谷川俊太郎、加藤登紀子、沖田修一、野村卓史(グッドラックヘイワ)らより絶賛コメント&音楽特別映像 旧東ドイツが舞台の『希望の灯り』

作家クレメンス・マイヤーの短編小説「通路にて」をフランツ・ロゴフスキ主演で映画化した、第68回ベルリン国際映画祭コンペティション部門正式出品作『希望の灯り』が、4月5日より公開される。このほど、各界著名人より本作を絶賛するコメントが寄せられ、併せて、音楽特別映像がお披露目となった。

旧東ドイツのハレ出身である作家クレメンス・マイヤーの短編小説「通路にて」を映画化した本作は、1989年のベルリンの壁崩壊後、東西が統一されたドイツ社会で時代に置き去りにされた人々の日常を静かに描く。物語の舞台は、旧東ドイツのライプツィヒ近郊。腕や首の後ろにタトゥーを入れた27歳の無口な青年クリスティアンは、巨大スーパーマーケットの在庫管理係として働き始め、仕事を教えてくれる上司ブルーノや、年上の魅力的な女性マリオンと出会う。

監督を務めるのは、原作者と同じく、旧東ドイツのライプツィヒ出身のトーマス・ステューバー。本作では、人々の孤独を時にユーモラスに描写し、音楽は「美しく青きドナウ」や「G線上のアリア」などのクラシックの名曲を効果的に使用、さらにカナダのゴシックフォーク・グループ、ティンバー・ティンブレの「Moments」をエンディング曲に採用した。

主人公のクリスティアンを演じるのは、ミヒャエル・ハネケ監督作『ハッピーエンド』(2017)や『未来を乗り換えた男』(2019)に出演したフランツ・ロゴフスキ。本作で、第68回ドイツアカデミー賞主演男優賞を受賞した。クリスティアンが一目惚れする年上の女性マリオンには、『ありがとう、トニ・エルドマン』(2016)で数多くの主演女優賞を獲得した、ドイツを代表する女優のザンドラ・ヒュラー。クリスティアンに心惹かれながらも自分からは踏み出せない心の揺れをチャーミングに演じる。そして、クリスティアンの上司ブルーノを、ステューバー監督の初長編映画『ヘビー級の心』で主演を務めたペーター・カースが演じる。

本作は、才気あふれる映像と音楽に注目が集まっている。音楽特別映像で流れている楽曲は、Son Luxによる「Easy」とTimber Timbreによる「Trouble comes knocking」。

著名人 絶賛コメント

■谷川俊太郎(詩人)
私がここで生きているように、この人たちもそこで生きている。その肌ざわりを感じます。

■加藤登紀子(歌手)
無味乾燥なスーパー、無骨な男たち。なのに短い会話の一瞬から深い愛が伝わり、突然の音楽に途方も無い内面が炙り出される。ジョージ・オーウェルの「1984」と同じ、現代への恐怖が重低音のように聞こえた。

■きたろう(俳優)
ワンカット、ワンカットが一枚の素晴らしい絵画だ。私の好きなエドワード・ホッパーの絵を見ているようだった。孤独の中で生きている人間同士の、さりげない一言一言が、心に響く。こういう映画に参加したい。 

■綾戸智恵(ジャズシンガー)
外から見れば、再統一。けど人々は大変や、文字どおり大きな変化。正味の統一とは、ささやかな会話から。AIくんよ、これ見て学習しーや。これが希望への日常や。クリスティアンが袖を引っ張るシーン好きやわ。頑張りや!

■沖田修一(映画監督)
ひっそりと、静かな映画でした。深夜の雰囲気がそのまままるごと映画になったようでした。

■岡田利規(演劇作家・小説家・チェルフィッチュ主宰)
フランツ・ロゴフスキの、純朴さと怖さ、優しさと狂気が同居する、この唯一無二の魅力!

■牛尾憲輔/agraph(電子音楽家)
まるで舞踊曲のような映画です。あの愛すべきモールはダンスホール。微かな喜びの山と、見えない悲しみの谷の拍子で踊る人々が微笑ましく美しい。

■野村卓史/グッドラックヘイワ(音楽家)
日常とは主に退屈な繰り返しで、そこにあるはずの大切なものや美しいものの存在に気づかず素通りしてしまうことが多いと思う。本作で語られる舞台も日常だが、人々の会話や立ち振る舞い、整然と陳列されたスーパーマーケット、そこに流れるBGM、フォークリフトが床を擦る音までとても美しい。だがただ美しいだけではなく、時に違和感のある音が彩り、ある種の不思議な感覚を呼び起こす。そして劇中に点在するいくつかの嘘が、登場人物の実際には語られない背景にいくばくかの影を落とす。ラストに流れるTimber Timbre「Moment」が象徴するように、無情だが優しく無骨な、美しい世界。その影や違和感について想像し、この世界に生きる人々の物語に触れることは、実際の私たちの日常の中に取りこぼしているものの存在に気付くきっかけになるかもしれない。

『希望の灯り』
4月5日(金) Bunkamuraル・シネマ他全国公開
監督:トーマス・ステューバー
原作・脚本:クレメンス・マイヤー(「通路にて」/新潮クレスト・ブックス「夜と灯りと」所収)
出演:フランツ・ロゴフスキ ザンドラ・ヒュラー ペーター・カース
配給:彩プロ

【ストーリー】 腕や首の後ろにタトゥーを入れた無口な青年クリスティアン(フランツ・ロゴフスキ)は、巨大スーパーマーケットの在庫管理係として働き始める。旧東ドイツ、ライプツィヒ近郊。店の周囲には畑地が一面に広がり、遠くにアウトバーンを走る車が見える。仕事を教えてくれるブルーノ(ペーター・カース)はクリスティアンを言葉少なに見守る。年上の魅力的な女性マリオン(ザンドラ・ヒュラー)への一途な思いは、恋の喜びと苦しみを教えてくれる。ここで働く者たちは、みな、素朴で、ちょっと風変わりで、心優しい。それぞれに心の痛みを抱えるからこそ、たがいに立ち入り過ぎない節度がある。それが、後半に起きる悲しい出来事の遠因になったのかもしれないが、彼らは喪失の悲しみを静かに受けとめ、つましく生きていくのだ。いま目の前にある小さな幸せに喜びを見出すことで日々の生活にそっと灯りをともす。そんな彼らの生きる姿勢が、あたたかな共感と感動を呼びおこし、静かな波のざわめきのように深い余韻を残す。

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