今年5月に開催された第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にて最高賞のパルムドールを受賞した、是枝裕和監督の長編14作目『万引き家族』が6月8日より公開となる。それに先だち、6月4日、大阪のNHKホール・リハーサル室で安藤サクラの記者会見が行われた。
パルムドール受賞後に安藤が映画について語るのは初めての場となった今回の会見。是枝組は初参加となり、産後初めての撮影に挑み、国内外からその高い演技力で好評価を得た安藤。それは、審査委員長のケイト・ブランシェット他、レア・セドゥ、クリスティン・スチュアートら女優陣が安藤のお芝居に熱狂し、本編で披露した「泣き」の演技に「今後同じ演技をしていたら安藤さんを真似したと思ってください」と彼女たちに言わしめたほど。そんな安藤が受賞の喜びや、映画のことなどその胸中を存分に語った。
想像した以上の数のマスコミが会場に待ち構えていたことに「ふら~っと入ってきてしまいましたが、こんなにいらっしゃるなんて…」と戸惑う様子をみせた安藤サクラ。パルムドール受賞について「今ようやくめでたいことだっていうのをまた改めて感じています」と笑顔で挨拶。その後、MCと記者からの質疑応答に応えた。
Q:パルムドール受賞おめでとうございます!受賞結果報告を受けて、どう思われましたか?
安藤:この“家族たち”と夜中だけどYouTubeで中継をみようとやりとりをしていて、慣れないPCも繋げて、せっかくだからとマネージャーさんも呼んで、準備万端でその中継をみていたんです。そしたらいつも間にか眠ってしまいまして…そしたら、リリーさんから「サクラ起きろと!」とメールがすごい来ていて、マネージャーさんには、真っ暗にして寝ていた部屋で「パルムドールです!」と言われて…それですぐにTVをつけてニュースが流れているのをみて、これは残さなきゃとフィルムのカメラでその画面を撮りました(笑)。受賞発表前から私は(撮影の為に)大阪にいたので、まだみんなと喜びを分かち合えていないですし、監督にも直接おめでとうございますも言えていない状況なので、気持ちとしてもまだふわふわとした感じです。
Q:受賞記者会見では審査委員長で大女優のケイト・ブランシェット、そして同じく審査員であるレア・セドゥやクリスティン・スチュワートなども安藤さんの演技に大変高い評価をしておりました。女優陣たちが「自分たちが劇中のあの泣き方をしていたら安藤さんを真似したと思ってかまわない」とまで言っていましたが、この賛辞、安藤さんはどう思っていますか?
安藤:そのように言ってくださっていると、監督からメールをいただいたんですけど、やっぱりスターの方たちは粋な誉め言葉を使うんだなと思って…。
Q:安藤さんが演じた“信代”とは共感する部分などはあったのでしょうか?
安藤:台本を読んでいて共感することはなかったですが、フイルムの中にいる信代が過ごした時間は、私自身が“家族”と過ごした時間でもあります。それは、現場で生まれた“家族たち”の時間に寄り添うように監督が撮影されていたからです。なので、共感というものではなく、私自身がこの“家族”の温度を自分の身体で感じていたので、その温かさが今もまだ残っています。ものすごい楽しい時間を是枝組として過ごさせていただきました。カンヌにも行かせていただいて、パルムドールも受賞して、なんて良い時間を過ごさせていただいたのだろうと、すごい経験をさせていただいたと思っています。是枝さんは、受賞したことを子供がかけっこで一等賞獲ったのを喜ぶみたいな感じで喜ぶんです。そしてその喜びをみんなと分かち合っている姿がカッコいいなと思いました。その喜びを分かち合える中に、自分がいさせてもらえたことをすごく嬉しく感じています。
Q:映画では、家族のこと母性についても描かれていますが、撮影中や映画を観た後に、家族に対してや母性に対しての考え方について変化はありましたか?
