夏帆「20代の私自身で勝負できる、自分をぶつけられる役だった。出会うべくして出会った役!」

TSUTAYAが主催する、2016年に行われた第2回TSUTAYA CREATORS’ PROGRAMで審査員特別賞を受賞した箱田優子による企画「ブルーアワー」を、夏帆主演、シム・ウンギョン共演で映画化した『ブルーアワーにぶっ飛ばす』が10月11日より公開となる。このほど、9月26日に日本シネアーツ試写室にて女性限定試写会が行われ、本作の監督・箱田優子、『勝手にふるえてろ』『美人が婚活してみたら』の大九明子監督、ライターで東北芸術工科大学講師のトミヤマユキコ、さらにサプライズで主演の夏帆が登壇した。

箱田監督と夏帆、シム・ウンギョン3人のために衣装スタッフの立花文乃が作ってくれたという、お揃いの『ブルーアワーにぶっ飛ばす』オリジナルTシャツで登場した箱田監督と夏帆。まずは夏帆が、今回初めて上映後の観客の前に立つということで、「思いのほか緊張しますね(笑)。楽しんでいただけたらいいなと思いつつ…」と若干緊張した様子で挨拶を始め、「是非やりたいと思って臨んだ撮影でした。私が演じた砂田という役は、どこか自分とリンクする部分が多く、流れていく時間についての葛藤とか、今の自分と重なるところがあった。砂田という役と向き合うというより、自分自身と向き合う時間だったように思います。10代からずっとこの仕事を続けてきたけれど、20代の私自身で勝負できる、自分をぶつけられる役でした。出会うべくして出会った役です」と意気込みを語った。

目の前で熱く語る夏帆のコメントに、思わず箱田監督も「上手ですね。言うこと無いです」と感無量の様子。そんな箱田監督は、初監督作である本作で、夏帆を主演に迎えた理由を、「今でしか撮れないものはなんなのか、今しか撮れないものを映したい。一日に2回訪れるブルーアワーという夜明けなのか夕暮れなのか曖昧な時間の中でどう生きるかを描きたかった。実際に演じてもらう俳優さんにも、劇中でリアルに揺さぶられてほしいと思っていたので、夏帆さんに演じてもらってよかったです」と述べた。

トークゲストとして登場した大九明子監督は、トーク前に観客と一緒に本作を鑑賞。「タイトルとかビジュアルとか、観る前からお客さんの心を鷲掴みにかかるような貪欲さを感じていました。女性ならではのストレスとか共感してもらおうといったストーリーラインとしての映画の楽しみ方もありますが、この映画にダイナミックなものを感じたんです。主人公の人物としてのダイナミズムもあるし、映像の迫力もあるし、いろんな楽しみかたがあるなと思いました」と本作の魅力を語った。

また、大人少女マンガの研究家でもあり、働く女性の労働観についての研究もしているトミヤマは、本作を「初監督作にして労働系女子のフィクションの最前線に躍り出た」と絶賛。「最近の労働女子を描く物語は、王子様に救われるのではなく、王子様ではない誰か、友だちであったり年齢性別に関係ないコミュニティだったりに救われる女子の話が増えてきている。今作にも、王子様はいないが、いないからこそガチで救いにかかっているのが分かる。これぞ労働系女子が求めている話だったんじゃないか」と分析し、箱田監督、夏帆、大九監督をうならせた。

続いて、「大人のイヤイヤ期」という本作の裏テーマをもとに、上映前に観客にアンケートを実施し募集していた仕事や恋愛の悩みを、登壇者が回答するコーナーに。

はじめに、「父親と似たタイプの人とばかり付き合ってしまう」という悩みに、トミヤマは「自分から好きになる人はいつも同じようなタイプ。そして同じ失敗をしてしまう。映画の中で『私のことを好きって人、あんまり好きじゃない』という夏帆さんのセリフがありますが、私の場合は逆に、向こう(相手)から来てもらった場合には、自分の欲が無いからなのか、かえって上手くいくような気がします。別のタイプにいってみたら発見があるかも」とアドバイス。

次に、「休日や、休憩時間は一人ですごしたい」という、悩みではなく“願望”ともとれるアンケートを受けて、「分かります、分かります」と答えた夏帆は「映画の撮影現場では、基本的には待合室にいないで、現場をふらふら歩き回ってます。自分の落ち着く場所を見つけるのが得意なんです」とコメントし、箱田監督は「夏帆さんは、現場で私と横並びになって、並走してくれた感じでした。野良猫同士(笑)。一人になりたいのと、寂しいのが同居してるような」と笑った。

そのほか、「夫が家事を率先してやってくれればやってくれるほど、自分が出来ないみたいで、しんどい」という悩みには、「ああすごく分かります。朝起きてお米の匂いをかいで軽く死にたくなったり」(箱田監督)、「私だったら『ラッキー』と思うけど(笑)」(夏帆)、「前提として、女がやらなきゃと思ってると思うんですよ。女性がやって当たり前ってわけじゃないんだから」(大九監督)、などさまざまな意見がとびだし、最後は「一回飲みにいかないと分からないですね」というトミヤマの言葉に全員笑いながら同意し、女子会は大いに盛り上がった。

最後に、トミヤマは「ここにいるのは大人女子ばかり。ダサいこともいっぱいあるけど、つらくて苦しくても、ダサいままでも、輝きがあると信じていきていきましょう」、大九監督は「よく『女性監督としてどうですか?』といった質問がくるけど、私は女性を意識しながら生きてないし、男性監督と比べられても、女性としての人生しか送ってないから分からない。私は、私の人生を生きてきた中で映画を作っている。“女の人”として凝り固まるよりは、たまたま女であることの面白さを謳歌すればよいのではないかと思った夜でした。映画の公開が成功することを祈ってます」、箱田監督は「今日の試写会のトーク、男性には聞かせられないみたいなのも面白かったです。ぜひともSNSなどでも紹介してほしい」、そして夏帆は「10月11日の公開にむけて絶賛宣伝中ですが、個人的にも思い入れがあり、とても大切な作品です。好き嫌いはあると思うけど少しでも心に残るものがあればぜひ家族や友人の方にこの映画の話をしていただけたら嬉しいです」とそれぞれが本作の公開に向けての思いを語り、本イベントは大盛況で幕を閉じた。

『ブルーアワーにぶっ飛ばす』
10月11日(金)より、テアトル新宿、ユーロスペースほか全国公開
監督・脚本:箱田優子
出演:夏帆 シム・ウンギョン 渡辺大知 黒田大輔 上杉美風 小野敦子 嶋田久作 伊藤沙莉 高山のえみ ユースケ・サンタマリア でんでん 南果歩
配給:ビターズ・エンド

【ストーリー】 30歳の自称売れっ子CMディレクター・砂田(夏帆)は、東京で日々仕事に明け暮れながらも満ち足りた日々を送っている…ように見えるが、口をひらけば悪態をつき心は荒みきっている。ある日、病気の祖母を見舞うため、砂田の嫌いな故郷に帰ることに。ついて来たのは、砂田が困った時には必ず現れる、自由で天真爛漫な秘密の友だち・清浦(シム・ウンギョン)。しかし、再会した家族の前では、都内で身に着けた砂田の理論武装は通用しない。やがて全てを剥がされた時、見ようとしなかった本当の自分が顔を出す…。そして、一日と始まりと終わりの間に一瞬だけおとずれる“ブルーアワー”が終わる時、清浦との別れが迫っていた…。

©2019『ブルーアワーにぶっ飛ばす』製作委員会