのか?」そしてこの自伝は、次第に母と娘の間に隠された、愛憎渦巻く“真実”をも露わにしていき…。

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