芳泉文化財団の映像研究助成を受けて制作、第20回TAMA NEW WAVEで初上映され、2020年SKIPシティ国際Dシネマ映画祭短編部門では審査員の満場一致で優秀作品賞を受賞した映画『stay』が、4月23日より公開される。このほど、本作の予告編と場面写真がお披露目となり、併せて、キャストの菟田高城、遠藤祐美、そしてロケ地となった築100年の古民家のオーナーよりコメントが寄せられた。
持ち主のいない古い空き家で共同生活を送る男女5人。そこへ村の役所から派遣された矢島が、彼らに退去勧告を言い渡しにやってくる。しかし矢島は、リーダー格の男・鈴山のペースに巻き込まれ、立ち退きを説得できないどころか、その家で一晩を明かす羽目になり…。
生き方が多様化していく現代、人と人との数々のつながりが絶たれた2020年。改めて、「人と共に生きる」とはどういうことなのか。その根源的な意味を静かに問う作品が誕生した。舞台は、いつの時代の、どことも知れない山奥に佇む一軒の古民家。そこに素性も知れない人々が住んでいる。誰でも出入りができて、誰の場所でもない「自由」な家。だからこそ住人たちはお互いに干渉せず、深い事情には立ち入らない。それでも匂い立つ、それまでの人生で培われた、一人一人の肉体から沸き立つ生活の匂い。そこから生じるわずかなズレが、気遣いとなり、役割となり、ストレスとなり、やがて「不自由」へと繋がっていく。他者と接することにおいて、否応なしに向き合わざるを得ない物事を、多面的な角度から、重層的な寓意を込めて描いた本作はまさに“現代の寓話”と言えるだろう。
家の人々に立ち退きを迫りながら、いつの間にかその家に引き込まれていく主人公・矢島を演じるのは、主演した東京国際映画祭正式出品作『あの日々の話』での細やかな演技が印象深い山科圭太。躊躇なく意見を言うマキには、上田慎一郎らが監督し話題を集めた『イソップの思うツボ』や東京国際映画祭正式出品作『猿楽町で会いましょう』主演で注目を集める石川瑠華。家の中心的役割を担う鈴山役は、白石和彌組の常連で、『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で演じた知的障害者役で評価を集めた菟田高城が軽やかに好演。滞在者の分の家事も行うサエコは、奥田庸介監督の『ろくでなし』や春本雄二郎監督の『かぞくへ』でヒロインを務めた遠藤祐美が、包みこむような柔らかさの中に芯もある絶妙な存在感で演じる。
■菟田高城(鈴山役) コメント
本読みリハーサル中、藤田監督に沢山質問をしました。鈴山と登場人物達との距離感がなかなか掴めなかったからです。すると監督から「菟田さんはそれが分からない人だからキャスティングしました」という様なことを言われて、気が楽になったのを覚えています。素の自分より他者との距離感をかなり意識して演じたつもりだけれど、試写を観て思わず苦笑しました。また藤田監督は人が暮らしている「家」を撮りたいのだなと思っていたけれど、完成した作品からは、家に住む色んな「人」を強く感じて驚きました。世界的にstay homeを求められ、色々な家で、様々な人が、其々のstayの日々を送っている今だからこそ、この映画を観てもらえたらいいな、と思います。斯く言う俺も「stay」を模索中です。
■遠藤祐美(サエコ役) コメント
新しい場所で新しく人と知り合っていくのは刺激や緊張感があって、思いがけず新たな自分を発見する楽しさもあります。そのうちその場所が心安く居心地よくなると同時に、慣れ、に対するかすかな苛立ちを覚えたりも、します。人がわざわざ意識せずに過ごしていく、人間関係が微妙に変化していく時間を捉えようとしている映画だと思います。撮影では、家が持つ独特な空気をできるだけ吸って、周りとの距離感を自然に意識できるよう心掛けました。ぜひ、劇場でご覧ください。
■鈴木宏卓(古民家のオーナー) コメント
私は生まれも育ちも東京です。昔から縁側や、土間や、囲炉裏といった家族団欒で温かいイメージのある昔ながらの家に憧れがありました。民宿を開業するにあたり秩父で家を探していたところ初見で気に入った古民家をすぐに購入しました。『stay』を見て一番にそんな古民家の暖かさを感じました。他人同士なのにどことなく家族のようにも見えたのは、古民家の暖かさからくるものなのかもしれません。また、古民家に住んで気づいたことが、家の中に差し込む光が優しくて暖かいということです。そんな、細かい古民家の描写も描かれています。
『stay』
4月23日(金)より、アップリンク渋谷ほか全国公開
監督:藤田直哉
プロデューサー:井前裕士郎
脚本:金子鈴幸
出演:山科圭太 石川瑠華 菟田高城 遠藤祐美 山岸健太 長野こうへい 金子鈴幸
配給:アルミード
【ストーリー】 とある村の持ち主のいない古い空き家。ここは誰もが寝泊まりし、出ていくことが可能な場所。ちょうど吉田(山岸健太)が去ろうとしているところに、村の役所から派遣された矢島(山科圭太)が、不法に滞在する5人に退去勧告を言い渡しにやってくる。長期滞在しているマキ(石川瑠華)が「前にも何人も来たけど、結局追い出せてないから」と予言したように、矢島は、リーダー格の男・鈴山(菟田高城)のペースに巻き込まれ、立ち退きを説得できないどころか、サエコ(遠藤祐美)の提案でその家で一晩を明かす羽目になり…。
©東京藝術大学大学院映像研究科