MC:内田さんは、そもそも職業は役者さんっていうわけじゃなくて、今回こうやって再び映画に出ることになったわけですが、監督からどんなオファーがあったんですか?
内田:そうなんです。恐れ多くも李監督からオファーをいただいて、私が後ずさりしてしまって、姿形は母の樹木希林に似てるので、きっとそういう演技力を求めるられてるんじゃないか、私はいつも仏頂面で本当に表現力が乏しいので、無理だと思って、しかも文の母親ということで重要な役どころだし、「難しいです」って丁重にお断りしたんですね。そうしましたら丁寧にお手紙をいただきまして、「そもそも演技力というものは求めてないので大丈夫です」ということと(笑)、あと「気持ちさえあれば、気持ちが理解出来れば、そこに存在しているだけで大丈夫です」ということで。余談ですけど、母の樹木希林が『悪人』という映画で李監督にお世話になってまして、その時に母が「監督はしつこい」と(笑)率直に申し上げたそうで、「僕はしつこいと、あなたのお母さんにも言われてますので…」という含みのあるお手紙をいただきまして(笑)。「一度会いましょう」と、時間を作っていただいて、カフェでお会いして。いろんなお話しを伺って、そもそも李監督と出会えるって事もそうだですし、すべてのキャストが決まっていて、そんな中に飛び込まない方が後悔するなというふうに勝手に納得しまして、始まってみたら桃季さんと監督と、最初の初日にリハーサルを、本読みという形で長い時間かけて文と母親の関係性をインプロヴィゼーションも入れながら、「どう思う?」ってそれぞれに聞いて頂いて。だから母が言っていた「しつこい」っていうのは、ちゃんと意味のある、一人一人の役所に人物に魂に向き合っていくと、こういうふうに長い時間がかかるんだなって、すごく腑に落ちました。たくさんいろんなことを教わりました。全くお芝居できないんですけども、お二人に導いていただいて、一つ一つ教えていただきました。
MC:完成披露試写会の時に松坂さんが、樹木希林さんのことを「宿命の人」ってお名前を挙げていましたけど。
松坂:それこそ『ツナグ』の時は、希林さんとは孫とおばあちゃんという関係性でご一緒させていただいたんですけど、今回、也哉子さんと親子関係っていう。そのつながりで共演させてもらえるっていうのが、これは宿命と言わざるして何と言えばいいかという、自分の中で個人的にですけど特別な思いがありましたね。
MC:横浜流星さんは、撮影中にお誕生日のサプライズを仕掛けられたそうですね?
横浜:そうですね。文と更紗のすごく大事なシーンを撮っていて、僕も撮影があったので待っていたら、「急遽ワンシーン追加するから」ということで、ちょっと嬉しいなぁと思って。現場に行って、監督から「この場に押しかけてきて、二人に向かってゴミ箱を投げろ」という演出をつけられたので、なんか結構責めるなぁと思って。でも追加されるって事は嬉しいんで、意気込んで段取りをやったらゴミ箱の中にプレゼントが入っていて、嬉しいんだけど1シーン追加っていうのはないんだっていう、ちょっと残念な気持ちがあって(笑)。なんだか不思議な気持ちになりましたね(笑)。でも嬉しいですよ(笑)。もちろん。
MC:広瀬さんと松坂さんは知ってたんですよね?
松坂:そういう段取りしますっていうことを聞いていて、でも難しいじゃないですか。サプライズも、ふわぁ〜と入ってきて「おめでとう」とかだったら分かるんですけど、激昂して入って来なきゃいけなくて(笑)。この激昂の流れの中で「ゴミ箱にプレゼント入ってる」「俺、今日誕生日だな」「そういうことか」っていう、この怒りからの喜びにいくストロークっていうものが、すさまじかったなと思います(笑)。
横浜:はい(笑)。本当に不思議な気持ちでした(笑)。
松坂:戸惑いの後に喜びですからね(笑)。
広瀬:しかも監督の前で嘘をつく演技なんかしちゃいけないっていう脳にもなっているので(笑)。桃季さんと向かい合っていて、無駄な集中力になるんだろうなと思いながら、でもこんな機会はないと思って、本当に笑いを堪えることに必死になって。ふわ〜ってなっていくときもすごい体制でしたよね(笑)。ゴミ箱開けて「へェ?」みたいな(笑)。聞いたことのないような音を出されていて、すごい私はツボにハマってしまいました(笑)。
MC:何をもらったんですか?
横浜:バカラのグラスをいただいたので、それにお酒を入れて飲んでます(笑)。ありがとうございます。
MC:それでは内田さん、先ほどもお母さんのお話がでましたけど、ほかに李監督について言っていたことはありますか?
内田:母とはあんまり仕事の話をする機会はなかったんですけど、いたずら話みたいなのは頻繁に向こうからしてきてですね、「この間ね『悪人』っていう映画でね」って、長崎で松尾スズキさんとの撮影で、なにがなんでも絶対にその日中に飛行機に乗って東京に帰らないといけなくて。次の日に仕事があるので。それは前もってお願いしてたけれども、やっぱり李監督が粘りに粘るのでなかなか終わらず(笑)。で、母は何と、もう今、車に乗れないと飛行機に乗れないっていう瞬間に、「監督、もうこれで良いの撮れた!おしまい!これ以上良いものは撮れない!」って言って、松尾スズキさんの手を引っ張って、共犯者にしてダーッと逃げて帰ってしまったっていうのを母から聞いて(笑)、私は笑えずに呆然として、その時、李監督はじめスタッフの皆さんがどんな思いで取り残されたんだろうっていう思いで、本当に母に変わって申し訳ございませんでしたという気持ちです(笑)。
李:ちょうど松尾スズキさんのところに乗り込んで、「お金を返せ!」って、テーブルの足にしがみつくシーンだったんですけど、「帰りたい」という気持ちでしがみついているのがヒシヒシと伝わってきたので、良い演技だったなと思います(笑)。素晴らしかったと思います(笑)。