安藤:撮影中は、母性が溢れ出ているような状況だったので、戸惑いながらの撮影でした。私は正直、妊娠中、出産後はできるだけ仕事はしないし、できるだけ子供と一緒にいるのがいいと思って、そうしたいと思っていましたが、こうやってこの作品に出会えたことがよかったですし、それは是枝組でしか成り立たなかったことだと思うので、すごく良い時間を過ごせたと思っています。役柄としては自分は真逆だけど、産後初めてあの役を演じるというのは面白い経験でした。
Q:是枝監督の次回作は海外の俳優達を起用するという噂を耳にしていますが、世界の監督と組んでみたいと思いますか?
安藤:あまりそういうことは考えたことはないですし、海外だから出たいなどは特にないです。でも違う文化をもつ方たちと作り上げていくというのは面白いだろうなとは思います。
Q:お母様の和津さんはご一緒にカンヌに行かれていましたが、受賞を受けて何と言われてましたか?また、他のご家族の反応も教えて下さい。
安藤:母がカンヌに行ったことについてエッセイを書いていて、それを監督が送ってくださったんです。久しぶりに母の仕事をみましたけど、ものすごく母親として喜んでくれている気持ちが伝わって、それはものすごく感動しました。
Q:カンヌの影響で城くんとみゆちゃんが学校で大人気のようです。撮影中やカンヌでふたりとの印象的なエピソードがあれば教えてください。
安藤:ある番組で、“家族”と過ごしていた映像をみたんですけど、それをみただけで、このふたりが愛おしすぎて泣いちゃうんです。特にカンヌに行ってからは、この“家族”がより大事な存在になっていて、すぐに元気かな、会いたいなと思っちゃうんです。特にみゆは、すごいご縁だなと思うんですが、私の娘と同じ誕生日なんです。だから撮影中から、それこそ血の繋がりではない何かの繋がりがあるようなそんな気持ちを感じていました。映画が公開したら、あまりこの“家族”と会う機会がなくなるのかなと思うとすごい寂しい気持ちになって、たまにちょっと泣きそうになります。
Q:受賞理由について、ケイト・ブランシェットが審査基準である「Invisible People=見えない人々」をとことん描いていたからといっていましたが、安藤さんもこれまでにそういう世の中から見捨てられた人たち(=Invisible People)を演じてこられてきた中、それをカンヌが今作で認めたということで、女優としてどのような感想ももたれていますか?
安藤:あまり難しく考えていないですし、人として、まずはきちんと色んなところに目を向けながらも自分自身きちんと生きることをきちんとやっていかなければと思うのみです。そういったことに目を向けて、何かを考えてその役柄を演じるというのは、私自身向いていない気がするので、これからも考えるつもりはありません。そんなことを考えられていたら、監督になっていたかもですね!
Q:最後に、ご挨拶をお願いします。
安藤:今日は質問に対して全然違う回答ばかりをしてしまってすみません…。いよいよ6月8日公開です!9日の東京での舞台挨拶の場で監督にお会いできますが、祝福できたらと思っています!是非劇場でご覧ください!
『万引き家族』
6月8日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:リリー・フランキー 安藤サクラ
松岡茉優 池松壮亮 城桧吏 佐々木みゆ
緒形直人 森口瑤子 山田裕貴 片山萌美 / 柄本明
高良健吾 池脇千鶴 / 樹木希林
配給:ギャガ
【ストーリー】 高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋に、治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀の4人が転がり込んで暮らしている。彼らの目当ては、この家の持ち主である初枝の年金だ。足りない生活費は、万引きで稼いでいた。社会という海の底を這うような家族だが、なぜかいつも笑いが絶えず、互いに口は悪いが仲よく暮らしていた。冬のある日、近隣の団地の廊下で震えていた幼い女の子を、見かねた治が家に連れ帰る。体中傷だらけの彼女の境遇を思いやり、信代は娘として育てることにする。だが、ある事件をきっかけに家族はバラバラに引き裂かれ、それぞれが抱える秘密と切なる願いが次々と明らかになっていく─。
(C)2018『万引き家族』 製作委員会