水道橋博士、身近な独裁者は北野将軍!?『スターリンの葬送狂騒曲』ニコ生特番イベント開催レポート

ロシア政府が上映を禁止したことで話題を呼んだ問題作『スターリンの葬送狂騒曲』が8月3日より公開となる。このほど、本作の公開を記念し、7月29日にニコニコ生放送にて特番「水道橋博士と学ぶ【新作】『スターリンの葬送狂騒曲』」が組まれ、コメンテーターの水道橋博士、筑波大学教授でロシア政治専門の中村逸郎、映画評論家の松崎健夫、MCの松嶋初音が出演した。

1953年のロシア(旧ソ連)を舞台に、当時恐怖政治を敷いてきた絶対的独裁者ヨシフ・スターリンが死んだことで巻き起こる、最高権力の座を巡る側近たちの争いや混乱の様子を、辛辣かつコミカルに描く本作。作品の感想について開口一番、中村教授は「ソ連を描いてこれほどよくできた映画ははじめてみた。描かれているのはまさにロシア。昔も今も変わってない。(本作はイギリス映画で英語だが)イギリスが実は移民を受け入れている分、いちばんロシアをわかっているかもしれない、イギリスだからこそ描けた映画」と絶賛。水道橋博士は「長期政権の独裁者が世界中に現実に出てきている今の世に通じるからこそ関心がもてる」と発言、さらに「悲劇の歴史なのに、喜劇にみえる、人間味があって間違っている」と作品の魅力を表現。映画評論家の松崎は「過去を描いているけど、現代も似てきているからこそ映画作家が描きたくなっているのでは」とコメントした。また、本作が100倍“おもロシア”になる情報コーナーでは、作品に描かれる史実、各登場人物のキャラクターや演じる俳優、各人印象に残ったシーンなどを見ながらトークが繰り広げられ、エスカレートしていく中村教授の独特のトークに「このひとおもろい」「授業聞いてみたい」など視聴者の好意的な反応が寄せられた。

当時2000人の代議士のうち半分が粛清され、全国民の30%にも及ぶ国民が死んだスターリン時代、スターリンが一番恐れていたのは、内なる敵、特に情報を持つ側近たち。批判もアウトだが下手に褒めても褒め方が悪ければ裏目に出るこの時代を生き延びるのは思考停止するしかなかったという。進歩的批判的な頭脳を持ってはいけなかったようで、「そんなわけでロシア留学時代(進歩的な頭脳をもつ)僕なんて悲惨だった。そもそもロシア研究しようと思ったのはロシアが好きなわけではなく、お化け屋敷が好きな感覚で、のぞきにいった。癌の研究者は癌が好きなわけではない、僕はロシアを癌だと思ってる」と発言した中村教授に対し、「今日帰りに粛清されないように…」と博士はコメントした。

本作で描かれる権力争いの主なところは、フルシチョフとベリヤの対立。フルシチョフが政権をとった理由を学術的に述べた後、中村教授は最終的には「髪がつるつるだったこと」が大きいと持論を展開。レーニン、スターリン、フルシチョフとツルツル、ふさふさが交互にきていると主張。また中村教授は、ベリヤは今のプーチンに通ずるところがかなりある、秘密警察出身で政治に必要な情報が集まることなどをあげたところ、映画評論家の松崎はプーチン政権が本作をロシアで上映禁止にしたことで独裁政権の権力の在り方を認めてしまったと発言。「粛清されるよ~」と盛り上がりをみせた。

スターリン、ヒトラーなどの独裁者について、博士は「権力者はなったら無限の個人崇拝の欲が止まらないんだな」という感想を述べると、中村教授は「指導者は初期の志を大きくもって理想を求めると現実とのギャップができていき、その差を埋めようと無理が生じる。だから人は大志を抱いちゃダメ」とコメント。また、視聴者の「あなたのまわりの独裁者」の投稿コーナーで、話を振られた博士は迷わず自分の場合は「北野将軍」と言い切り、中村教授は「妻です」と恐妻家の一面をのぞかせた。

日曜の深夜にトークが盛り上がり予定時間を超えて放送された本番組。トークの最後は、実はすでにプーチンは死んでいて映画と同じ後継者問題が今のロシアで起こっているのでは?現在出てるのは影武者!?という中村教授の話が終わらないところで、松崎が「今なんでスターリンの死の映画化というと、今まさに起こっていることは描けないが、過去の同じような事象は描けるから。笑うことによって考えさせる、そして笑えなくなる、その感覚こそが警鐘になる」とまとめ、博士が「この映画めちゃめちゃ面白いからぜひみてください」と締めくくった。

『スターリンの葬送狂騒曲』
8月3日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー
監督:アーマンド・イアヌッチ
出演:スティーヴ・ブシェミ ジェフリー・タンバー オルガ・キュリレンコ マイケル・ペイリン
配給:ギャガ

【ストーリー】 1953年3月2日、一人の男が危篤に陥る。ソ連の絶対的独裁者、ヨシフ・スターリンだ。「今うまく立ち回れば、自分に後釜のチャンスが!」最高権力の座を目指し、色めき立つ側近たちの、姑息で熾烈な頭脳戦はやがて…。ソ連最高権力の座をめぐり、狂気の椅子とりゲームが今始まる―。

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