第86回アカデミー賞作品賞受賞作『それでも夜は明ける』で主演を務めたキウェテル・イジョフォーによる初監督作『風をつかまえた少年』が、8月2日より公開される。このほど、アフリカの子どもの命と人権を守るべく制定された「アフリカの子どもの日」の6月16日に合わせて、ポスタービジュアルと場面写真がお披露目となった。
本作は、2001年に大きな干ばつが襲ったアフリカの最貧国マラウイを舞台に、飢餓による貧困のため通学を断念した14歳の少年ウィリアム・カムクワンバが、図書館で出会った一冊の本を元に、独学で廃品を利用した風力発電を作り上げ、家族と自身の未来を切り開いた奇跡の実話を映画化。ウィリアムのこの体験をもとにした本「風をつかまえた少年」(文藝春秋刊)は、世界23カ国で翻訳されベストセラーとなった。
監督は、構想10年をかけ初の長編デビューを果たした『それでも夜は明ける』で主演を務めたキウェテル・イジョフォー。本作は今年のサンダンス映画祭を皮切りに、ベルリン国際映画祭でも公式上映され熱い喝采を浴び、米ニューヨークのプレミア試写会では、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)特使も務め、アフリカの飢饉への国際社会の支援も訴えるアンジェリーナ・ジョリーが6人の子どもたちといち早く鑑賞。上映後の監督と原作者を交えた登壇では、アンジー自らがモデレーターを務め、「とても重いテーマにもかかわらず、物語に引き込まれ、ウィリアム役の少年がとても愛おしくなりました。一つ一つのシーンから音楽まで、雄大で美しく非の打ち所のない作品」と絶賛を寄せた。
場面写真は、ウィリアム少年(マックスウェル・シンバ)の笑顔あふれる姿、父トライウェル(キウェテル・イジョフォー)と喜び抱き合う感動の様子、家族揃って空を見上げる姿など、少年の日常や感動のシーンまで表情豊かなシーンが切り取られている。
さらに、7月11日から13日には、原作者のウィリアム・カムクワンバの来日も決定。なお、本作では、学校に通うことを断念せざるを得なかった主人公のウィリアム同様、日本にも数多くいる学ぶことが当たり前でない子どもたちのために、チャリティ企画を実施。「一般財団法人あしなが育英会」の奨学金制度を通じ、有料入場者1名様につき50円が寄付される。
■NYプレミア試写会(2019年2月25日実施) レポート
本作の感想についてイジョフォー監督に、ジョリーは「これはあなたの初監督作品よね。素晴らしいわ。すごく重いテーマを扱ったでしょ。多くの監督が同様のテーマに取り組んできたけど、物語や登場人物に共感できる作品は少ない。メッセージ性が強すぎると教訓じみてしまうせいよ。でも今回は物語に引き込まれて、ウィリアム役の少年が愛おしくなった。それに1つ1つのシーンから音楽まで、非の打ちどころのない出来だったわ。細かい点まで見事に作り込んであったしね」と最大限の賛辞を送った。
それを受けたイジョフォー監督は「アフリカでは人々が非常に意義深い日々を送っている。その暮らしぶりをきちんと描きたかった。我々は彼らの生活を遠目から過小に評価しがちだ。だがその環境こそが劇的な出来事を生む。生き生きとした人間関係や家族のつながり、地政学的な活力も要因の一つだ。僕はアフリカで起きたドラマチックな物語が西洋の映画の題材にぴったりだと思った。物語のテーマにつながる壮大な景色も、情感たっぷりの演技も。そこが本作の出発点になったんだ。波乱万丈な物語や生き生きとした人間関係を壮大に描いて大胆に演じてもらおうと思った。彼らの人生をそのまま写し取るようにね」と、本作の製作にかける想いを明かした。
また、ジョリーに「いろんなことがあったと聞いているけど、自分でも壮大な人生だと感じる?」と問われた原作者のカムクワンバは、「ああ、壮大な人生だとは思うよ。それに、まだ楽しみだよ。これからの人生で僕はどんなことができるだろうかと。特に、何かを学んでその知識を故郷に持ち帰り問題を解決したい。この先は僕の得た知識を使って故郷の問題を解決することに人生を捧げたい」と、映画で見るウィリアム少年と変わらない、好奇心と希望に満ちた瞳で語った。
さらに、ジョリーが自身のライフワークとして行う途上国への支援活動について「援助の仕方ってすごく難しいわ。アフリカなどで どんな援助が必要とされているか、誤解も多いでしょう。余計な干渉になることも少なくない」とその考えを述べると、イジョフォー監督は「問題ではなく解決策を与えるには、現地の状況に応じた支援方法を探すことだ。それが、人々が力を得たと感じるためのカギになると思う」と語り、「彼は身をもって示してくれた。この社会には可能性があり、アフリカは多くの課題を抱えていると。本当に、彼の道のりには目を見張るばかりだ。13歳の少年が過酷な環境で困難に立ち向かったんだ。不屈の精神で自らの能力を信じ続けたことは、称賛に値するよ。可能性の豊かさとは何かを僕は彼に教わった。さらに支援があれば現地で見慣れた状況はがらりと変わるだろうね」とカムクワンバから与えられた影響の大きさを伝えた。
最後に「映画やあなたの人生を通じて伝えたいことは?」と問われたカムクワンバは、「みんなに知っておいてほしいことだけど、人生に不可能はないし、どんな目標も達成できる。険しい道のりに見えるだろうし、状況は人それぞれ違う。乗り越えられそうにない壁にぶつかることもあるだろう。でも挑戦してほしい。その挑戦は行く手を阻むものではなく、我々を奮い立たせるためのものなんだ。成功を収めた人たちはみんな、その壁を乗り越えた。何らかの課題にぶつかりながらも、夢と希望を捨てずに挑戦を続けた。だから成功したんだ。この映画を見れば分かってもらえるよ。本当に人生には不可能などないんだ」と、干ばつのため飢餓に陥り、生命の危機に瀕した極限状態の中、学ぶことを力に変え未来を切り開いていったカムクワンバだからこその説得力に満ちた、力強いメッセージを伝えた。
© Monica Schipper, Getty Images for Netflix
『風をつかまえた少年』
8月2日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督・脚本・出演:キウェテル・イジョフォー
原作:ウィリアム・カムクワンバ ブライアン・ミーラー「風をつかまえた少年」(文藝春秋刊)
出演:マックスウェル・シンバ アイサ・マイガ
配給:ロングライド
【ストーリー】 2001年、アフリカの最貧国マラウイを大干ばつが襲う。14歳のウィリアム(マックスウェル・シンバ)は飢饉による貧困で学費を払えず通学を断念するが、図書館で一冊の本と出会い、独学で風力発電のできる風車を作り、乾いた畑に水を引くことを思いつく。いまだに祈りで雨を降らせようとする村で、最愛の父でさえウィリアムの言葉に耳を貸さない。それでも家族を助けたいという彼のまっすぐな想いが、徐々に周りを動かし始める。
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