大阪アジアン映画祭2018でJAPAN CUTS Awardを受賞した、速水萌巴監督の長編デビュー作『クシナ』が、7月24日より公開されることが決定した。併せて、特報映像、ポスタービジュアル、場面写真がお披露目となった。
本作は、女だけが暮らす男子禁制の山奥の集落を舞台に、速水監督自身の過去の体験に根ざした母と娘の物語を描いた物語。北米最大の日本映画祭であるニューヨークのJAPAN CUTSに招待され、独特の感性と映像美によって支えられる世界観は海外レビューでも高い評価を獲得した。
監督を務めるのは、映画やCMの演出や制作に加え、中川龍太郎監督作『四月の永い夢』で主人公の部屋のデザインとその装飾を担当するなど、独特のキャリアを築いてきた速水萌巴。速水の長編デビュー作となる本作では、監督だけでなく、美術・衣装も担当し、美しい映像世界を構築した。速水監督は、物語が自身と母親とのものに近すぎるという理由で2年前に一度は断った配給のオファーを、本年になって勇気を出して快諾。2年の時を経て、幻の映画が、今ベールを脱ぐ。
その瑞々しさで劇中の女性人類学者も魅了するヒロイン・奇稲“クシナ”を演じたのは、撮影数日前に作品撮りの一枚の写真が奇跡的に監督の目に留まり、本作が映画デビューとなった郁美カデール。また、14歳の時にクシナを生んだ28歳の母・鹿宮“カグウ”に、ラストの表情で監督を泣かせた個性派女優・廣田朋菜。男の後輩と共に閉ざされた共同体に足を踏み入れる人類学者・蒼子に、均等にバランスのとれた美しい顔が歪な世界に足を踏み入れる現代女性の象徴としてぴったりとキャスティングされた稲本弥生。そして村長である、カグウの母・鬼熊“オニクマ”には、強さと母性の両方を兼ね備える小野みゆきが扮する。
■速水萌巴(監督) コメント
私たちはいろんなカタチの愛情をもっていて、それぞれ進み方も違えばベクトルも違います。愛情表現の仕方が分からない人もいれば、愛情を受け入れることができない人もいて、それが愛情とすら気づけないこともあります。この映画では、それぞれにとっての真っ直ぐな愛を描きたいと思いました。JAPAN CUTSには映画祭ファンがたくさん来て、『クシナ』の上映もほぼ満席、質疑応答も活発で刺激的でした。「私の母を見ているようだった」と人種も文化も異なる女性が物凄い血相で伝えてくれたのが印象に残っています。わたしのはじめての映画づくりは勇気ある素晴らしいキャストとスタッフに囲まれて、人生の中で最も愛おしく、楽しい瞬間の連続でした。世界中の人々が真っ向から、そして多くの人が息を潜めコロナと戦っている今、劇場が閉鎖、新作の公開が延期と悲しい知らせが飛び込んできます。この映画の公開を決断した理由の一つ、世界に飛び出したいと思っていた矢先でした。タイトルにもなっているクシナは未だ外の世界を知らない少女です。私たちが安心して外出できる頃には、きっとみなさんの心は改まった気持ちでいっぱいだと思います。ぜひ、その足で劇場にいらしてください。劇場で会える日が待ち遠しいです。
■郁美カデール(クシナ役) コメント
『クシナ』の撮影に参加した当時、私は9歳、小学4年生でした。ヘアメイクの林さんに誘われて撮影に参加する事になったのですが、お芝居は全くの未経験でした。当時の私は、映画の内容や役を全く理解していませんでした。スタッフや共演者の皆さんが遊んでくれたり、褒めてくれる事が嬉しくて、お菓子を貰う為に頑張っていた記憶があります。あれから4年が経ち、私はクシナと同じ歳になりました。今の私とクシナを重ね合わせると、複雑な気持ちになります。進路や将来について考える歳になったからこそ色々な事を考えさせられます。今思えばクシナは、9歳の私だったから演じる事が出来たのかもしれません。この映画を一人でも多くの人に観て頂き、一緒に多くの事を感じて貰えたら嬉しいです。
■廣田朋菜(カグウ役) コメント
一見とても不可思議な映画だなと観た人たちはどんな印象を持つのだろうと思いました。とても光栄なことに大阪アジアン映画祭とJAPAN CUTSにて対面して感想が聞けたことはとても貴重な体験でした。土地が違えども二つの上映で共通していたのは速水監督が描いた美しく偏った設定にうずうずし興味津々でした。そして監督や私たちの思惑と意図を新たな見解で臆せずぶつけてくれました。ああ、そうかこの映画はある意味私たちの手を離れたのかと嬉しくもあり、戸惑ったのを今でも覚えています。さて、また新たな地点に着きました。是非囚われず自由にこの映画を観て下さい。
『クシナ』
7月24日(金)より、アップリンク渋谷ほかロードショー
監督・脚本・編集・衣装・美術:速水萌巴
出演:郁美カデール 廣田朋菜 稲本弥生 小沼傑 佐伯美波 藤原絵里 鏑木悠利 尾形美香 紅露綾 藤井正子 うみゆし 奥居元雅 田村幸太 小野みゆき
配給:アルミード
【ストーリー】 深い山奥に人知れず存在する、女だけの“男子禁制”の村。村長である鬼熊“オニクマ”(小野みゆき)のみが、山を下りて、収穫した大麻を売り、村の女達が必要な品々を買って来ることで、28歳となった娘の鹿宮“カグウ”(廣田朋菜)と14歳のその娘・奇稲“クシナ”(郁美カデール)ら女達を守っていた。閉鎖的なコミュニティにはそこに根付いた強さや信仰があり、その元で暮らす人々を記録することで人間が美しいと証明したいと何度も山を探索してきた人類学者の風野蒼子(稲本弥生)と後輩・原田恵太(小沼傑)が、ある日、村を探し当てる。鬼熊“オニクマ”が、下山するための食糧の準備が整うまで二人の滞在を許したことで、それぞれが決断を迫られていく。
© ATELIER KUSHINA